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第七十一回 妖怪・妖狐

 夫婦になろうと約束していたおイネは、流行り病であっさりと逝ってしまった。独り身となってしまった貫太の下へ、おイネの両親が訪れる。このままでは、おイネがあまりに不憫でならぬ。稲刈りを控えて忙しいのは分かっている。だが、せめて彼岸で祝言を挙げてくれないか。

 死者と結婚の儀を行うことで、御霊の成仏を祈る。いわゆる冥婚の風習が、この村には残っていたのだ。

 これも健気な親心であろう。ましてや、おイネの親といえば自分の父母となっていたかもしれぬ人らだ。貫太は頼みを快く引き受けた。


 おイネが死んでから四十九日目の夜。

 貫太は村の神社に入る。すると先に誰かいた。女だ。白無垢に、狐の面をかぶっている。顔が見えぬので、誰かは分からない。恐らくは、どこぞの嫁か娘かが、御役目を引き受けてくれたのだろう。

 見ると横には、もう一枚の面がある。どうやら自分もこれをつけろということらしい。貫太は女の横に座って、自分も狐の面をかぶった。他には誰もいない。


 つつがなく三三九度の杯を交わした後。社殿をふたりして出ると、参道の両脇をずらりと灯りが並んでいた。やはり狐の面をかぶった衆が、提灯を手に立っているのだ。なるほど、花嫁行列ということか。

 貫太は女と並んで、提灯に照らされた道を歩んだ。この忙しい時期に、自分だけではなく、もしかして村が総出でかかっているのだろうか。灯火は先の先まで続いている。いや、村が総出でも、これほどの数は出せぬはずだが。

 それよりも女だ。この女。どこの誰か。おイネの縁者だろうか。見覚えはあるのだが思い出せない。そもそもこんな女、村にいただろうか。


 花嫁行列を進みながら、貫太はじっと女を見つめている。すると、不意に女は面を外した。

「今までありがとう貫太さん」

「おイネ!?」

 驚いて自分も面を外す。途端、提灯の明かりが一斉に消えた。何事か。辺りを振り返るが、急な夜闇で何も見えない。暗さに目が慣れる頃には、女も、提灯を持った衆も、もう誰もいなくなっている。

 気付けば手の内からも面が消えて、代わりに枯れ葉を何枚か握りしめていた。


 次の日。野で薪拾いをしていた村人が、白毛の狐を見たと噂になった。

 狐は秋になると山から下りて、人里に姿を現す。ゆえに、山の実りを田畑の稲に与えると信じられ、稲荷の神使として習合した。ならば狐は人里から、代わりに何を山へ持って行くのか?

 白毛の狐はつがいだった。つがいの狐たちは、ススキの中を仲睦まじく、山へ向かい駆けて行ったという。

 その年。村はこの上ない豊作に恵まれたと伝えられている。

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