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シケモク  作者: 桂朔
10/10

9.確保

「目標はこの娘だ。」

川田は写真を差し出し言った。

標準規格のバンが揺れる。

だが、気にする者はいない。

写真を回していく。

私たちは簡易座席に向かい合う形で座っている。

運転席の後ろに川田。

その向かいにアイノ。

その隣に時田。

その向かいが私だ。

「どうした?ロリコン趣味だったのか?」

写真を凝視する時田をアイノが肘で小突く。

「まさか。アイノさんに敵う人なんてそうそういないよ。」

笑いながら否定する時田。

アイノは結構な美人な上、スタイルもいい。プラチナブロンドの髪がその存在感を押し上げている。

時田はぽいっと写真を私に寄越すと、ジャケットの内ポケットから煙草を取り出す。

時田を除いて、皆黒っぽいカーゴパンツに、黒っぽいジャケットを着ている。

「一本くれよ。」

アイノは時田に煙草をたかる。

「このお嬢さんを確保するのが今回の仕事だ。」

川田はじゃれ合う2人を気にも留めず、話を続ける。

「情報提供者によると、目標はどうも不良グループか何かに拉致されているらしい。」

その間、時田とアイノは煙草に火を点け合う。

薄暗い車内、ライターの火が二人の傷痕を照らす。

「GPSの位置情報から、カラオケ店だったこの建物に居ると思われる。」

「GPS?誤差は大丈夫なのか?」

時田が煙を吐きながら、疑問を口にする。

「この辺りは住宅が多い。先の戦争から放置されてる、この建物から応るのが無難だろう。」

川田は話を遮った罰とでも言わんばかりに、時田の口から煙草を奪う。

「中がどうなってるかは分からない。」

時田の煙草を咥える川田。

「詳しくは現地で判断するとして、振り分けだが。」

美味そうに煙を吐き出す。この男も中々の美形だ。

「エマ、お前は俺に着いてくれ。」

川田の指先から煙草をひったくり、口に運ぶ。

「了解。」

車が揺れる。どうやら左折したようだ。吐き出した煙が流される。

「私だけ仲間外れかな?」

アイノは不満そう煙を吐き出す。

「アイノは時田と組んでくれ。」

時田はアイノの口元に手を伸ばし、煙草を取り返す。

「あぁ。」

煙草の火がチリチリと鳴る。

「あんた、結構いい顔してるけどあっちの方はどうなんだ?」

アイノは時田の左目。傷痕の辺りをなめるような距離で言う。

「今から試せば良いだろ。」

そう言って時田は持っていた煙草をアイノの口に差し込む。

「顔の割に優しいんだな。」

アイノは元の姿勢に戻って煙草を光らせる。

私も煙を漂わせた。

その手元に手を伸ばす川田。

「五代は車内待機だ。」

煙を吐きながら言う。

「何時でも出せるようにしておいてくれ。」

「OK。所で、誰かこっちには回してくれないの?」

ハンドルを回しながら五代。

「生憎と弾切れでなぁ。」

そう言って床で煙草を揉み消す川田。

「あんたには私のをあげるよ。」

そう言って身を乗り出すアイノ。口元の物を五代の口に差し込む。元々は時田のものなのだが。

「姉さんは優しいんだから。」

そう言って煙を吐き出す五代。

「よし、到着3分前!」

そう言ってハンドルを回し、窓を少し開けた。

「銃は極力使うな。」

そう言って銃を取り出す川田。簡単に点検し、スライドを引く。金属音と共に、初弾が装填された。

コルトコマンダーだった。

私とアイノもそれに倣う。2人共BHPだ。

私は安全装置を掛け、ホルスターに仕舞う。

座席に置いておいた工具袋を肩にかけた。

時田だけ、リボルバーだった。

スイングアウトして装填状態を確認すると、上着のポケットに突っ込んだ。

時田は既に工具袋を背負っていた。

こいつ…大丈夫か?

