14.問題児盗賊ノアの実力
3階層。
正面からコボルトがやってきた。
コボルトは二足歩行の犬型の魔物だ。
ゴブリンより大きく、力も強いのが特徴だ。
「リゼット、やってみるか?」
「が、頑張ります!」
リゼットが俺たちの前に出て、剣と盾を装備したコボルトを迎え撃つ。
「なんでリゼットを戦わせるんだ。危ないだろ」
「もし俺たちがリゼットを守れなかった時、その身を守れるのは自分だけだ。そのときのための訓練だよ」
「後衛を守れない前衛なんている意味ないじゃん」
ノアと二人でひそひそと話した。
ノアの言葉はもっともだ。
だが――実戦では何が起こるか分からない。
近接戦が出来ると出来ないでは、気持ちに大きな差がある。例え気休めだったとしても、訓練しておくことは大事なんだ。
俺は、いつでも飛び出せる位置に体を置いた。
リゼットが杖を前に構えた。
リーチは杖の方が長い。だが懐に入られれば危ないだろう。
リゼットもそれを理解しているらしい。
杖で牽制をしながら、隙があればコボルトの脚や頭に大振りの一撃を繰り出していた。
頭への一撃は盾に弾かれる。だが脚は違う。鈍い音が響くたび、コボルトの足取りが乱れていった。
しばらく一進一退の攻防が続いた。
コボルトは脚へのダメージが蓄積してきたらしく、動きが鈍くなってきた。
リゼットは肩で息をしながらも、コボルトの剣の一撃をうまくしのいでいる。
ついにコボルトの動きが止まり膝をついた。
「やあああああああ!」
防御を考えない一方的なラッシュ。
当然すべてを防ぐことなど不可能で、コボルトは頭や胴に一撃をもらう場面が増えだした。
最後の一撃。
ボロボロになったコボルトが、前のめりに倒れた。
リゼットは勝利した。
だが、消耗もかなりあったようで、リゼットは杖を支えにその場にへたり込んだ。
「や、やりました……」
「リゼットよくやった! すごいよ! 正直、ヒーラーでここまで戦えるのはなかなかいないからな!」
「えへへ……ぎりぎりでしたけどね」
リゼットは息を切らしながら照れくさそうに笑った。
ノアは俺たちのやり取りを難しい顔で見つめていた。
俺たちは少し休憩をした後、再び迷宮を進んでいった。
ノアが、前を進んでいた俺に追いつき、話しかけてきた。
「理屈は分かる。でも、ヒーラーに戦わせるなんてやっぱり間違ってる」
「それでいい。だが、決めるのは俺だ」
ノアは何も言い返さなかった。
そのままリゼットの元まで下がり、彼女の体調を心配していた。
それから俺たちは特に問題なく7階層へと進んだ。
7階層。ここからはCランクの魔物が出る。
「ノア、リゼット。ここからは二人だけで戦ってくれ。危なくなったらカバーするが、基本的に俺はいないものとして扱ってくれ」
ノアとリゼットが深く頷いた。
7階層の危険性を知っているのだろう。二人とも真剣そのものだった。
ノアが一番前を歩き、リゼットがその後ろ。
最後尾に俺が付いて行く。
ノアが歩みを止め、腕で俺たちを制止させた。
耳を澄ませているようだ。
俺には何も聞こえなかった。
「ゴブリンが何匹かこっちに向かってきてる。ここで迎え撃つ」
リゼットが頷いた。
7階層の通路は幅が4メートルほどだろうか。
数が多ければ一瞬で囲まれる。
暗闇の奥からゴブリン共が姿を現した。
数は5匹。
かなりうまくやらないと、今の二人には少し厳しいかもしれない。
ゴブリンたちは俺たちに向かって一斉に駆け出した。
同時にノアも動いた。
ノアが一番近くの1匹に駆け寄った。
棍棒を体を少しずらしてかわすと、逆手に持ったナイフで首を切り裂いた。
