第二話「反董卓連合・・・武と口弁の闘争」
【呉の陣営】
華琳「こうして会うのは初めてね。曹孟徳よ」
冥林「周瑜だ。一時とはいえ、連合を組むのだ。よろしく」
天幕にいるのは、この両者のみ。
華琳の方が小柄・・・というか、サイズが全体的に小さい・・・なのだが、威厳というオーラが冥林を押していた。
華琳「それにしても、袁術はさすが袁紹の従姉妹ね。あの面倒さは袁家全員に通ずるのかしら」
呉の陣営に入ってくる手前、まず袁術の陣を通過しなければならず、そこでだいぶ足止めを食らったそうだ。やれ「許可」だとか、「通行料」だとか、「蜂蜜水を持ってくるのじゃ!」とか・・・。
その話を聞いた冥林は、苦笑いを浮かべて心の中で同意した。
しかし、気は一切抜かない。
冥林「それで、何用で参ったのか? すまぬが、こちらとて暇ではないのでな」
華琳「そうね。独立に向けて考えを巡らせているだろうし、簡潔に済ますわ」
ピクっと眉を動かした冥林だが、すぐに平常心に戻す。
華琳「ぜひ、この機会に意見を聞きたくてね。天の御使いについてよ」
心の中で、以前 薫が襲われた事を思い返していた。
森で襲ってきた刺客は、華琳が元々薫の観察に送った工作員。
冥林達は推察の域で、それに気付いている。
冥林(あの刺客が曹操の指示によるものだと、私達が気付いていないと思っているのか? いや、そんなはずがない)
「・・・確か、北郷と言ったな」
秀才の頭脳であっても答えが見つからず、当たり障りのない言葉を吐いた。
が、華琳は自分から話題の核心に触れる。
華琳「そっちじゃないわよ・・・今回はこの場にいないのね、そちらの御使いは」
冥林「・・・なんのことだ?」
華琳「安心なさい。袁術に与する兵は、私の部下が黙らせたわ」
冥林「そうだとして、ここでお前と話す益がない。お引取りを願おう」
華琳「そう。ただこれだけは言っておくわ。私は覇道に従い、大陸統一を目指す。全ての障害は排除し、全てを手に入れるわ」
この言葉の裏に隠れている意味は何なのか?
冥林は表情に出さず、脳に血を巡らせた。至った答えは───
冥林(コイツ・・・薫を表舞台に出させたがっているのか)
薫は"天の血"という政治的な力を有している。
孫呉の未来のため、雪蓮や蓮華、そして家臣達にその血を入れようと決まった。
しかし、それだけではない。
天の御使いは、文字通り"天の御使い"。天の代行者としての"象徴"としても意味を成す。
今の一刀が"天の御使い"の"象徴"を振りかざしている。
冥林(しかし、北郷がいる限り、薫は表舞台に出すわけにはいかん)
天の御使いが複数人現れたとすれば、それだけで"信憑性"が低下する。
つまり効力を失う。
冥林の未来予想図では、劉備と北郷を亡きものにした後、薫には再び降り立った御使いとして表舞台に出てもらおうと考えていた。
"天は劉備ではなく、孫呉を選んだ"ということを大陸に広げるために。
冥林(そうさせないために、薫を襲ったのかもしれないな・・・やはり侮れない)
そして襲撃が失敗した次は、天の御使いの信憑性を下げさせるために薫を出そうとしている。
少しでも差を埋めるために。
華琳「どうしたのかしら?」
冥林「いや・・・もう満足か? これ以上、お前に付き合ってる暇は───
