13.盗賊、加入
翌朝、冒険者ギルドの前に着くと予想していなかった人物が隣に立っていた。
ノアだ。
「先生、おはようございます!」
「お、おはよう。えーっと……」
どういうことなのか理解が追い付かない。
「よお、よろしくな」
タメ口だった。
一応ランクも年齢も上の先輩なんだが……まあそこはどうでもいい。
「なんでノアがいるんだ?」
ノアは腕を組み、ふてぶてしい態度で俺をじろりと見つめた。
リゼットより少し背は低いが、態度だけはデカかった。
「ボクがいちゃ悪いのか?」
「リゼット、説明してくれ……」
何となく予想はつくが……。
「えっとですね。先生と別れた後、ご飯を食べに酒場に行ったんですが、その時ちょうどノアちゃんと出会いましてですね。聞いてみたらノアちゃんちょうどソロになったみたいで、それで――」
「野良猫を拾うみたいなノリでパーティに誘うなよ……」
「ボクは野良猫じゃない! リゼット、こんな奴放っておいてボクらだけで行こう! ボクのほうがリゼットを幸せに出来る!」
ノアはリゼットの手を取り、自分の方へ引き寄せた。
俺を睨みつけ、今にも唸って威嚇しそうな勢いだ。
「リゼットちゃん、先生は見た目は確かにちょっと頼りなさそうだけど、いざというときはちゃんと守ってくれる人だよ。無理に仲良くする必要はないけど、そういう喧嘩腰はダメだよ」
「分かった。……おい、お前。リゼットに感謝するんだな。今回は許してやる。次からは言葉遣いには気を付けろよ」
俺は思わず天を仰いだ。
楽しい一日になりそうだ。
ノアはいきなり正式に採用ではなく、今回はお試し参加という形に落ち着いた。
ノアはDランクらしい。ついでにスキルも聞いておく。
――――――――――――――――――
ノア
盗賊
短剣術Lv3、投擲術Lv2、見切りLv3、罠感知Lv2、罠解除Lv2、開錠Lv3、気配察知Lv2、隠密Lv1
宝箱探査Lv3
一定範囲内に宝箱があれば、その方向が分かる。
エリク=ルヴァン
New
【導き手】Lv1
パーティメンバーの成長率がわずかに向上。
リゼット=クライン
杖術Lv1→Lv2
診療記録Lv2→Lv3
――――――――――――――――――
俺は先日の迷宮攻略で新しくスキルを覚えていた。
リゼットのスキルも成長していた。
今のところは、悪くない滑り出しだ。
ギルドに入ると、俺とリゼットは新パーティの登録をした。
リーダーは、話し合いの結果俺になった。
ノアとは、共同探索でチームを組むという形で申請書にサインをした。
世間では盗賊不要論が幅を利かせているが、俺はいずれ盗賊は欲しいと思っていた。
盗賊の加入は歓迎するべきなのだろう。
だが、問題はノアの性格にある。
彼女に協調性はあるのだろうか……
南迷宮に辿り着き、俺たちは階段を下っていった。
第1階層。
小柄なゴブリンが一匹現れた。
「ノア、いけるか?」
「問題ない」
俺たちは後方で待機をし、ノアのことを見守った。
ノアが地面を蹴ると、一瞬でゴブリンとの間合いが詰まる。
構えたナイフが、ゴブリンの喉元を切り裂く。
ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく崩れ落ちた。
動きがいいし、無駄も少ない。
Dランク程度の魔物までなら余裕で倒せるんじゃないだろうか。
リゼットにもゴブリンと戦ってもらった。
前回と比べてかなり落ち着いていた。
小柄なゴブリン程度なら、もう心配はない。
「何でお前は戦わないんだ」
「いいだろう。そこまで言うなら俺の実力を見せてやろう」
ちょうどいいところにゴブリンがやってきた。
俺は彼女たちの前に出て、左手に盾を右手に剣を構えた。
少しずつ距離を詰めていく。
痺れを切らしたゴブリンがこちらに突っ込んできた。
棍棒を振りかぶったゴブリンが剣の間合いに入った。
「はっ!」
振り上げた剣がゴブリンの肩口に食い込み、そのまま体を切り裂いた。
ゴブリンは汚い声を上げながら絶命した。
「ふっ、ざっとこんなもんだ。どうだ?」
俺はドヤ顔をしながら後ろを振り返った。
振り返ったその先では、リゼットが昨日プレゼントしたコンパスをノアに見せびらかしながら、楽しそうに笑い合っていた。
見ろよ。
その後も問題なく魔物を倒していき、3階層へと辿り着いた。
「こいつなしでもいけそうだな」
ノアはずっとこの調子だった。
前のパーティも追い出されたみたいだし、なんとなくその原因が分かった気がする。
「そもそもお前、Aランクパーティにいたよな? 何で辞めたんだ? もったいない」
そうだ。
世間的には俺がAランクパーティを辞めたことになっていたんだ。
別に隠すことでもないし、ノアには話しておくか。
「クビだよ。俺が弱かった。それだけだ」
あの時の感情が蘇り、唇を噛んだ。
俺なりに頑張ったが、あいつらには弱く見えたのだろう。
それだけの話だ。
「ぷっ。ダッサ。それで今度は自分より下のランクのリゼットを勧誘したんだ? それなら自分がリーダーになれるし、クビになることもないもんな?」
言い返せなかった。
外野から見ればそう見えるのも仕方ないと思った。
「ノアちゃん……ちょっとこっちに来てくれる?」
リゼットが引きつった笑顔を浮かべながら、ノアを遠くへ引っ張っていった。
リゼットの怒鳴り声が微かに聞こえる。
優しい子だ。
俺のために、怒ってくれている。
「自分より下のランク」
その言葉だけが、頭の中をずっと駆けまわっていた。
「……ごめんなさい」
二人が帰ってきた。
ノアは肩を落とし、俯きながらそう呟いた。
だが、俺よりも、リゼットの顔色を気にしているようだった。
「気にしてないからいいよ」
俺は力なく笑った。
もう吹っ切ったと思っていたのに、この程度のことで心を乱されるなんて……
「ま、まあ気にするなって! 弱くてもボクがフォローしてやるから! な?」
面と向かって「弱い」と言われると腹が立つが、ノアなりに気を遣ってくれているのだろうか。
ノアに悪気はなかったのだろう。
俺が気にしすぎなのだ。
「じゃあ仲直りだ! ほら、握手!」
ノアが手を差し出してきたので、同じように手を差し出す。
だが、すんでのところで避けられてしまった。
「はい、騙されたー! さっきのは謝るけどお前は嫌い! 握手なんてしませーん」
舌を出しながら俺を馬鹿にするノア。
こいつ……ぶん殴りたくなるほど腹が立つ。
「俺もお前のことは嫌いだ。でも今は仲間だと思ってる。俺が言いたいのはそれだけだ」
「ふんっ! ボクはまだお前を仲間だとは認めてないからな!」
それだけ言うと、ノアはさっさと奥へと進んでいった。
嫌なやつだ。
だが、正直な奴ではあった。
お読みいただきありがとうございました!
もし少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです!