そう思ったが今は無視する事にした。

車内の煙はすっかり逃げ出していた。今夜も冷えそうだ。

各々が目出し帽を被る。

「現在時1757、1830までに片付けるぞ。」

川田に応える3人。

車はゆっくりと停車した。

「下車!」

私は後部観音ドアを開け放ち、飛び出した。

カラオケ店は、敷地全体が足場とフェンスで覆われていた。

停車位置の目の前に、その出入口。チェーンがしてあった様だが、切られている。

私は3人を確認し、人が通れる程度開けて建物入口に向かって駆け出す。

建物入口は建物向かって右端にあった。

建物エントランス前には古いバンが無造作に停められていた。運転席以外窓が無いタイプだ。

これはアタリだな。

車の後ろに着くと、銃とライトを抜く。

安全装置を解除し、車の左に沿って前に進む。後ろを確認してから一気に助手席と運転席を照らす。

後部観音ドアもほぼ同時に開けられた。

「クリア。」

車内は無人だった。

直ぐにライトを消し、車を盾にエントランス内を伺う。

扉の硝子は粉々に割れ、建物外に飛び散っていた。

正面にカウンターがあり、その上にレジスター。その奥にスイングドアがあった。

川田がエントランス左手の壁に移動する。

既にアイノはエントランス右に張り付いている。彼女が銃を構えると、時田が中のカウンターに向け一気に駆け込む。

空気はすっかり冷え込んでいると言うのに、銃を構えるグローブ内は汗ばんでいた。

ジャリッと彼の足音が響き、建物内に入った所で銃声がした。

彼はカウンター前に滑り込み、リボルバーを構え直す。

「今のは何処からだ…?」

川田が言った直後、もう1発が響く。

急がないと不味いな。

2発の銃声。侵入者であるコチラに向けられたもので無いとすると…

時田が素早く、カウンターから左の壁に移動する。左手にリボルバーを持ち直し、右手で合図する。

この男中々いい動きをする。

私はそんな事を思いながらカウンターまで静かに、早く進んだ。

屈んで銃をカウンター左手に向ける。奥に個室が並んでいるのが見えた。どうやらホール構造になっているらしい。

何か話し声が聞こえる。

耳を澄ませながら川田を待つ。先にアイノが時田の後ろに着き、右肩に左手を乗せる。

その時、辺りに独特な音が鳴り響いた。

空襲警報だ!くそ、こんな時に!

時田とアイノは銃を構えたままだ。

川田がカウンターに滑り込んでくる。

銃声が響いていた。

不規則に4発。

空襲警報は鳴り止まない。

「援護しろ。エマ、行くぞ!」

時田達にそう言うと、川田は個室の並ぶホールに進む。

川田に続くと、ホールには何やら叫び声のようなものが響いている。

先の戦争で爆弾が直撃した様で、ホールの天井は崩れていた。辺りの硝子という硝子は吹き飛んでしまっていた。

カウンター側を壁沿いに進んで行く。途中、スイングドアがあったが2人は無視して進む。

普通ならクリアリングする所だが、時間が惜しい。

奥の部屋から光が漏れていたのだ。

既に手遅れかもしれない。

扉の手前で川田が止まる。少し空いていて、そこから光が漏れていた。

銃声。コチラに向けられたものではない。だが、この部屋で発砲があったのは明らかだ。

川田は素早く扉の向こうへ移動する。

「おい!何やってんだよ、お前!」

中から男の声が響く。

「顔見られてんだ。こうなったら、皆ぶっ殺すしかないだろ!」

中はかなり不味いことになっているらしい。

最低でも2人いる。

川田は手で合図する。

私は一気に扉を押し開け、室内に飛び込んだ。

男が処刑スタイルで銃を構えていた。

その先に座り込むスーツの女性。

引き金を短く、2回引いた。

1発は胸、2発目は左目の下あたりに命中した。

そのまま室内に飛び込む。

中は予想を越えて悲惨な状況だった。入口のスーツ女は腹が赤く染まり、奥では男が目を見開いて手を上げている。コイツはズボンを履いていなかった。

その足元には顔が腫れ上り、全身血まみれの制服少女。

その膝下には脳漿をぶち撒けた男。尻を突きだして倒れた女。

そして右端にはほぼ全裸の女の子。

鼻や口は血で汚れている。右目あたりは蒼くなり、その目は虚ろだった。

その身体は痣や血、何かの液体にまみれていた。

辺りに散乱する衣服。何が行われていたかは想像するまでも無かった。

「ま、まて!撃つな!降参だ!」

手を上げていた男が懇願したが、川田が引き金を2回引き静かになった。

室内は酷い匂いだった。

尻を突き出した女の下には水たまりも出来ている。

「こりゃ酷いな。」

川田が言った。

ドサっと制服少女が倒れる。顔が腫れていて判別出来ないが、恐らくこの子が目標の娘だろう。

川田は銃をしまうと制服少女を抱きかかえる。

「空襲警報が止んだ。離脱するぞ。」

そう言ってこの地獄絵図のような場所を後にした。

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