外が騒がしいが、腹の探りあいをする二人は気にしない。
しかし、天幕に突如入ってきた人物に、二人は驚きを隠せなかった・・・。
【桃花達の陣営】
愛紗「小覇王と謳われる孫策殿か。お噂はかねがね。それでご用件は?」
雪蓮「天の御使いとやらが、どういう人物か見にね・・・留守なのかしら?」
愛紗「申し訳ありません。ご主人様達は、まだ軍議から戻られておりません。お引取りを」
雪蓮「あら? 美髪公の関羽ともあろう者が、何をカッカしているのかしら?」
愛紗「そう勘付かれているのであれば、また後の機会にしていただきたい」
雪蓮「んー・・・」
雪蓮が何を考えているのか、蜀の陣営から立ち去ることなく立ち尽くす。
だが事態はすぐに動く。
愛紗を追いかけてきた鈴々がその場に到着すると同時に、雪蓮は剣を抜いた。
愛紗「なっ!?」
鈴々「にゃっ!?」
剣が引き抜いた瞬間、雪蓮から猛者しか感じ取れない殺気が、愛紗達の体を刺す。
すぐさま愛紗も青龍刀を構えようとしたが、それよりも神速の速さで雪蓮は剣を振り下ろしていた。
愛紗「くっ・・・!」
鈴々「愛紗っ!」
飛び退いて避けた愛紗に加勢しようと、鈴々も得物を構えた。
明命「させませんっ!」
鈴々の顔を狙った上段蹴りで、明命が割って入った。
下がった鈴々は苦虫を噛むように悔しがる。
鈴々「邪魔をするななのだー!」
明命「主の邪魔はさせませんよ」
鈴々が残像が現れるほどの突きを繰り出した。
しかし、明命はいなす事だけに集中し、時間を稼ぐ。
それを横目で確認した愛紗は、重い一撃一撃を受け止めていた。
愛紗「くっ・・・! なぜこんな事をする!? 我々は一時とはいえ、同じ目的を持った仲間なのだぞ!」
雪蓮「仲間だからこそ、お互いの実力を知っておかないと、っていう考え方も出来るけど?」
愛紗「だからと言って!」
横一閃に槍を薙ぐと、ようやく雪蓮が距離を開けてくれた。
そして次は愛紗が攻めに出て、攻守が交代する。
雪蓮「まぁ、私にとっては血がたぎる相手を見つけられればいいんだけどね!」
愛紗「江東の虎、孫堅の娘らしい言動だな!」
十数合打ち合ってもお互い退く事はない。
対して、鈴々の方は・・・
鈴々「にゃー! 避けるだけじゃなくて、そっちも打ってこいなのだー!」
明命(そんな重い一撃、受け止められません・・・)
一方的に鈴々が押しているようだが、明命は鈴々の攻撃を完全に見切っていた。
雛里「あわわっ・・・」
武人の戦闘に、雛里だけじゃなく回りの兵士は止めることはおろか、動けずにおろおろとしている。
徐々にヒートアップしていく状況を誰も止められない。
愛紗(このままでは、埓があかない。この一撃に───)
雪蓮(来るわね・・・いいわ、こちらも全力で───)
??「そこまでだっ!!」
愛紗「なっ!?」
愛紗の渾身の一撃が、横から入ってきた人物に受け止められた。
雪蓮の前にも、そして鈴々と明命の間に何者かが止めに入った。
愛紗「な、何者だっ!?」
翠「涼州の馬超だ。騒ぎを聞きつけて来たんだが」
雪蓮「あらら、邪魔されちゃった」
鶸「剣を、引いてくださいますか? 孫策殿」
雪蓮「はぁ、仕方がないわね。向こうも収まったようだし」
鈴々「むぅ~! 離すのだーっ!」
蒼「ケンカはだめですよ~」
