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公爵令嬢はビジネスマナー(EQ)スキルで無双する~知らんけどが口癖の関西人ヒロインをバディに、異世界コンサルはじめます~  作者: 高瀬 八鳳


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3/3

何はともあれ、現状把握

 屋敷へ戻った私は、自室へ閉じこもる。

 家族との夕食を断り、ひたすら現状把握に取り組んだ。


 とりあえず、情報の棚卸の為に、わかっている事を紙に片っ端から書いていく。


 この国は、いわゆる王制国家だ。前世で学んだ、中世ヨーロッパに似ていると思う。だが、勿論、全く同じではないだろう。

 表向きには、国王が絶対的な権力を持つ。

 現実には、国王や王家を、主に3つの公爵家、その下に5つの侯爵家、7つの伯爵が支えている。子爵、男爵以下の爵位の人達は、財力はあっても権力はない。つまり、公爵、侯爵、伯爵は、まあまあな発言権があると言えよう。


 まあ、京都で例えるなら、公爵家は1000年近く続いている老舗、侯爵家は500年レベル、伯爵家は300年といったところか。


 この国の簡単な地図と、権力相関図を描いたら、次は自分の家だ。

 ファミリーツリーっぽく、家系図を描く。


 リーシェント公爵は、その3つの公爵家のなかでも、財力、軍事力、領地面積ともに最大規模だ。先祖代々、大地主であり、国王を守る盾であり、また暴走しそうな王族を諫め、下の貴族をまとめる役割をはたしてきた。

 リーシェント家本家の構成員は、厳格な祖父母と、家を誇りに思っている両親と、その後を継ぐにはもうひとつ頼りない兄のウィリアム、そしてまだ10歳の双子、妹のルナと弟のノアだ。


 今のところ、我が家門は王家、親族ともに友好な関係を築いており、他の家門ともそれなりに仲良くやっている。

 この国も、周囲の国や帝国と、今のところ揉める要素はない。平和な状態だ。つまり、私は安心して、自分の事業に邁進できそうだ。


 と、順調に描いてきたが、自分の婚約者のところで手がとまった。


 んーー、障害になるといえば、私の婚約者かしら。一応、第二王子だものね。第一王子は誰からも好感度高く、人気がある。よっぽどの事がない限り、第二王子が国王となり、つまり私が王妃になる可能性はない。

 そんな大変な地位につきたくはないから、婚約者が第二王子でまったく不服はない。ただ、幼少期からの付き合いであるが、正直未だによくわからない男なのよね。確かに、互いに立場があるので、本音で話したことはない。だが、こんなに顔をあわせながら、中身が見えない人間がいるものだろうか?


