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11話『一歩』

 ──初めて授業を受けてからから五日が経つ。

 ここ最近だけで本当に色々な事があった。


 記憶に新しいのは、俺が馬鹿をして死にかけたことかな……


 あの時、俺は魔力切れなのに無理矢理魔法を使ったせいで昏睡状態に陥っていた。

 第一発見者はカトレア。ベッドで倒れている俺を見て、カトレアは寝ているわけでは無いことに気づき、すぐに先生を呼びに行ったそうだ。

 それから先生が普段通りに動けるギリギリまで魔力を分け与えてくれたらしいのだが反応は無く、俺の部屋に屋敷の人達が集まったらしい。


 加えて、俺が起きるまでの間カトレアがずっと手を握ってくれていたそうだ。


 みんな泣きそうになるほど優しい。

 ならば、と俺はそれに応えたいと思った。


 勿論、もうあんな無茶はしない。


 そして、あの時に見た謎の記憶。まだ分からない事は多いが、思いだそうとすると頭を突き刺すような痛みが走るので今は保留、だ。

 しかし……


 ──シュロ。


 妙に引っかかるな……

 けど、いずれ分かるような気がした。

 自分でも、何を根拠に言っているのかは分からないが……


 さて、現在時刻は早朝四時。朝はジョギングという名の全力疾走(途中でヘタれたら罰付き)がある。

 いつもは先生に起こされるのだが、それでは駄目だと思い早起きしている次第である。


 「ほっほっ……」


 俺はお世辞には運動出来るとは言えない身体能力だ。事実、一度目のジョギングでは息が続かず先生とカトレアが俺を待つ形になっていた。


 だが、このままでは駄目だ。


 モンスターに殺されそうになった時、俺は動けなかった。恐怖心もあるだろうが、ここぞという時に動けなければ危険を回避する事は出来ない。

 そのために、習慣化された筋肉作り、動きの反復が必要だ。


 「ふっ……ふっ……」


 ということで俺が至った結論は、ジョギング前に一時間筋トレとストレッチ。五時から一時間ジョギング。そして、全て終わった後の白い空間で三時間筋トレ、三時間魔術の復習。


 言葉だけにせず、一切の妥協も許さない事を神に誓おう。


 ということで、五時に扉から先生が飛び出してくる前に体をほぐしているところである。


 ──三十分後。


 「……おっ」

 「ラピス君ぅぅぅう──あれ、起きてるねぇ……珍しい。それに──……いや、カトレアの所に早く行こうかぁ」

 「?──そうですね!」


 少しの間が気になったが、気にせずにカトレアの部屋へ行くことになった。


 「さあーーー!!!朝だよ!!!起きよう!!!」

 「きゃぁぁぁぁぁぅぁぁぁぁぁ!?!?!?」


 今日も今日とて絶叫は響く。


 ◇


 「さあ!街を一周だぁ!」

 「よし来たァ!」

 「う゛う゛ぅ゙……」


 気合十分!ストレッチ十分!今の俺に死角は無い!

 地獄の走りこみよ!かかってくるがいい!!



 ──一時間後。



 一時間前の俺は『よし来たァ』なんて言ってはいたが、気合だけで身体能力が上がるはずもなく……


 「ヒューヒューヒュー……」

 「それじゃぁ戻ろうか!!」

 「────」


 過呼吸で地面に横たわる俺の姿であった。


 まだまだ時間はあるんだ……気長にいこう……

 そう自分を慰め、先生についていこうとしたのだが……

 なにやらカトレアの様子がおかしい。


 一見、いつも通りに息を切らしてぐったりと座っているように見える。だが、俺には分かる。カトレアは見た目以上に消耗していない。


 それを先生が指摘しなかったということは……つまりそういうことなのか!?


 どうにもこうにも結界魔法が使えなければ話は始まらないという訳か……!


 「よぉし!」

 「うわっ!?急に大きな声出さないでよ……」

 「あ、ごめん」


 すいません……


 「カトレア嬢!!ラピス君!!早く来なさぁい!!!」

 「うひゃあっ!?」

 「ひっ!?」


 先生の大声は心臓に悪い……

 カトレアもこういう気持ちだったのかもしれないな。気をつけようと心に刻んだのだった。


 ◇


 「──うん、成功回数が増えているねぇ!その調子だぁよ」

 「はい!」


 授業は変わらず、二週間というタイムリミット付きの課題をクリアするための講義となっている。


 現在の結界魔法成功回数は二十回中六回だ。


 昨日と比べるとかなり成功率は上がったが、未だに五割を超えることはない。


 しかし、心が折れることは決して無い。


 それに俺には考えがある。昨日のような視野が狭窄していた俺には絶対に思いつかなかった方法。


 それは至って単純。ヒイロに教えを乞う事だ。

 彼女しか知らない事があると俺は思う。ただでさえ謎な空間に現れた謎の人物というのだから信用を持てなかったのだが、それは一方的な決めつけだと今更気がついた。全然話もしていないではないか。


 視野を広げろ。利用出来るものは全て利用するんだ。


 ◇


 「ふぅ……」

 

 広い広い大浴場に浸かって疲れを癒す。

 一日頑張った自分へのご褒美だ。


 チャポチャポと波を作ってそれを眺めたり、目がつかない程度まで体を沈めてみたり、と何も考えずに湯に身を任せるのも良いだろう。

 それだけで心が休まるというものだ。


 っと、なにか入り口から音が?