鈴々は馬三姉妹の末っ子"馬鉄"・・・蒼に首根っこを掴まれている。
雪蓮の前に立ったのは、次女の"馬休"。真名を鶸。
そして長女の馬超・・・翠。
彼女たちは、近くに陣を張っており、騒ぎを聞きつけてやってきた。
翠「これから董卓を倒そうって時に、何してんだよ。内輪揉めはやめようぜ」
愛紗「これは孫策殿が───いや、所詮は言い訳だな」
手を出してきたのは雪蓮からの方だが、愛紗の中に武人としての闘争心が無かったといえば嘘になる。
その発言に愛紗に心の中で感服した雪蓮は、剣を鞘に収めた。
雪蓮「無駄に騒がせて悪かったわ。時間潰しのつもりだったけど、思ってたよりやるみたいだったから」
愛紗「出来れば、こういった場ではなく、戦場で決着をつけたいものだ」
雪蓮「ふふっ・・・御使いとやらは帰ってこないようだし、私は陣に戻る。楽しかったわよ、関羽」
去っていく雪蓮は、避けていく兵達の中心を歩く。
後ろに従える明命は、一度礼をして帰っていった。
翠「んじゃ、あたしらも帰るけど、これ以上問題は起こさないでくれよ・・・それと」
愛紗「な、なんだ?」
翠「あたしも強い奴には興味があるんだ。孫策だけじゃなく、あたしもあんたと決闘してみたいな」
鶸「翠姉さんっ! せっかく騒ぎが収まったのに、何を言っているんですか!?」
翠「あはは、わりぃわりぃ。そんじゃ、あたしらはこれで。蒼、帰るぞ!」
蒼「あー、待ってよお姉ちゃん、鶸ちゃ~ん!」
鈴々を降ろして、蒼は小走りで二人の後を追いかけていった。
解放された鈴々は、どうやら掴まれている間、蒼に子供扱いされたらしく、頬を膨らませてご機嫌斜めになっている。
愛紗「あれが、涼州の馬騰の娘・・・っ、皆、早く作業に戻れっ!」
野次馬と化した兵に、一喝すると蜘蛛の子が散るように準備に戻っていく。
そして、先ほどのことが嘘のように騒ぎが収まると、桃花達が帰ってきた。
桃花「愛紗ちゃん達、ただいま~!」
愛紗「桃花様っ、朱里っ! 一体、今までどこに?」
桃花「うん、ちょっとね。それと、さっそくだけど先鋒を任されちゃったから、雛里ちゃん、朱里ちゃんに詳しいことを聞いておいてね」
雛里「わ、分かりました」
朱里「了解です」
鈴々「・・・あれ? お兄ちゃんは?」
桃花「あっ、ご主人様は───」
【呉の陣営】
一刀「お邪魔するよ」
華琳・冥林「「なっ!?」」
天幕に入ってきたのは一刀だった。
護衛もつけず、そして前触れもなく現れた一刀に二人は驚きを隠せない。
冥林「何故お前が? 誰が許可だしたっ!?」
一刀「しっかり許可はもらったよ。袁術にだけど」
冥林「袁術、だと・・・?」
一刀「丁度、知り合いの養蜂家から美味しい蜂蜜をもらっててな、それあげたら通してくれたんだ。いや~、さすが袁紹さんの従姉妹さんだと思ったよ」
華林「私の兵はどうした!?」
一刀「ちゃんと袁術さん達が足止めしてくれてるよ。目がそっちに行ってるから、俺は簡単にここに来れたってわけ」
柔和な笑みを浮かべる一刀は、自然と二人の会話の輪に入っていく。
しかし、内心は緊張し過ぎて冷や汗をかいていた。
一刀(曹操さんがここに来ているって聞いて、予想はしていたけど、まさか周瑜さんと二人っきりでいるとは・・・しかも二人とも顔には出さないけど、オーラが半端ない!)
