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真・恋姫†無双~三人の御使い~  作者: 泣き虫
閑話
21/35

一話(蜀)「甘えベタの武骨者」

一刀「ふぁぁ・・・ねむっ」


黄巾の乱が平定し、俺達は公孫賛さんの所に身を寄せて、身と心を休めている。


愛紗「ハッ!」


鈴々「にゃぁーっ!!」


一刀「ん?」


城の渡り廊下を歩いていると、広場の方で愛紗と鈴々が打ち合いをしている。

二人とも愛用している本物の武器を使って───


一刀「待て待て待て!」


鈴々「あっ、お兄ちゃんなのだ!」


愛紗「ご主人様?」


慌てて駆け寄ると、二人は打ち合いを止めた。


一刀「二人とも危ないでしょ! 怪我でもしたらどうすんだよ!」


愛紗「ご主人様、お言葉ですが、我々はこの程度のことで怪我などいたしません」


鈴々「それに、鈴々なら愛紗の攻撃なんてちょちょいのちょいで避けて───


一刀「そういう問題じゃない!」


愛紗[ビクッ!?]

鈴々[ビクッ!?]


一刀「二人とも強いのは知ってるよ。だけど、万が一の事があったらどうするんだ!」


愛紗「・・・」

鈴々「・・・」


二人は目を見合わせている。

たぶん、俺と出会うまでは当たり前にしてたことなんだろう。


愛紗「も、申し訳ありません」


鈴々「ごめんなさい、なのだ」


一刀「ちゃんと模擬刀があるんだから、そっちを使いなさい。男としては情けないけど、二人の事頼りにしてるんだから」


そう言って、頭を下げる二人の頭を撫でる。

「にゃはは」と鈴々は気持ちよさそうだが、愛紗は恥ずかしそうに俯いてしまった。


愛紗「ご、ご主人様。お気遣いは嬉しいのですが、あまり、その・・・子供扱いは」


一刀「ああ、ごめん」


スっと愛紗の頭から手を離すと、愛紗は一礼して立ち去る。


鈴々「あ、愛紗? 鈴々を置いていくななのだー!」


それに付いていくように、鈴々も立ち去った。

すると、どこからか「ふむふむ」と声が聞こえる。

だが、周りを見渡しても誰もいない。


星「主、上ですぞ」


一刀「上?・・・ああ、星か」


星は木に登り、幹に座り込んでお酒をちびちび飲んでいた。


星「反応が薄いですな。せっかく気配を消して、朝酒を楽しんでいたというのに」


一刀「朝から飲むの身体に悪いんじゃない?」


星「そうでもありせぬぞ・・・よっと。よろしければ、御一緒にどうかな?」


木から降りた星の手には、二つ目のおちょこがある。

時代は違えど、未成年なので丁重に断った。


一刀「っていうか、最初から居たんなら二人を止めてくれよ」


星「私は主のように過保護ではありません。それに、二人はかなりの手練ですので、余計な心配なのでは?」


一刀「そういう油断がいけないんだ」


星「では、私が愛紗達のように同じことをしてくれたら、心配してくださるのかな?」


一刀「当たり前だろ」


間髪入れずにそう言うと、星は一瞬驚いたが、すぐに素に戻った。


星「はははっ。愛紗達が主を気に入るのも、分かった気がする。しかし鈴々の方は気にしていなかったようだが、愛紗はあの様子だと叱られたことを引きずっているようでしたよ」


一刀「え? まじか・・・別に叱ったつもりはなかったんだけど」


星「早く行ってくだされ。家臣を気にかけるのは、主君の役目ですぞ」


一刀「あ、ああ。ありがとな、星」









星「まったく、変な御方だ」


今更、顔が熱くなる。

ここに鏡があれば、耳まで真っ赤にしている自分の顔を見れただろう。


星「ふむ、殿方に心配されるのも・・・悪くない」









確かに、愛紗の様子はおかしかった。

どこか申し訳なさそうな感じだったから、星の言ったことは正しいのかも。

城内を走り回ったけど見当たらない。もしかしたら、あそこの木の木陰に・・・


一刀「あれ? 朱里、雛里?」


朱里「はわっ!?」 雛里「あわわっ・・・!?」


二人くっついて何かを読んでいたようだけど、すぐに後ろに隠されてタイトルが見えなかった。

・・・見えたとしても、読めないけど。


一刀「二人でお勉強? 努力家だなぁ」


朱里「は、はい! そうなんです! お勉強なんです! ね? 雛里ちゃん!」


雛里 [フゥ~]


朱里「雛里ちゃん!?」


一刀「ど、どした!? 魂が出てるぞ!」


朱里「まだバレた訳じゃないんだよ! 私達が艶本を活用して房中術を学んでいるなんて!」


気を失っている雛里の肩を揺さぶる朱里が、

洗いざらい吐いてくれた。

軍師としてはあるまじき事だけど、可愛いから許す!


