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公爵令嬢はビジネスマナー(EQ)スキルで無双する~知らんけどが口癖の関西人ヒロインをバディに、異世界コンサルはじめます~  作者: 高瀬 八鳳


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1/3

運命は突然に

 中世ヨーロッパを彷彿とさせる荘厳な建物。貴族のご令嬢、ご令息が通う名門学園の一角。午後の太陽に照らされたバラが美しく咲き誇る芳しき庭園で、この場にもっとも似つかわしくない言葉が響いた。


「あ、彼氏の落とし方、良かったら伝授しますよ。うち、今んとこ百戦錬磨やし。男は追ったらアカンくて、こっちがちょっと引く姿勢が大事やねん。狩猟時代の本能が残っとるんやんな、知らんけど」


 この物語は、主人公マリアンヌの、表向きはモナリザの微笑み的表情を保ちながら、でも内心は驚愕のムンク顔からはじまる。


 突然、隣の少女からこの世界で聞いたことのない、でも元の世界ではおなじみの言葉が発せられた。


 マリアンヌはその驚きを全く表にださず、しかし脳中では、衝撃のあまり何度もそのワードを繰り返した。


『知らんけど! 今、この子、知らんけどって言った? ええっ、それって私が知ってる、《《あの》》知らんけど?』


 今から、時をさかのぼる事15分。 彼女はある記憶を思い出した。 

 非の打ち所のない公爵令嬢マリアンヌの、運命の歯車が思わぬ方向へ大きくまわりだしたのは、その瞬間からである。 


*** 


 わたくしは授業の後、いつものように馬車の待つ校門へと向かう途中で、その声を聞いた。


「あなたは、わたくしが間違っているとおっしゃるの?」


 声の方向をみると、木立の奥に、王家主催のお茶会で顔を合わす侯爵令嬢の姿があった。


 ピンクブロンドの美しい巻き髪、エメラルド色の瞳に、豪奢なドレス。 

 取り巻き令嬢を5人引き連れた侯爵令嬢のララネ様が、怒気を含んだ声で、地味なワンピースを着た平民の少女を威嚇している。 


 この名門校には似つかわしくない、不穏なセリフだこと。 

 ましてや、ララネ様は第三王子の婚約者でいらっしゃるわ。これは、貴族を束ねる公爵家の令嬢として何事が確認する必要がありますわね。  

 彼女は美貌、家柄共によろしいのに、どうしていつも自信がないのかしら。もっと、ドーンとかまえていればよろしいのに……。 


「いえ、けっしてそのような事は……。ただ、私が言いたかったのは」


「もうけっこう! あなたのような身分の者と話すなど、時間の無駄ですわね」


 ララネ様の方向へと足を進めたわたくしは、彼女が口にしたそのセリフを聞いて、頭の中に電流が走ったかのような衝撃を受けた。 


 その瞬間、わたくしは思い出した。 

 過去の、いえ、前世の自分を。

 稲妻にうたれかたのように、一気に様々な記憶が甦る。


 恐ろしく高い建築物が並び立つ街なかで、男性と同じ衣装を着て、大勢の人に何かを教えている自分の姿が見えた。


『マナーとは、簡単に言うと愛です。EQは心の知能指数と言われている、自分と相手のご機嫌を良くするスキルです。ハッピーな気持ちを共有する作法、考え方の事なんです』


『敬語や立ち居振る舞い、目線に笑顔。全身で気持ちを伝えて、お互いに気持ちの良いコミュニケーションをとるための便利なツールです。ビジネス、プライベート共に使えます』


『お金をかけなくても、ある程度は本やネットで学べます。武道と同じく、型を覚えれば、あとは自然に体が反応してくれますよ。自身の価値をアップするのに、コスパもタイパもいい知識です』


 嬉しそうに話すわたくしの姿と、まわりの皆様方の授業風景。 

 授業の準備に一人部屋で奮闘するわたくし。  

 もっとこうしたい、あれにも挑戦したいと友人達に熱く語るわたくし。  


 そうだわ、わたくし、いえ私は……ビジネスマナー講師、だったのだわ。  


 そして理解した。 

 ここは、悪役令嬢ララネ様と平民出身ヒロインのアイリーン、そしてこの国の第三王子との三角関係をえがいた恋愛物語の世界だということを。  


 現世と前世が融合した『私』。 

 公爵令嬢としての人生に、プロの仕事人の記憶を追加されたチートな存在となった私は、今自分がなすべきことを理解した。 


 いつ、いかなる時も、みなさまのお悩み事解決のために尽力する。 

 それが、私のポリシーなのだから。 


 前世を思い出してから、約3秒。 

 私は足早に、しかしバレリーナのような優雅な足取りでララネ様と少女の間に割って入る。


「失礼いたしますね。ララネ様、一度深呼吸いたしましょう。大きく息を吸って、吐いて。何度か繰り返してくださいませ」「え……、マリアンヌ様? あの、深呼吸、ですか?」


