156。そういう人たちに失礼ですよ!
「やっぱりソファはいいよなぁ……」
ふぅー、とソファの背もたれに寄りかかった魔王は溜め息を吐く。
「痛みを耐えて、ソファまで自力で来た甲斐あったでしょう?」
「お前、絶対に鬼だと言われた事あるだろう?」
恨めしそうに自分を見ている魔王の言葉を聞いたレイアは記憶を掘り出して、確かにフェルを仕事に連れ戻した時と彼を叱った時に鬼と言われた事があると思い出して思わず苦笑してしまった。
「図星かよ……」
「レイアさん容赦しませんからね」
身をもって知ったわぁ、そう魔王はイェリアの言葉に同意して溜め息を吐いた。
「そろそろ吐かせて貰うわ」
バキバキと指鳴らしをしたレイアは笑みを浮かべる。
「なんだろう……こいつ悪党だと思い始めたんだが?」
「謁見間で私を人質にしようとしていた人です、気にしないでください」
「いや何だそれ!?」
自分の許嫁は危うく人質にされたのだ、気にしないでと言われても無理がある。
「あれはあくまでも最終手段なのよ」
しなくてよかったわぁ、そうレイアは肩をすくめながら言った。
「んで? 話を進めたいんだけど?」
「……そうだな」
確かにさっきから話が全然進まない、魔王もそれに気付いてこれ以上ツッコミするのをやめた。
「お前の指輪と俺の確信だったっけ?」
正座に強いられた前の話題を思い出そうとしている魔王は後ろ頭を掻いた。
「なぜ指輪を見ただけで確信した?」
なぜレイアの指輪を見ただけで魔王は彼女の正体に気付いた? その理由はーー
「その指輪、魔力からできたんだろう?」
そう、魔力だ。
レイアたちに送った結婚指輪は圧縮されたフェルの魔力、つまりフェルが作った魔石からできたのだ。
「なるほーーちょっと待って! 確かにこの指輪は魔力からできたけどなぜ精霊王の物だとーーまさかあんたっ!?」
「……」
コロコロと忙しく表情を変えているレイアに魔王は意味ありげな笑みを浮かべた。
「ど、どういう事?」
傍にことの進行を見ているイェリアは話についていけなくて困惑している。
「こいつ指輪の魔力に覚えがあるのよ!」
魔法にある程度詳しい人なら魔力を感知できる。そして先ほど説明したけど、レイアの指輪はフェルの魔力からできた魔石だ。
魔王はその魔力に覚えがあるからレイアの正体に気付いた。
それはつまりーー
「精霊王に会った事あるんだ」
ーーそういう事だ。
「やっぱり……」
「え……? ええええぇぇぇ!?」
魔王の言葉からそうではないかと推測したレイアは目を鋭くして、イェリアは信じられないと言わんばかりに驚きの声を上げた。
「いいいいいつですか!?」
「おおお落ち着けーーおぶっ!」
ガシッと勢いよく肩がイェリアに捕まって揺さぶられている魔王は吐きそうだ!
「も、申し訳ありません!」
バッと我に返ったイェリアは彼を解放し幾度も頭を下げた。
「き、気持ちわるっ……」
ぐったりする魔王は口元を押さえている……顔色が悪い。
「その様子だとあんた知らないわね?」
「いつもの事ね……」
レンアル町長のケースもそうだけど、イェリアはいつも肝心な情報を教えてもらえないよなぁ。
「そろそろ懲らしめないと先が大変よ?」
このままだと彼はずっとあんたに隠し事するわ、と肩をすくめたレイアは魔王に目を向けた。
「……許嫁に変な事を吹き込まないでくれ」
ただでさえ怖いんだ……そう少し良くなった魔王は半眼になってレイアを見返す。
「存在意義を主張しないとあんた、ただの愛人になってしまうわよ?」
「ただの、愛人?」
許嫁から愛人、間違いなくダウングレードだ。イェリアもそれがわかって目を広く開いた。
「ここは一つ、物を言わせた方がいいんじゃない?」
「おいおい、煽動はーーちょっ!? イェリア!? 待て! 何をしてる!?」
レイアを止めようとしている魔王は再びイェリアに捕まって、ソファから引き下ろされたっ!