 まあ、でも学園生活は後2年近くあるし。卒業までは、結婚のことは一時保留にしておきましょう。 お次は、事業計画書のたたき台……の前に。

 前世の私のプロフィールよね。今、記憶がクリアで心がやる気で燃えている今のうちに、しっかり記録しておかないと。


 ふと、鏡に自分を映してみる。

 黒髪は前世と同じ。でも見た目は全く違う。

 黒曜石のような煌めきのある艶髪、薄い紫色に輝く瞳。

 欧米人のような彫の深い顔に、すらっとした手足。

 知的で、自信に満ちた強者のオーラが半端ない。


「控えめに言っても、私ってものすごい美人さんじゃない?」

「相変わらず、自意識過剰でいらっしゃいますね」

「……ドット、黙って入ってくるのはやめてといつも言っているでしょう?」


 び、ビックリしたわ。自分一人だと思ってたので、驚きのあまり心臓が飛び出そうになったけど、淑女教育の賜物ね。前世の私だったら、さすがに叫び声あげてるわ。


 振り向くと、音もなく部屋に入って来た専属メイドのドットが、夜食をテーブルの上に運んでいた。


 子どもの頃から世話になっているこのお姉さんメイドは、二人きりの時には忌憚ない意見を吐く、貴重な人材だ。


「食に並々ならぬ執着をお持ちのお嬢様が夕食を抜かれるなど、様子がおかしいと心配でしたが、いつも通りの安定のナルシストぶりで安心いたしました」


 ドットがいつもの澄ました顔で、そう言って私の方に顔を向けた。

 私もいつものように、気軽に言い返す。


「そんな食い意地のはった自分大好き人間みたいに言うのはやめてちょうだい」

「実際、食い意地はとてもはっていらっしゃいますよ。私だけでなく、屋敷のメイドはみな、そう言うと思います。まあ、自分大好き人間なのは血筋ですね」

「もう、ドットったら」

「今度は何の研究に夢中になられているのか存じませんが、お茶が温かいうちに召し上がってください。お嬢様のお好きな、卵サンドとイチゴジャムサンドもありますよ」

「あらあら、ありがとう。さすが、ドット。では、休憩がてらいただこうかしら」

「どうぞ。入浴は明日の朝で予定するよう担当者に伝えておきますね。では失礼します」

「ええ、そうしてちょうだい。ありがとう」


 さすが、15年共に過ごしてきたメイドだ。痒い所に手が届く対応が素晴らしいわ。あらためて、ドットは出来るメイドだと感心した。

 前世の記憶が戻ったという私の異変には気づかなかったみたい。よかったよかった。


「んーー、美味しい! やっぱり、美味しいもの食べると、やる気でるわね!」


 有り難いこの環境に感謝しながら、夜食をむしゃむしゃ食べた私は、精力的に自身の過去の経歴と野望についての簡単なアイデアだしを書き散らかしていくのだった。


***


 アイリーンはひと悶着の後、平民街にある自宅へ戻った。両親は小さな食堂を切り盛りしている。弟二人はまだ遊びたい盛りなので、授業の後はいつもアイリーンが店を手伝っている。汚れてもいいロング丈のワンピースに着替えてから、店の出入り口に向かった。


「ただいまーー。遅くなっちゃってごめん」


「おかえり、アイリーン。何かあったのかい?大丈夫?」


「うん、ちょっとね。あれ、父さんは?」


「父さんは、リヒトさんの所に行ってるよ」


「そうか、今日は宿の基礎工事の見学日だったね。どんなふうなんだろ?」


「あんたがヒューイット君に話した『ホテル』とやらのアイデアが動きだすんだよ。すごい事だね。しかも、ゆくゆくは、うちの食堂がそのホテルの看板レストランになるなんて。信じられないわ。もちろん、あんたがヒューイット君と結婚して、そのホテルで働く事が条件になるだろうけど」


「ヒューイットが親父さんにお願いしてくれたから、あの名門校に通わせてもらえてるんだもん。高級ホテルには、お貴族様への接客スキルが必要になるって。ここで私が結婚せず逃げたら、さすがにヒューイット可哀そうでしょ。これでも、彼のことは大事に思ってるんだから」


「そうね、二人が長い間話し合って進めてきた計画だもの。あんたは、お貴族様の学園に通っていて勉強もできるし、可愛いし、アイデアもすごい。私達の自慢の娘だよ」


 母の嬉しそうな笑顔に、アイリーンの頬も自然と緩んだ。


「よし、じゃあ開店準備しようか。アイリーンは机の上を整えてくれるかい?私は厨房に入るよ」


「わかった。今日も忙しくなるといいね」



 店のテーブルに、木製のフォークとスプーンを並べながら、アイリーンは今日の学園での出来事を思い出した。


《いやあ、今日はなんや疲れたなあ。でもまあ、マリアンヌさんのお陰で、ララネ嬢には、昨日の第三王子と会っていたのは誤解やと思ってもらえたんは助かった。冗談やないでほんま、あんなきっしょいヘナチョコ王子に口説かれて、うちが痛い目みんのは、どう考えてもおかしいやん。うちにはヒューイットというイケメンで仕事できるまあまあ誠実な彼氏がおるっちゅうねん。なんや思いだしたら、ムカついてきたな》