一刀「おーい、墓穴ほってるぞ~」


朱里「ふぇ?・・・はわわっ!?[キュュ~]」


あっ、朱里も倒れた。

目の前で、顔真っ赤にして魂が抜けているふたりの少女が、"伏竜鳳雛"と称された軍師だと言われても、やっぱり信用できないよな~。


一刀「そんなことよりどうしよう? この二人を置いていくわけには行かないし・・・とりあえず、部屋まで運ぶか」


小柄な少女二人ぐらい、持ち上げてみせるさ。

女の子相手に失礼だけど、両脇に二人を抱えた。


[バサッ]


一刀「ん? これ、さっき朱里が隠したやつ」


どうせ俺の学力じゃまだ読めない代物だ。艶本とはいえ、読めなければ意味がない。

今度、本格的に愛紗から教えてもらおっかな・・・あぁいや、厳しいからやめよ。

二人を抱えたまま、その本も拾って朱里の部屋に運んだ。


一刀「この本は・・・とりあえず、机の上に置いておくか」


朱里・雛里「「すぅ、すぅ・・・」」


気付けば、居心地のいいベットの上で寝息をたて始めた二人。

微笑ましい二人に笑みを零しながら、俺は部屋を出た。


鈴々「あっ、お兄ちゃんなのだ!」


部屋から出てくると、鈴々と遭遇した。

鈴々の額には少し汗が滲んでいて、先ほどまで走ってたのだろうか?


一刀「そうだ、鈴々。愛紗を知らないか?」


鈴々「鈴々も探しているのだ。鍛錬の続きをしようと思ったのに、どっかに行ってしまったのだ!」


何でも、お互いの武器をしまい、いざ続きをしようと思っていた鈴々に、愛紗が「すまない、今日はもう終わりだ」と言い残して、部屋を出て行ったらしい。

様子がおかしかったから、気になって鈴々も探していたところ。


鈴々「それで、朱里のところにいると思ったんだけど・・・」


一刀「愛紗はいなかったよ」


鈴々「ぅ~・・・愛紗はどこに行ったのだぁ!?」


耳がつんざくほど大きな声。

うるうると目頭に涙が溜まっている。

鈴々は、いつも元気で走り回っているイメージだけど、それは誰かに構ってほしくて仕方がないところにある。

いつも傍にいた愛紗に構ってもらえなくて、悲しいんだよな・・・。


一刀「ほらほら、泣かない泣かない。もしかしたら、城下町の方に行ってるのかもしれない。行ってみよう?」


鈴々「・・・うん」


二人並んで自然と手をつなぐ。

鈴々は手を握られて一瞬驚いたけど、すぐににんまりと笑った。

城下町まで降りると、道行く民たちが挨拶をかけてくれた。


店主「あっ、御使い様に張飛様! 今日は食べていかないですかい?」 


一刀「ちょっと人探ししてるんだ。また来るよ」


婆さん「おやおや、これは御使い様。この前の"まっさーじ"のおかげで、体の凝りがすっかりよくなりましたわ」


一刀「また必要だったら言ってください。それじゃあ、急いでいるんで」


こんな感じで挨拶を繰り返していくと、鈴々がなぜか上機嫌になっていった。


鈴々「みんなから、うやまわれてるのだ! さすが、鈴々のお兄ちゃんなのだ」


難しい言葉を使いたがるのは、背伸びをしたいお年頃ってことかな?

