第四話「友達は大事に」
投稿は一週間おき、又は二週間おきにしたいと思います。
諸事情により前後する可能性はあります。
流琉「あの~、どうかしましたか?」
背中を壁に預けて座り込んでいた俺に声をかけてきた天使。
そして、その後ろで大きな紙袋を抱えている天使。
その天使達は、心配そうに俺のことを伺っている。
圭吾「ちょっと、な。疲れちまって」
と返した時、ぐぅ~っとお腹が鳴った。
季衣「兄ちゃん、お腹空いてるの?」
圭吾「まぁな」
ここ毎日、ロクなもん食ってないからな・・・。
すると、大きな紙袋を持つ天使の方が、ほくほくの肉まんを俺に差し出す。
季衣「あげる」
圭吾「いや、これってお前らの───」
季衣「困ってる人をほってけないよ。流琉もいいよね?」
流琉「うん。たくさん買っていますから、気にせず食べてください」
流琉と呼ばれた少女も、自分が抱えている紙袋から次は"桃まん"が出てきた。
流琉「それとも、最近出た新作のこの───ど、どうして泣いてるんですか!?」
今年で17歳の男児が、惨めにも無垢な少女達の気遣いだけで泣いてしまった。
この世界に来て、俺は初めて優しくされたのだ。
圭吾「いや、すまん・・・でも、それはお前達が食べなさい。育ち盛りなんだから」
流琉「え、でも───」
子供相手の食い物をもらうのは、何か高校生として情けなくなった俺は、気遣いを受け取らず、その場を立ち去ることにする。
だが、
季衣「ちょっと待ってよ!」
圭吾「おわっ!?」
紙袋を抱える逆の手で、俺のジャージが引っ張られる。
その力は、子供とは思えないほど強く、空腹も加わって俺は簡単に尻餅をついた。
流琉「何してるの、季衣! 大丈夫ですか?」
圭吾「あ、ああ、大丈bむぐっ!?」
振り返って受け答えする俺の口に、季衣と呼ばれる少女が肉まんを押し込んだ。
その力も強すぎて、殆ど噛まずに喉を通過していった。
圭吾「───ゴホッゴホッ」
流琉「季衣!!」
季衣「だってぇ」
彼女なりの優しさなのだろう、と俺は察したが、あまりにも強引すぎるやり方に、流琉と呼ばれる少女は説教モードに移行した。
彼女たちは幼少期からの知り合いのようで、小言の内容がどんどん過去に流れていく。
流琉「だいたい季衣は昔から───」
季衣「流琉はいつだって───」
流琉「なによ!?」
季衣「なんだよ!?」
圭吾「まぁまぁまぁまぁ!!」
子供のケンカに口出すのもどうかと思うが、表通りからの野次馬が増えてきたため、仲裁に入ることにした。
二人の肩を押して距離を取らせて、お互いが視界に入らないように間に入る。
圭吾「しっかり好意を受け取らなかったお兄さんが悪かった! だからな、ケンカをやめて仲良く肉まん食おう! な? な?」
季衣・流琉「「・・・ふんっ」」
二人の背中を押して、とりあえずここから離れる。
その間も二人は頬を膨らませたまま、お互いを見向きもしなかった。
しばらく歩いて気づいてみれば、町並みから離れた小川の流れる所まで来ていた。
圭吾「こんな所があるんだなぁ・・・ほら、そこの岩に座って食べようぜ」
いつの間にか俺が代わりに持っていた二つの紙袋から、肉まんと桃まんを二人に渡す。
無言で受け取り、二人は静かに食べ始めた。
だんだんと怒りの感情が収まっていき、二人はどのタイミングで声をかけようか迷っている。
圭吾「・・・二人は昔からの知り合いなのか?」
流琉「え、ええ」
季衣「親同士が仲良しで、小さい頃から一緒で・・・もう親はいないけど」
あっ、地雷踏んだ・・・。
季衣「でも何とか二人で生活して、今は───」
圭吾「いや、すまなかった! 聞いた俺が悪かったから、その話から離れよう!」
季衣「???」
この子達は、見た目とは裏腹に壮絶な人生を歩んできたんだろう。
それがこの世界の常識なのか・・・。前の世界で生きてきた俺には、とても受け止めきれない。
