第二回 冠とロープ
正しき王は遂に、王権の簒奪者を誅殺した。
「おめでとうございます、王よ!」
王が追放された時もずっと仕えてきた忠臣は、簒奪者の死体から王の証である冠をはぎ取る。
「さあこの冠こそ真の王である証。王権の象徴。さあどうぞ」
「うむ」
王は血で汚れた冠を受け取った。すると宙へ放り投げ、手にした剣で真っ二つに断ち割ってしまった。忠臣は驚く。
「なにをなさるのです! あんなに取り戻そうとしていた冠ではないですか」
「違う。我にもう王冠は必要ないのだ。お前はこれを憶えているか」
といって王は懐から、汚れて黒ずんだ縄で作られた輪を取り出した。
「それは忘れもしませんとも」
王権を簒奪され一時、王は縄をかけられたまま辺境へと追放された。だが処刑される直前、忠臣の手によって脱走する。一命は取り留めたものの絶望深い王に、忠臣は縄を解くと今度は、輪を編んで語った。
今はこのような縄で作った冠しか、あなたへ差し出せません。ですが、いつの日にか真の王冠を取り戻そうではないですか、と。
「この忠義の証こそが、今の我を王たらしめる証。いくら黄金で作られ宝石で飾られようと、簒奪者の血で汚れた冠なぞ、王権の証にはならぬよ」
そういって正しき王は縄の冠を被って、玉座へついた。後に彼は自らを「黒縄王」と名乗ることとなる。歴史に黒縄王の治世は、忠義深い臣下に多く恵まれ、長い平和が続いたと伝えられている。