 ララネ様はじめ取り巻きの令嬢達も、突然の私の乱入に唖然としている。 

 皆さま、淑女の仮面が剥がれて、マンガみたいな『え?』って顔になってますわよ。 


 私は口角を上げて、彼らに微笑みを向けながら続ける。 

 ミラーリング(同調効果)手法のペーシングを試しましょう。 

 私がゆっくり話せば、彼女達も無意識に同調作用が働き、落ち着いてくるでしょう。


 ボナペティ。プロの味『ペーシングと慈悲に溢れたプライスレス・スマイル』をご賞味あれ。


「ええ、深呼吸ですわ。心と体を落ち着ける効果がありますの。あなた、アイリーンさんだったかしら? あなたも、まずは深呼吸なさい。それから、事情を説明してくださる? 簡潔かつ、適切な表現でお願いするわ」「は、はい……? わ、私が説明、ですか?」


 矛先が自分に向けられたことに驚きを隠せないヒロインのアイリーンは、目を真ん丸にして私をみた。


 そうよね、私がアイリーンに話しかけるなんて、想像してなかったわよね。


 私はこの学園のなかで、王族を除けば一番身分の高い、公爵令嬢。 

 全貴族令嬢の手本と言われる、気位の高いスーパーお貴族様。 

 第二王子の婚約者であり、学園で男子生徒を抑えて常にトップの成績をとる才女。 

 それが現世の私、リーシェント公爵令嬢マリアンヌだ。


 通常、私が平民の生徒に直接話しかける事はあり得ない。万が一、話をする必要があれば、私は他の令嬢を介して言葉を伝えるだろう。伝言ゲームみたいにね。 

 成人前の少女少年が通う学園とはいえ、この国には身分の違いによるルールがしっかり設定されている。表向きは、身分にかかわらず、友愛を持って交流しようとなっているけれどね。 


 今までの私なら、気にせずスルーしたかもしれない。 

 だが、しかし。 

 前世を思い出した今の私は、もはや、ただの公爵令嬢ではないのだ。 

 この状況を見て見ぬふりはできない。


「私見ですが、たいていの対人トラブルは、コミュニケーション不足からおこるものですわ。今回も、きっと互いの誤解、ボタンの掛け違いから生じたのではないかしら? どんな時も、第三者による現状確認は大切です。ささっ、まずはアイリーンさんからどうぞ。落ち着いて、ご自分の言葉でよろしくね」


「は、はい! あの、そうですね。全ては、誤解なんです。私はララネ様より、第三王子に色目を使ったとお叱りを受けましたが、そんなつもりは毛頭ございません。それに…」


「嘘をおっしゃらないで!」

「まあ、厚かましいことを!」


 アイリーンが言い終えないうちに、悪役令嬢ララネの取り巻きが吠えだしたので、私は片手を上げて、自身に注目させる。


「お待ちになって皆さま。まだ、アイリーンさんの話の途中ですわ。ご質問は、彼女が全てを言い終わってから。きちんと相手の言い分を聞くのがマナーです。勿論、皆さまもご存知ですわね」

「え、……ええ。……失礼しました」

「あ……ら、そうでしたわね……」


 彼女達は戸惑い互いに顔を見合わせながらも、とりあえずおとなしくなった。良い子達じゃないの。ごめんなさいね、そしてありがとう。 

 あなた方は、まちがってないわ。貴族は常に平民より優先される存在。こちらの世界では、平民の意見をおとなしく聞く貴族はいないわよね、本当は。


「それに……なんですの? この場は、何をおっしゃってもよろしくてよ。不敬は問わないわ。アイリーンさん、この機会に本音をお話しなさいな」 


 アイリーンが覚悟を決めた表情で私をみる。 

 服装はララネ様や取り巻き令嬢達に劣るけど、栗色の艶やかなウェーブがかった髪、アクアマリンのような瞳に、人を惹きつける魅力的なオーラ。 


 この子、やっぱりヒロインをはるだけあって可愛いわね。 

 ちょっと、ヒロインと言うには、眼圧が強い気もするけれど。 

 うーん、可憐というよりは、凛々しいというか勝気そうな雰囲気というか……。


「……ありがとうございます、マリアンヌ様。昨日、第三王子レイモンド様にお会いしたのは本当に偶然で。図書館に行く途中、ご挨拶しただけなんです。何より、申し上げにくいのですが……。私は王族の方とのご縁を求めていません! 正直言って、貴族の方のマナーやルールは多すぎて、私は学園に通学するだけで、もういっぱいいっぱいなんです。なのに、わざわざ王族の方と接したい訳ないじゃないですか。お辞儀とか、敬語とか、上の身分の人から先に話すとか、平民から貴族の方に話しかけちゃだめとか。ほんとに私にはこれ以上、無理! 勉強の為に学園に通わせてもらってますが、卒業したら幼馴染みと結婚する予定だし、だから王子に言い寄るとかありえません!」


