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「アサコさ、なんかあった?」

「なにが?」


あまりにも唐突な質問だったから、声が揺れないように押さえつけることで精いっぱいだった。


「なんか最近すげーイライラしてるっていうか、余裕なさそうに見えるからさ」

「……そうかな」


頬の表面が熱くて心臓がどきどき言っているのが聞こえる。


「……余裕かぁ」


余裕なんてない。あった試しが無い。いつだって必死だ。どうにかするために必死で、それでも上手くいかなければイライラする。いつも怒っていて、そんな自分に自分が一番疲れる。


「だからなんかあったのかと思ってたけど、それすら聞けない雰囲気だったし」

「私そんなにピリピリしてた?」

「ピリピリしてたっていうか、ここから近づくなっていう立ち入り禁止のテープみたいなのがはっきり見える感じだった」

「なにそれ」

「いや、まじで。にこにこしてんのにこんな近寄りがたく感じることってあるんだって思ったもん」

「それ感じ悪すぎない? 私……」


ストレートな物言いがグサグサ刺さって、余裕のない心は涙を流すことで何とか耐えようとしている。だけどアルコールのせいなのか、普段は肝心なところで錆び付く口が滑り始めた。


「なんかめっちゃイライラしてくるんだよね。大学にいると」

「なんで?」

「私ってやっぱり冴えないんだってことに改めて気づかされるから」

「なにそれ」


ジンがこっちを見ていることに気が付いてはいたけれど、目を合わせたいとは思わなかった。とても人の顔を見たらできそうにない話を今からしようとしているのだと知る。


「受験生の時にめちゃくちゃ勉強してなんとかこの大学に入って頭良くなったような気になってたけど、国立とかもっと頭いい大学に落ちたからここに通ってるって人もいるわけでさ、そんな人たちのほうが勉強できるし。英語だって得意なつもりだったけど、マリアちゃんたちみたいな帰国子女の子には勝てないしさ……」


そうやって言いながら、たぶんジンはこんな卑屈な人を嫌いだろうなと想像した。


「うん」


だけどあくまでも相槌を打つその声は優しくて、長い間身体の中で堰き止められて渦を巻いていただけの感情やことばたちが流れ出してくる。


「頑張ってない人を見てもムカつくし、頑張ってる人を見ると焦るし……。何をやっても納得できないししっくり来ないし、誰といても疲れる」

「アサコはなんでもきっちりやろうとしすぎなんじゃね? 俺からしたら真面目ですげぇなとは思ってたけど、しんどいならそれはそれでどうかって感じだし」

「……でもなんかそうしないと気が済まなくて。サボってもしんどいしきっちりやっても疲れるとか、もうどうしたら良いのかわかんないんだよね」


根暗で面白くないやつだと思われるかもしれない。掛ける言葉を探すことさえ面倒くさがられるかもしれない。部屋に招待したことを後悔されたかもしれない。自分だって嫌になるけれど紛れもなくこれが自分自身だった。


「……なんかマリアちゃんみたいな女の子に生まれたかった」

「なんで、マリア?」

「だって……」


マリアは美人だ。化粧や服装で飾られたものじゃない美しさがある。いつも自然体で明るくて女子とか男子の区別なく友達が多い。英語だってペラペラで。


そしてなにより、アキナリに愛されている。


アサコが欲しくて堪らないものを、マリアはなんでも持っている。


それをジンに伝えようとしたら急に涙の気配がした。お酒を飲んで泣くなんて恥ずかしすぎる。必死で堪えるとそれとともにことばも出てこなくなった。日本人っぽい発音の英語の曲が流れている。イッツゴナビーオーライ。なにがよ。


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