 アイリーンは、幼少期から何度も自分が違う世界で生きている夢をみてきた。もしかしたら、あの夢はたんなる夢でなく、記憶なのかもしれないとうっすら気づいてもいる。なぜなら、気づいた時には自分の一人称が「うち」で、こちらの世界では聞かない「関西弁」を話していたからだ。


 練習して、普通に話せるようにはなったものの、興奮したり、気を抜くとすぐに関西弁がでてしまう。家族や周りの人達はアイリーンのその話し方に慣れっこだが、初対面、しかも貴族が相手だと、おかしな話し方だと面倒事になりかねない。だから、学園ではあまり話さず、大人しくするようい努めてきた。


 夢で見る自分(前世?)は、キャバクラという男性客を女性スタッフが話術でもてなす店で『ナンバーワン嬢』の称号を5年間キープした、やり手の商売人だったらしい。家庭環境が苦しかった彼女は、家族の為に大金を稼ぐ必要があった。その為に、がむしゃらに働いたのだ。


 何度となく、夢のなかで彼女が話しているセリフを、アイリーンもすっかり覚えてしまった。


***


「うすっぺらい表面上の笑顔はりつけても、お客さんにはバレてまう。こっちも本気で楽しみながら、しっかり向き合って、出会えたご縁をありがたく思いながら生きたいやん!うちは、短期間で金を搾り取るような嬢になる気はない。長期スパンで、お客さんから応援してもらえるような、そんな嬢になるんや」


「お店に来てほしいけど、色恋で変な期待はさせへん。うちは、人間と人間として、対等につきあうつもり」


「うちは、相手が金持っているからってチヤホヤはせん。自分が高卒で家が貧乏やからって卑下したりもせん。魂レベルでは、同等で対等。そう思いながら、毎日仕事してる。嫌な奴もおる。でも、がんばってたら、きちんと認めてくれる人もいる。色んな人がおって、この世界そう悪いもんでもないなあって思うんや」


***


 アイリーンは、机をふきながら、マリアンヌの事を思い出した。


《あの人、なんか夢にでてきた、マナー講座の先生に似てる気がすんなあ。笑ってるんやけどめっちゃ目が怖いとことか、なんかわからんうちにヌルっとトラブル収めて、自分の信者にするとことか。ララネ嬢とか、もうすっかりマリアンヌさんの虜やろ。まあ、うちもやけどな。お貴族様のお茶会とか面倒やけど、マリアンヌ姉さんと会えるのはちょっと楽しみかも。そや、ホテルのスタッフ教育、ダメ元で頼んでみようかな。とりあえず、お茶会の時にサシで話してみてからやな》


 なんだか、ワクワクして、自然と笑顔になってしまう。 今日の出来事は、偶然なのか、必然なのか、化学反応なのか、シナジー効果なのか。


 何かが始まろうとしている、のかもしれない。……知らんけど。


*** 


 一方、王家が暮らす、王城の一角。

 豪奢なインテリアに囲まれた広い一室は静けさに包まれていた。

 二人の男性が話をしている。 金髪の青年はソファーに座り優雅にお茶を飲み、制服を着た赤毛の青年はソファーの側に立ち、直立不動の姿勢で話している。


「もう一度言ってくれないか? 誰が誰と会っていたって?」

「は、はい。再度申し上げます。本日、授業終了後、学園中庭にて、リーシェント公爵令嬢マリアンヌ様が、ルノワー侯爵令嬢ララネ様と同派閥の令嬢5名と共に、平民の学生とお話をされたそうです」

「何を話していた?」

「それが、……誰も内容までは聞くことができなかったようで……」


 赤毛の青年は、夕日の入る眩しい光の下で青白い顔を少し歪めながら答えた。


「ふーーん、珍しい組み合わせだね。気になるなあ。……直接、彼女の口から聞いてみようかな?」


 そう言うと、主らしき金髪の青年は、目を細めながら微かに口角を上げた。


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