「え!!」 


 アイリーンの溜まりに溜まったストレスが爆発し、本音が炸裂した。 

 勢いよく、ハキハキ響く声で話す彼女に、儚げさは一ミリもない。 

 しかも、王族との縁を求めてないとか公に言っちゃうと、不敬罪の可能性もでてくるわよ。


「……王家とのご縁を望まないなんて」「そんな人が、この世に存在するの……?」

「……今のは幻聴かしら……」


 ララネはじめ令嬢達の口からも、ポロポロと本音がこぼれ落ちた。


 どんな手をつかっても王族との縁を強化せよ、というのはこの国の貴族にとって常識。みんな、空気を求めるがごとく、王家とのつながりを求めるのだ。 そ

 れを不要と言い切るアイリーンの言葉は、彼女達の心を大きく揺さぶっただろう。


 あら、それに今、彼女は……。


「アイリーンさん、あなた……婚約者がいらっしゃるの?」


「はい、皆様のように正式な婚約を結んだわけではありませんが、まあ何となく。うちの家族と彼の家族も、そうなるだろう、みたいな話をずっとしてきました。お互いに気楽な関係ですし、私は彼がいい。面倒な貴族の方とのご縁、ましてや王族の方に側女として置かれるなんて、絶対イヤ! いえ、私には荷が重すぎます」


 絶対イヤとまで言っちゃったわ。ほんとに鼻息荒いわね。 

 想像以上のぶっちゃけに、少し焦るわ。この場を収めるために、ちょっと補完しとこうかしら。 


 ここは『うんうん、あなたの気持ちよくわかる~』と共感を示して、 『We are the world 世界はひとつ』感を演出してみようかしら。


「確かに、幼少期から貴族教育を受けたわたくしでも、ルールが多すぎると感じる事はありますもの。平民であるあなたが、弱音を吐く気持ちもわかなくはないわ。それに、もう結婚相手がいらっしゃるなら、なおさらね」「え、マリアンヌ様でもそう思われるのですか?」


「ええ。皆さまには正直に申し上げますわ。いつの時代の慣習なの、誰の為のものなの、女性の権利は脆弱で、男性ばかり優遇されているように感じるわ、などなど。わたくしも、そんな風に考えてしまうことがありますの」


「そりゃそうですよね。わけわかんないルール多すぎですもんね。今まで貴族の皆様は、私達平民とは頭のなかが別の生き物かと思ってましたけど。今のお話を聞いて、やはり同じ人間なんだとホッとしました」


 アイリーンが満面の笑みでそう答えた。悪気は全くないようだ。 

 なかなかナチュラルに毒を吐くわね、この子。個人的には、こういうタイプ嫌いじゃない。二人だけで、もっと突っこんだ話をしたらおもしろそう。  


 一方で、ララネ様達は、なんだか私を見る目がウルウルしだした。


「あの……、マリアンヌ様。ぜひ、わたくし達の指導役となり、色々な事を教えていただけませんか?」「実はわたくしも、今まで誰にも言えず悩んでおりましたが、先程のマリアンヌ様のお言葉に激しく共感いたしました!」

「わたくしも、マリアンヌ様の教えを受けたいです。ぜひ、お願いいたしますわ」


 あらあら、好都合だわ。布教活動の場をGETできたのね。 

 こちらの世界での、初めてのクライアント候補。 

 なんだか、燃えてくるわ! 


 私はにっこり笑顔で彼女達に応えた。


「ええ、勿論ですわ。わたくし達は、それぞれ様々な課題を抱えながらも、それを人前でみせる事ができない不自由な身ですわ。皆様に何かをお教えするなどと烏滸がましいですが、お茶をいただきながら情報交換するのはきっと楽しいでしょう。その前に、ララネ様、先程のアイリーンさんのお話を聞いて、今はどうお考えですの?」


 私の言葉に、みんなの視線がララネ様に集中した。 

 彼女は、一瞬悲しそうに眉をひそめ、それから静かに切りだした。


「……私の勘違いだったようですね。昨日、図書館前の花壇で話しているレイモンド様とアイリーンさんの姿を見て……レイモンド様が私に隠れて他の女性と会っていると思ったの。確認せずに、勝手に誤解して悪かったわ。……ごめんなさい」


「ララネ様……」


 超プライドの高いララネが顔を赤くしながら懸命に謝る姿は、最高にいじらしくて可愛い。思わず彼女の手を握ろうとした、その時。


「やっば、ララネ様、マジ可愛すぎるんやけど。もう、全然問題ないっす!あ、彼氏の落とし方、良かったら伝授しますよ。うち、今んとこ百戦錬磨やし。男は追ったらアカンくて、こっちがちょっと引く姿勢が大事やねん。狩猟時代の本能が残っとるんやんな、知らんけど」


 アイリーンから、この世界で聞いたことのないような言葉が聞こえた。 


 知らんけど! 今、この子、知らんけどって言った? ええっ、それって私が知ってる、《《あの》》知らんけど? って言うか、自分、バリバリ関西弁やんか!


 咄嗟に目を見開いて彼女を見つめた。 やってしまった、というように手で口をおさえ、目を泳がせながら焦るアイリーンと目が合った。


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