そして何よりこの状況で焦っているのは、華琳であった。
ここで一刀がいることは、華琳にとって不都合だからだ。
とは言っても、もう遅い。一刀は口を開いていた。
一刀「まぁ、ここに来たのは曹操さんに用があって来たんだけどさ。分かりますよね、曹操さん?」
華琳「相変わらず生意気ね。いいわ、その話は私の陣地で話すことにしましょう」
周瑜「いや、せっかくだ。私にも聞かせてもらおうか。御使いの話、興味がある」
華琳は明らかに嫌そうな顔をした。
それを一刀は見逃さない。
黄巾党の乱の際、強引に話を打ち切られた時のお返しと言わんばかりに、強きにこう発言した。
一刀「そうですね。せっかくですし、周瑜さんにも聞いてもらいましょう。ねぇ曹操さん?」
華琳「っ・・・ここで話すことは、あまり薦めないわよ。あなたにとって」
これはハッタリだ、と判断した一刀はその忠告は流した。
一刀「話というのは、以前に見せてくれたジャージについてです」
華琳・周瑜「「じゃーじ?」」
二人とも首をかしげた。
華琳は、圭吾の衣服が何という名前なのかを知らなかったが、すぐに何のことを指しているのか理解した。
一刀「俺がいた世界・・・天の世界って言えば分かりやすいですね。その世界にある衣服です」
周瑜「なんと! しかし、何故それを曹操殿が?」
わざとらしい言い方で話の続きを促す。
そして、かい摘んで一刀が答えると、冥林は何か納得したようで自然な笑みがこぼれた。
華琳はそれに気付いて、また顔を歪ませた。
華琳「・・・それで、話の続きは?」
一刀「あぁ、そうだった。そのジャージの色とか特徴を聞きたくて。あの服、種類が豊富だから気になっちゃって」
華琳「さぁ? 私もじっくり見てないから分からないわ。それじゃあ失礼するわ」
逃げるように天幕から華琳は出て行った。
一刀「・・・それでは俺も失礼します」
冥林「ああ、天の話を少しばかり聞けて、有意義な時間だったよ」
一刀「俺もですよ。まさか、"周瑜さんのところにも御使いがいる"ことが分かったんですから」
周瑜「っ!」
一刀
余裕を振りかざして一刀は天幕を出た。
周瑜「食えぬ奴だ・・・薫と大違いだ」
一刀SIDE
呉の陣地から出た一刀は、たった一人で自分たちの陣地に向かっていた。
あらゆる陣営の兵の視線がチクチクと刺さるが、一刀は気にしていない。
一刀(呉にも御使い・・・あのジャージの持ち主か? いや、三人目の御使いっていう可能性もある)
入るタイミングを伺ってたら、ちょうど周喩さんと曹操さんの会話が耳に入った。
三人目の御使い・・・。
愛紗「ご主人様!」
あらゆる可能性を思い浮かべながら歩いていると、前方から愛紗の声が。
一刀「あっ、愛紗! 迎えに来て、くれた・・・愛紗、さん?」
愛紗「何でしょうか、ご主人様?」
一刀「・・・怒ってらっしゃる?」
愛紗「そうですね。いつまで経っても帰ってこないと思ったら、他国の陣地に、しかもお一人でいらっしゃるのですから」
一刀「あ、あはは・・・」
愛紗「あなたは御自分の立場を分かっておられるのですかぁ!?」
一刀「ひぃ・・・」
そこから鬼の形相でお説教が始まった。
他国の兵たちが見てる前で・・・・・・
華琳SIDE
自分の陣地に戻ってきた華琳は、天幕に誰も近づけるな、と命じた春蘭を叱りつけた。
華琳「何故、北郷を天幕に通した!?」
春蘭「も、申し訳ありません! 袁術の兵が強引に北郷を通そうとしたので、我々が止めたのですが、そこに孫策の兵も加わり・・・」
華琳「騒ぎに乗じて、北郷は密かに天幕に、か」
となると、私達の会話も聞かれていた可能性がある。
くっ・・・気を張っていればすぐに気づけたはずなのに。
華琳「これで、策が一手潰されたわね・・・もういいわ、春蘭。兵の編成の続きをしてちょうだい」
春蘭「御意!」
春蘭を下がらせ、天幕の中で一人になった私は、"象徴"としても"血"としても役に立たない人物の今の状況を予想する。
華琳「さて、洛陽にはもう入ったかしら。アズマ」
閑散とする道に、黒ジャージにぼろぼろの毛布を纏う圭吾の姿があった。
圭吾「玉璽を盗めって言われてもなぁ・・・まずどうすりゃいいんだ?」
東 圭吾・・・洛陽に侵入。
馬三姉妹が登場しました!
蒲公英は涼州でお留守番です・・・。