第四話「千尋の谷へ突き落としてこそ、子は成長する」
魏編第三話、訂正しました。
この時代、普通にガラスは存在してました。申し訳ございません。
雪蓮SIDE
雪蓮「明命に穏・・・今のところ残すのは、蓮華と思春ね」
冥林「案外早かったな。いや、南条の人柄ゆえか」
雪蓮「果たして蓮華と思春にその人柄が通用するかな? 見ものよね!」
冥林「雪蓮、あまり南条でからかうな。ああ見えて根に持つぞ、あいつは」
雪蓮「へ~。冥林もなんだかんだで薫のこと見てるのね」
冥林「ああ見てるとも。この前、お前が城の秘蔵の酒を盗み出したことを、こっそり教えてくれたからな」
雪蓮「ぇ・・・ナンノコト?」
冥林「私はただ世間話をするために、お前の部屋に尋ねてきたわけではない・・・分かるな、雪蓮?」
雪蓮「・・・はい。ごめんなさい」
祭「おい、南条! はよう酌をせんか!」
薫「ちょ、ちょっと祭さん、急に呼び出したかと思えば、これですか・・・」
読み書きの特訓で絵本を呼んでいる最中だったのに。
祭さんは酒瓶片手に僕の手を引いて、城近くで梅が点々と咲くところに連れてこられた。
どうやら、祭さんの隠れスポットらしい。
薫「祭さん、警邏の担当じゃありませんでしたか?
祭「そんなもん酒を飲んでいてもやれる」
薫「いや、明らかにやってませんよね! サボってますよね!」
祭「うるさいのう。細かいことを気になる男は、嫌われるぞ」
薫「細かいとかじゃなくて───はぁ、冥林さんに怒られても知りませんよ」
祭「ハッ! 儂はその冥林に手ほどきをしてやったことがある。その儂が冥林を恐れるわけあるまい」
本当かな・・・と思いつつ、祭さんが持つおちょこに酒を注ぐ。
匂いでわかる。これ、めちゃくちゃ強い酒だ。
それを飲み干して、二杯、三杯・・・と飲み続ける祭さんは、雪蓮さんにならぶ酒豪だということを再認識した。
祭「どうじゃ、南条。ここの生活にも慣れたか?」
薫「まだまだです。ただ、やっていける自信はついてきています」
祭「そうかそうか、それは何よりじゃ・・・もう誰か抱いたか?」
薫「ブッ!? きゅ、急に何を言うんですかっ!?」
祭「なんじゃ、まだなのか。穏とよく二人っきりになっていると聞いておったから、もうやったのかと」
薫「違います! 穏さんとは特訓してるんです!」
祭「特訓じゃと? あー、あれか。それなのにやっていないとは、それでもお主は男か?」
祭さんのお酒の進みが早くなり、僕はため息をつきながら注ぎ続ける。
祭「穏は少々癖があるが、良い女だと思うんじゃが。何か不満でもあるのか?」
薫「いや、不満とかじゃなくて・・・お互いの気持ちが大切というか」
祭「気の小さい男じゃの。まぁ、策殿は強引な行為に反対しておったし、お主の好きにせい」
だったら、最初から変なこと言わないでほしかった・・・。
いつの間にか酒も底をつき、祭さんは芝生の上に寝転がった。
祭「ふぅ」
薫「ふぅじゃないですよ! 警邏はどうするんですか、警邏は!?」
ふて寝を決め込もうとする祭さんの肩を揺する。
だが、寝返りを打って逃げようとする。僕は意地になって強めに肩を揺すったら、
祭「ええい、しつこい!」
薫「ぃっ!?」
ゲンコツを喰らった。
頭蓋骨が割れるぐらいの力だ・・・。
祭「せっかく心地よかったのに台無しじゃ」
薫「祭さんがサボろうとするからでしょう・・・いてて。どうしてそんなに警邏に出たくないんですか? 城下町に行けない理由が?」
祭「むぅ・・・」
薫「はぁ、分かりました。もう諦めます」
頑なに動こうとしない祭さんの横に、僕も寝転んで空を見上げる。
梅の花の隙間から見える空は、僕がいた世界と変わらない。
薫「祭さん」
祭「なんじゃ?」
薫「また戦いに行くんですよね」
祭「そうじゃ。呉の繁栄のためにな。まだ受け入れられんか」
薫「ええ、まぁ」
黄巾の乱の際、一緒に戦場へ行くかと誘われたが、僕は断った。
部屋から、ボロボロになって帰ってきた兵士の姿を直視できなかった僕が、本物の戦争を見たら正気を保てないと思ったからだ。
まだこの世界と向き合えていない。
祭「いずれお主は、策殿と並んで先頭に立たねばならん。今はその時ではないがな」
薫「・・・」
祭「はぁ、辛気臭い顔をするな」
黙ってしまった僕を見下ろすように、祭さんは上体を起こした。
祭「よし。儂が鍛えてやろう!」
薫「はい? 急にどうしたんですか?」
祭「策殿と並ぶためには南条は軟弱すぎる。来るべき時まで儂が面倒を見てやろうと言うのだ。ほら行くぞ!」
薫「え? い、今からですか!?」
祭「当たり前じゃ! 穏のこともあるだろうが、みっちり叩き込んでやるからな」
薫「ひ、引っ張らないでくださいっ! 自分で歩けますからぁ!」
蓮華SIDE
蓮華「祭が!?」
思春「はい。あの者を連れて、城から出ました。おそらく"あの森"に向かったのかと」
蓮華「この事を冥林は───知らないわよね。絶対止めているはずだもの」
思春「どうされますか? 祭様のことなのでヘマをすることはないかと思いますが」
蓮華「そうね・・・私、少し様子を見に行くわ」
思春「ならば、私も一緒に───
蓮華「様子を見に行くだけだから、私一人で大丈夫。それに思春はこのあと任務があるでしょ?」
思春「そうですが・・・」
蓮華「私だって"あの森"で母様に鍛えられたから。安心して」
思春「・・・分かりました。では、雪蓮様に報告があるので失礼します」
蓮華「ええ、ありがとう」
さて、急いで準備をしないと見失ってしまう。
祭のことだからどうせ───
薫「うわぁあああっ!?!?」
何も告げられずに外に連れてこられた僕は、たった今、祭さんに崖から落とされた。
下が茂みでなければ、確実に死んでいた・・・。
薫「な、何をするんですか!? 殺す気ですかぁ!」
祭「この程度で死んだら、この先乗り越えられんぞ! 日没前には迎えにくる」
薫「ちょっと待ってください! これから僕は何をすれば・・・行っちゃった」
儂が鍛えてやる、とか言ってたくせに。
まさか、ライオンの子離れみたいなことさせられるなんて。
[ぐぅぅ・・・]
薫「お腹すいた」
とりあえず、何か食べれそうなものと休める場所を探さないと。
[・・・]
薫「っ!?」
一歩踏み出したところで、鋭い視線に気付く。
おそるおそる後ろを振り向くと、そこには1頭のクマが・・・
薫(あっ、死んだかも・・・)
訂正がございましたので、早めの投稿となりました。
ストックの余裕があるので、明後日の月曜日には通常通り投稿しようと思っております。