まずは1匹。
2匹目。
そのすぐ横にいた個体に近づくと、棍棒を振り上げた瞬間の隙をついて胸を一刺し。
胸を押さえてしゃがんだゴブリンの首にナイフを走らせ、危なげなく処理をした。
ノアの後ろに立ったゴブリンが棍棒を振り上げ、甲高い雄たけびを通路に響かせた。棍棒の一撃がノアに襲い掛かった。
ノアは振り返ると同時に腕で頭を庇う。痛みに顔を歪めながらその胸にナイフを突き立て、一撃で仕留めた。
4匹目はノアではなくリゼットに向かっていた。リゼットは杖を構えゴブリンを迎え撃つ。
ゴブリンを何度も倒してきた経験のおかげか、リゼットは落ち着いていた。棍棒の一撃を冷静に避けると、そのままゴブリンの頭めがけて杖をフルスイングする。
杖が頭に直撃したゴブリンは吹き飛ばされ、ぴくぴくと痙攣するとやがて動かなくなった。
5匹目はいつの間にかノアが倒していた。
通路にはゴブリンの死体がいくつも転がっている。
勝利だ。
「リゼット! 大丈夫か!?」
ノアが腕を押さえながら、慌ててリゼットに駆け寄ってきた。
「大丈夫だよ。私、ゴブリン1匹くらいなら余裕だからね!」
「そうか……」
勝ったというのにノアの表情は険しかった。
怪我をした腕をきつく握りしめ、視線を落としている。
もしかしたら、全部自分で倒すつもりだったのかもしれない。
「二人ともよくやった! 正直、5匹のゴブリンにこれだけ戦えていれば十分だ! 二人ともDランクだが、かなり上位のDランクだと思うぞ」
「……でも、リゼットが危なかった」
リゼットがノアの腕に回復魔法をかけている。
ノアは悔しそうに唇を噛みしめた。
「いや、あれが最善だった。盗賊は守りに入ると弱い。だから、リゼットを守る戦い方じゃなくて、素早さで敵をかく乱して処理していくのが正解だ。だから、あの動きで正しかった。ノア、お前戦闘のセンスあるよ」
二人とも、よく分かっている。
前衛と後衛という立場を理解し、なおかつ自分のやれることをやった。
……このパーティは強い。
俺はそう思い始めていた。
俺は、胸元ほどしかないノアの頭に手を伸ばす。
「や、やめろっ」
だが、俺の手はノアに撃ち落とされ、頭に届くことはなかった。
ノアは褒められ慣れていないのか、腕を組み眉をひそめている。
ちらちらと俺を見ながら、どう反応すれば分からないようにも見えた。
反応に困っているノアの頭をリゼットが撫でた。
ノアは、不機嫌そうにむすっとしながらも拒否はしなかった。
一つ気になる点があるとすれば、ノアのリゼットを守りたい気持ちがやや過剰だと思った。
もちろん仲間想いなのはいいことだ。
だが、守ろうとしすぎれば、それだけ戦術が狭まる。
「仲いいんだな」
「はい! ノアちゃんは私の妹みたいな存在ですから」
「ボクは別にリゼットの妹になりたいわけじゃ……」
そうはいいつつもノアは頭を撫で続けられている。
俺との対応の差は何なんだ。
「ノアちゃん、試しにお姉ちゃんって言ってみて?」
「……恥ずかしいからやだ」
「先生への暴言。私まだ許したわけじゃないからね? でも、お姉ちゃんって呼んでくれたら許してあげる」
「う、うう……」
どうやらノアはリゼットには弱いようだ。
相当嫌われたくないらしい。
「お、お姉ちゃん……」
「はい、なんですかー? リゼットお姉さんですよー?」
リゼットはノアを自分の胸元に押し付けるように抱きしめた。
「ぐ、ぐるじい……」
ノアは手をプルプルと震えさせながら俺に助けを求めていた。
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