季衣「そういえば、兄ちゃんはどうしてあんなとこにいたの?」
圭吾「えっと・・・ちょっと他人家で厄介になっててな。嫌になって、抜け出してきた」
流琉「雇われていたんですか? じゃあ、抜け出したらマズイんじゃ」
圭吾「三日三晩も虫の死骸を出されるくらいなら、そいつらと鬼ごっこした方が気が楽だよ」
季衣「何そいつ! そんな酷い事する奴、僕がやっつけてやる!」
桂花「[ブルッ]・・・な、なに、今の?」
圭吾「あんがとよ。んじゃ、もう俺が間にいなくても大丈夫だな」
季衣・流琉「あっ」
二人はそこで顔を合わせて、再び俺の方に向いた。
三人して笑い合うと、二人に紙袋を返す。
圭吾「友達は大切にしろよ。ケンカはいけないことじゃないが、"俺みたいに"友達を失うことは辛いぞ」
我ながら格好いいセリフを言った俺は、若干恥ずかしながらその場を後にした。
季衣「変わった人だったね」
流琉「そうだね。服も見たことなかったし」
季衣「・・・」
流琉「・・・季衣、ごめんね」
季衣「ううん。僕の方こそ」
二人で顔を合わせると、ぷっと吹き出して張り詰めていた空気が柔らかくなった。
流琉「じゃあ、帰ろっか!」
季衣「うん!」
お互いに紙袋を抱え、空いた手で手を繋ぐ。
その様子を離れた岩陰から見守っていた圭吾も、静かにそこから去った。
のだが、
圭吾「あー・・・裸足辛い・・・」
城のあった町から脱出した俺は、森に入って方角も決まらぬまま走っていた。
近くに同じように町があればいいんだけど・・・。
圭吾「それだけあの子達に聞いときゃよかった・・・。何真面目に、良いお兄さんやってたんだか」
後悔しても仕方がない。
ヌカるんだ土に足を取られつつも、走り続けた。
そうして1時間近く進んでいると・・・。
圭吾「あ、あった・・・」
それなりに大きな村がそこにあった。
村は四つの門で固く閉ざされ、囲うように木材が3メートルぐらいの高さまで積み上げられている。
その一つの門に近づくと、門の上に設置された見張り台から村人が声をかけてきた。
村人1男「おめぇさん、まさか追い剥ぎにあったのかー?」
圭吾「あ?」
村人1男「最近、ここの辺りにも黄巾党って奴らが暴れまわっていてな。とりあえず入りな」
良心的な村人は、中にいる仲間に合図を送って俺を中に入れてくれた。
入るとすぐに左右に閑散とした露天が並ぶ。
村人2男「大変だったな。ほれ、飯は出せんが水くらい飲みな」
圭吾「いや、俺は・・・」
そこで否定しようと思ったが、このままの方が面倒にならないと思い黙った。
水の入った竹筒を頂き、村の中心部へその村人と歩き出す。
村の入口は露店が並んでいたのに、中心に近づくほど建物が減っていく。
外部から人間に目を向けた商売でもしてんのかね・・・?
村人2男「逃げてきたところ申し訳ないが、手を貸してくれないか。男手が足りないんだ」
圭吾「その黄巾党とやらの対策のため、か?」
村人2男「ああ。前までは反抗したら殺されると思って耐えてきたんだが、あの"三人組"が指揮して何回か撃退してるんだ」
村人が差す方向には、一風変わった服装の女性三人がいた。
・・・いや、服装に関しては、俺も他人のことは言えないけど。
村人2男「とりあえず、やる事はあの人達から聞いてくれ。んじゃ、俺は持ち場に戻っから」
圭吾「あっ、おい!」
あいつらに聞けって言われても、ねぇ。
真桜「おい、そこのあんさん!」
圭吾「あん?」
真桜「人手が足りんつうのに、何ぼーっと立ってんねん! さっさと手伝いせんかい!」
圭吾「は? いや、俺は───」
真桜「ほれ! 時間がないねん、頼むでほんま」
背中をバシッと叩かれ、巨乳の姉ちゃんは離れていく。
どうやら、相当切羽詰まってるようだった。
立ち去ることが出来ず、、渋々と渡された木箱を指定された場所に持って行くことにした。