「さあ、正座のお時間です!」
「さっきやったばかりだぞ!?」
「抵抗はおやめください!」
「いいいやああああだああああっ!」
「やれ! 引っ張ってっ!」
解放されたばかりなのにまた正座される、そんなの絶対に嫌だと思って魔王は精一杯に抵抗していて、その傍に野次っているレイアがいる。
部屋はうるさくなってカオスだ。
「観念しなさいっ!」
「絶対に嫌だああぁぁっ!」
「手伝うわ!」
もう正座はしないと硬い決意をした魔王は強くソファにしがみついている! イェリアだけだと彼をソファから引き剥がせないと悟ったレイアは加勢に入る!
「何してるの?」
とそこで一人の少女の登場で全員は固着してしまった。
▽
「なるほどね」
「酷いだろう!?」
「それは日頃のせいよ」
「そ、そんなっ!」
少女を味方にすると試みた魔王は返った言葉にショックを受けて、四つ這いになった。
「あなたはレイアね?」
まあこいつの事は置いといて、と魔王に構うのをやめて前置きした少女はレイアに振り返るとそう訊いた。
「えっと、闇の大精霊様、ですよね?」
特徴から少女は闇の大精霊じゃないかとレイアは推測した。
そしてその推測は間違っていない。
「様は要らないわ」
敬語も要らないよ、と肯定の意味で自分に遠慮はいらないと暗に言った闇の大精霊は腰を下ろした。
「ドライアードは元気にしてる?」
「まあ、あたしはここにいるからたぶん精霊女王の仕事で忙しいでしょ」
特に人間相手だとね、そうレイアは人間が苦手なドライアードを思い出して苦笑した。
「そっか、同じく精霊女王にして精霊と人間の仲介をしてるもんね」
「ええ」
「本当に精霊の女王なんだ……」
会ったばかりなのに会話がなり立てていて、そんな彼女たちを見てイェリアは言った。
「まだ疑ってたの!?」
昨日信じるって言わなかった!? そうレイアは隣に座っているイェリアに振り向いて信じられないと言わんばかりの顔をしている。
「確信についただけよ」
「やっぱ疑ってたじゃん……」
さっきついた、つまりさっきまで疑っていたのだ……何のための訂正?
「あのぉ、少し良いか?」
「ん? なに?」
と魔王は三人に恐る恐ると声をかけた。
「この状況は可笑しいと思わないか?」
「あたしがやった事よ?」
「いつもの事ですから」
「そういう趣味かなと思って」
「ちげぇよ!」
自分の質問に対して返ってきた返事を聞いた魔王は力強く否定した。
なぜ? 一体彼はどんな状況に置かれている?
それはーー
「誰が座られて喜ぶんだよ!?」
そう、四つ這いになっている彼は座られているのだ、闇の大精霊シェイドに。
「そういう人いるのよ?」
「知るかよ! 俺はそうじゃねぇんだよ!」
「魔王様! そういう人たちに失礼ですよ!」
「知るかよおぉぉ!」
いや、本当にそういう人は世の中にいるけどな……別に悪いことじゃない、人の趣味だからな。
一応そういう人たちに謝った方がいいんじゃない、魔王?
「まあまあ、ザッチ、そうムキにならないで」
「シェイド……」
ギャアギャアとうるさくて抗議している魔王から降りて、シェイドはフフフと妖艶に笑って宥めた。そんな彼女に魔王は感動しているかのように目を広く開いて、微笑む。
「似合わんぞ?」
そしてそんな言葉を彼女に向かって放った。
黒い髪と瞳、そして黒いゴスロリに纏われた体とその背中から小さなコウモリの翼、彼女の容姿をそれだけ言ったらなんの問題もない、妖艶の笑みも似合うだろう。
でも少女の外見をしているよなぁ……しかし男たるもの、女性の容姿についてまずは褒めるべきだ。
「よし、処刑よ!」
でないとそうなるのだ。
いや、死刑ではなく怒られるって意味だ。
「ま、待てっ!」
んで魔王だけど、急に物騒な言葉がシェイドの口から聞いた彼は慌てて弁明を立てようとしている。
「あんたバカなの?」
「凝りませんね……」
「い、嫌だああぁぁ」
無駄に終わったけどな……。
魔王「俺は感想を言っただけでーーっ!」
シェイド「かんそうぅ〜?」
魔王「な、なんでもない……」
イェリアとレイア「「……」」
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