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追放されたタンク、実は最強でした ~命を削って守っていたが見捨てられました~  作者: 海老朝日


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24.ノア視点:師匠への恩返し

 教会の鐘の音が鳴る前に目が覚めた。

 孤児院では教会の鐘の音が、何よりも大事だった。

 起床、祈り、食事、就寝。

 一日は鐘の音で始まって、鐘の音で終わった。


 神様なんて信じてない。

 でも祈ったふりをしないと怒られるから、祈りの時間は好きじゃなかった。

 

 最初は、毎日真剣にお祈りをしていた。


 お父さんとお母さんに会えますように。

 ご飯をお腹いっぱい食べられますように。

 シスター・マルタがもう少し優しくなりますように。


 どれも叶えてくれなかった。


 それで気付いた。

 もしかしたら神様はいないんじゃないかって。


 大嫌いな鐘の音が鳴った。


 ノアはゆっくりと体を起こした。


 身支度を手早く済ませ、一階へ下りる。

 朝ごはんをかき込み、宿屋を飛び出した。


 リゼットが泊まっている宿屋の扉を開けると、ちょうどリゼットが二階から下りてきたところだった。


「リゼット、ちょっとお願いがあるんだけど」


 リゼットの用事を済ませ、街へ繰り出す。

 特に用事はないけれど、闇ギルドで叩き込まれた情報収集は癖になっていた。


 商人っていうのは、馬鹿だ。

 人混みなら大事な話が声でかき消されると思っている。

 でも、実際にはそんなことない。

 集中して聞けば、簡単に聞き分けられる。


「テルン南迷宮で新モンスターが出たらしいぞ」


「知ってるぞ。炎獄蠍ヘルフレイムスコーピオンだろう? 甲殻が鍛冶屋に持ち込まれたとか――」


 師匠の話だ。

 少しだけ鼻が高かった。


 小柄な三毛猫がこちらを振り向き小さく鳴いた。

 そのまま路地裏に入っていったので後を追いかける。


 時々ほかの猫と出会っても、慣れ合おうとはしなかった。

 威嚇したり無視したり、やたら感じの悪い猫だった。


 木箱を伝いながら、こちらをちらりと見た。

 ちゃんと付いて来ているか確認してるみたいだ。


 しばらく進むと袋小路になった小さな空き地に出た。

 どうやら猫集会らしい。

 

 三毛猫を探すと――いた。

 三毛猫は、昼寝をしている黒猫に甘えるように絡んでいた。

 黒猫は鬱陶しそうに追い払おうとしているが、本気で嫌がってはいない。


 黒猫はどことなく師匠に似ている気がした。


 しばらく猫たちと遊んだ後、別れを告げた。


 教会の鐘が街中に響き渡る時間。

 ノアは「月明りの女神亭」にやってきた。


 待ち合わせしていたリゼットと中へ入った。


「それで、昨日はどうだった?」


 ノアはリゼットに昨日の出来事を話した。

 リゼットは、ノアが言葉に詰まっても急かさず、静かに話を聞いていた。


「ね? 先生いい人だったでしょ?」


「うん。だからお礼をしたいなって思ってて」


 言葉だけじゃ足りない。ちゃんと形にして恩返ししたい。


「いいよ。私も先生には色々お世話になってるからね」


 二人は酒場を後にした。


 市場を抜け、石畳の通りをしばらく歩くと、目的の薬屋が見えてきた。

 軒先にはラベンダーやセージが吊るされていて、ハーブのいい匂いが漂っていた。


 木の扉が、ギイイと(きし)んだ音を立てて開いた。

 薄暗い店内だった。

 天井からは毒々しい色をしたカエルの皮が吊るされ、棚には目玉の入った小さな瓶が陳列されていた。


「いらっしゃいませー」


 掃き掃除をしていた少女が手を止めた。

 怪しげな店内には似つかわしくない明るい声だった。


「何かお探しですか?」


「ダンジョンでポーションを手に入れたから売りたい」


 ノアがウエストポーチから小瓶を取り出し、少女に差し出す。

 リゼットも慌ててポシェットから小瓶を差し出した。


「わ、私も売ります」


「分かりました。少々お待ちください」


 そう言うと、少女は奥の部屋へと小走りで向かった。


 リゼットが周囲を警戒するようにきょろきょろと店内を見回す。


「どうしたんだ?」


 ノアが声をかけるとリゼットがびくりと肩を震わせた。


「な、なんでもないよ……」


「ふーん?」


 にやにやとリゼットの顔を見つめる。


「こ、怖くなんてないからっ」


 しばらくして店の奥から少女が戻ってきた。


「二本で銀貨15枚になります」


 ノアは銀貨を受け取り、リゼットと一緒に薬屋を出た。


「足りるかな……」


 二人はそのまま鍛冶屋へ向かった。


 奥にいたヴェルナーに声をかける。


「お? 昨日エリクのやつと一緒にいた嬢ちゃんじゃねえか。どうした?」


「――これ」


 ノアが取り出したのは銀貨の山。

 リゼットと協力して、エリクの盾の足りない分を払うつもりだった。


「俺は構わねえが、嬢ちゃんたちはそれでいいのか?」


「うん、いいぞ」


 ヴェルナーが銀貨を数える。

 どうやら足りたらしい。


「そうかい。じゃあこれは確かに受け取ったぜ。これでエリクに取り立てをしなくて済む。ありがとな」


 ノアは小さく頷くと、足取り軽く鍛冶場を後にした。


「ノア、私たち先生と同じ宿屋に泊ったほうがいいかもね。その方が連絡とか取りやすいし」


「うん、それは思ってた」


 ノアは道の端で足を止めた。


「宿代って、三人で三等分する感じだよね?」


「三人?」


 リゼットは眉をひそめた。


「先生とボクとリゼットの三人で割るんだよね?」


「……ノア、もしかしてあなた、みんなで一部屋にするつもり?」


「違うの?」


 リゼットは頭を抱える。


「ダメです! 女子部屋と先生の部屋は別々です!」


「でも、その方がお金が――」


「ダ・メ・で・す!」


 リゼットがノアに詰め寄る。


「なんでだ?」


 一拍置いてリゼットの頬が赤く染まった。


「そ、それは――」


「それは?」


「と、とにかくダメなものはダメ! 分かった!?」


 リゼットの気迫に押され、ノアは頷くしかなかった。

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