だけど、元気になってよかった。


鈴々「あっ! 桃花お姉ちゃんなのだぁ!」


元気になりすぎて、大好きなお姉ちゃんを見つけた途端、俺を置いて走っていく。

その大好きな桃花は、民の子供達に囲まれてワイワイしていた。


桃花「ご主人様!」


男の子「御使い様だぁ!」


女の子「御使い様、あそんでぇ!」


近づくと、俺も子供達に囲まれてしまった。

鈴々を見ると、「鈴々について来るのだ!」と子供を何人かを引き連れて、どこかに走り去っていった。

おーい、愛紗のことはもういいのかぁ?・・・まぁ、いっか。


桃花「なんでご主人様がここに?」


一刀「ちょっと愛紗を───おいおい、引っ張るなよ~。今、お兄さん忙しいんだ。ごめんね」


男の子「「「え~!」」」


桃花「愛紗ちゃんがどうかしたの? さっき通りかかったけど」


一刀「どっちに行った?」


桃花「えっと、離れの方に・・・ご主人様、愛紗ちゃんに酷い事したんだ」


ジト目で見てくる桃花。

桃花も、愛紗の異変に気付いていたようだ。


一刀「酷いというか、何というか・・・色々あって」


桃花「はぁ・・・早く行ってあげて。愛紗ちゃん、一人で抱え込んじゃうから。ほらほら! お兄さんは忙しいから通してあげて!」


「はーい!」と行儀よく手をあげて、道を開けてくれた。

お礼を言いながら、俺は離れのほうまで走る。


一刀「はぁ、はぁ・・・あっ!」


小川の流れる場所まで来ると、見覚えのある黒髪が見えた。

愛紗は石垣から乗り出して、川を覗きこんでいる。

距離が一メートルを切ったというのに、愛紗は俺に気づかない。

こういう時って、ついつい脅かしてみたくなるんだよね・・・


一刀「あ~いしゃっ」


愛紗「うひゃぁっ!?」


突然、後ろから声をかけられて石垣についていた手がずるっと滑った。


一刀「危ないっ!」


愛紗の腹に腕を回し、身体を抱え込んで持ち上げる。

意外と軽い、と心のなかで感想を述べていると、何が起こったか整理できていない愛紗が、こちらに首を回した。

ボンっと顔が真っ赤になった。


愛紗「ご、ごごごごご、ご主人様!?」


一刀「脅かしてごめんね。全然、気付かなかったもんだから」


愛紗「い、いいいえ! あ、ありがとうございます・・・その、降ろしていただけませんか?」


一刀「あっ、そだね」


降ろしてあげると、愛紗はすぐに俺から距離を取った。

う~ん、やっぱりさっきの事を引きずってるのかも・・・。


愛紗「・・・それで何用ですか?」


一刀「さっきの鍛錬でさ、愛紗が何か引きずってるようだったから。解消しに来た」


愛紗「わ、私は別に」


今見れば、星の言っていたことが分かる。


一刀「俺が真剣を使うなって言ったから? それで「武人である私を舐めないでいただきたい!」って感じで、川に向かって俺の顔を思い浮かべながらぐちぐちと罵声や怒声を浴びせて───


愛紗「ま、待ってください! 私は別にそのような事を致してません! 加えて、ご主人様のことを思い浮かべていたとはいえ、そんな恐れ多い───っは!?」


一刀「お、思い浮かべてはいたんだ・・・」


愛紗「~~~」


気まずい空気が流れる。

愛紗はもじもじと顔を真っ赤にさせて、その様子が俺の動悸を激しくさせた。


一刀「で、どうしたの?」


愛紗「・・・その」


力ない声。

俯きながら愛紗は口を開いた。


愛紗「ご主人様がご心配していただけることは嬉しいのですが、それに甘んじていたい自分が許せなく」


一刀「? どして?」


愛紗「私は武人です! 主をお守りする剣と盾であり、主に甘えようとするなどと───


自論を述べている最中の愛紗の両肩に、俺は手を置いた。


愛紗「っ、ご、ご主人様・・・? す、すみません! 甘えたいなどと、口にするだけでも恐れ多い───


一刀「ぜひ甘えて来てください!」


愛紗「───は?」


一刀「思いっきり甘えて来てください!」


愛紗「・・・」


絶句している愛紗を気にせず、俺は鼻息を荒くした。

だって、いつも口うるさくて厳しい愛紗が、こう擦り寄ってこられるのを想像すると・・・

うん! すごくいい!


愛紗「え、えっと私の話、聞いていましたか? 私は武人であって」


一刀「関係ないね! そのギャップがいいんじゃないか!」


愛紗「ぎゃ、ぎゃっぷ・・・?」


一刀「さぁ! 俺の胸に飛び込んで来るがいい!」


愛紗「い、いや、来るがいいって言われてもですね・・・」


一刀「ん? それもそうだな。悪い、興奮しちゃった」


愛紗「いえ・・・その、ご主人様がお許しになっても、私は武人の誇りがあります」


一刀「じゃあ、武人じゃないときにだな」


愛紗「は?」


一刀「こういう平和な時ぐらい、戦なんて忘れて、さっ」


愛紗「きゃっ!?」


肩に手を回して引き寄せる。

いとも簡単に愛紗の体は、俺と密着する。


愛紗「あ・・・ぁ・・・・あ・・」


口をパクパクしながら、愛紗の頭から煙が出た・・・ように見えた。

これで少しは素直になってくれるかな・・・そして、当たりが柔らかくなってくれないかな。


桃花「ご主人様ー! 愛紗ちゃーん!」


愛紗「と、桃花様!?」


一刀「おー桃花!・・・あれ? なんか子供増えてね?」


桃花「あはは~。水遊びしよーって声かけたら、こんなに増えちゃって。そうだ! せっかくだし、ご主人様も愛紗ちゃんも一緒に遊ぼうよ。その様子だと、ご主人様の用事は終わったぽいし」


一刀「よっし! じゃあ張り切って遊ぶかぁ!」


愛紗「ご、ご主人様! 私は───


鈴々「鈴々を仲間はずれにするななのだー!」


愛紗「り、鈴々!?」


どーんっと愛紗の腰に抱きついた鈴々。


鈴々「もちろん愛紗がいないとダメなのだ!」


愛紗「・・・はぁ。分かった分かった。だが、今日限りだぞ」


桃花「よかったわねぇ、関羽お姉ちゃんも遊んでくれるって」


鈴々「わーいなのだ!」

子供達「「「わーい!」」」


愛紗「こら、まずは整列!」


子供と遊ぶときも将軍気質が出る愛紗を、俺は頬が緩んでいた。

今日も俺達はわいわいがやがやと、平和な一日だった・・・
















一刀「はぁ、ちょっと強引すぎたかなぁ・・・」


愛紗の肩を抱いたこと、今更になって恥ずかしく、なかなか寝付けなかった。

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