 ここまでくるともう予想はつく。


 「邪魔するぞぉ!」

 「はい、先生☆」

 「思ってたのと違う反応ぉ……」


 入り口から飛び出てきたのは勿論先生だ。俺の反応が薄かったのか先生は少し戸惑っていた。


 そりゃぁ毎日のようにやられていたら流石に予知することは可能だ。いちいち驚いていたら、身が持たない。


 先生はその後、しっかりと体を洗った後、俺の隣に浸かった。


 しかし──近くで見るとマジでイケメンだな。


 誰が見ようとも満点をつけるような顔立ちに引き締まった体。長身でマッスルなその肉体美は圧巻である。

 ただ、内面を除く。


 「今失礼なこと考えてたでしょぉ?」

 「いっいや……そんな事あるわけないじゃないですか!」


 図星だ。

 変に勘が鋭いな……


 「──え、えと先生☆?なんでここに来たんですか?先生はもう入ったんじゃ?」


 そう。この屋敷の風呂には順番が存在している。

 基本的には位の高い人物から先となっているため、当主がいない今は、その子どもであるカトレアが一番である。


 「いや、ラピス君と話したかったんだぁよ。だから僕はまだ入ってなかったね。あともう普通に先生呼びで良いよ」

 「あ、はい先生」

 「よろしい!それで……僕が何を話したいかは分かるかい?」


 心当たりは結構ある。

 が、十中八九どうして魔力切れの状態で魔法を連発したのか?が聞きたいことだろうな。


 一応しらばっくれてみよう。


 「いや……分かりません」

 「──いやっそれは分かってる顔だね。僕には隠せないよ!」

 「分かりますか……」

 「じゃあ単刀直入に。なんで君は僕が魔力を感知できる屋敷内で魔法を使えたのかな?」

 「──」

 

 ハレスは目を開き、じっと俺の顔を見つめてそう言った。


 白い空間の事か……けど、ヒイロが『言えない』と言っていた気がする。しかし……


 『駄目じゃ。話すことは叶わん』


 ──!?


 脳内にヒイロの声が響く。


 『お主の現状をまだ伝えては駄目じゃ。いかに信頼できようとも、思わぬ出来事で一瞬のうちに広がる。この意味がわかるかえ?


  ──どちらにせよ話せないようにはなっとるんじゃがな!』


 なってるんかい!

 って今はそうじゃなくて、それじゃあどうしたら……


 『安心せい。このハレスとやらには悪いが、記憶を差し替えさせて頂いた。


  言い換えると、『お主が屋敷内で魔法を使ったことに感知出来なかった事に疑問を持っている』ことを忘れさせてもらったのじゃ』


 そんなこと出来るんですか!?ヒイロさん!?


 『ふふん!』


 ──先生には悪いけど、一旦ヒイロさんに乗ります!ごめんなさい!


 「いや〜本当にいい湯だねぇラピス君!」

 「──そうですね!」


 これについては後でヒイロに聞こうか。


 少し緊迫した場面があったものの、無事にお風呂を終えることができた。


 ◇


 「──さて」


 時刻は夜の十時。就寝時間だ。

 それが意味する事とは──


 「──来たかラピス!」

 「あ、ヒイロさん」


 白い空間で目を開くと目の前には赤みがかった白髪の美女が立っていた。

 勿論ヒイロさんです。


 ◇


 「『あの言葉の意味は?』か。同じことを言うことになるぞ?」

 「一瞬のうちに広がる──ですか?」

 「そうじゃ。お主の現状をわっちはあまり知られたくないんじゃよ。厄介な集団がいてな」

 「厄介?」

 「お主も知っているマナリヤが属する組織、『厭世主義者(ペシミスト)』じゃよ」


 聞いたことがないな……

 しかし、マナリヤが属するというのだから危険極まりない集団なのだろう。


 「素質を持つ者を攫い、『アーツ』を集める事で世界を破壊しようと考える異常者集団じゃ」

 「アーツ…ってなんですか?」

 「素質を持ちし者に宿る『力』じゃ。お主も隠れているだけで眠っておる」


 だからマナリヤは洞窟に来たということか。


 「さっきの話はここに繋がる。お主は狙われているんじゃぞ?」

 「なるほど」


 奴らの行動原理はそれか。だが、何故マナリヤはあれっきり何もしてこないのだろうか?


 「奴らの行動は読めん。何か考えでもあるのじゃろうな」

 「そういうものなんですかね……」

 「そういうものじゃ」


 うんうん、と頷き合ったところで、今回の目的をヒイロに話そう。



 「──ふむ。確かに昨日とは顔が違うな!

  それにしてもわっちに教えを乞う、か。数百年振りよ!」

 「はい!」

 「良い!わっちがその役承った……じゃが、覚悟するんじゃな……わっちは『はーど』じゃからな!」


 結界魔法の教えを受けたいと言ったら、快く引き受けてくれた。

 何処かウキウキしているように見えるのは良い事だと捉えてもいいのだろうか…?


 「あいつ風に言うと──こうか?


  これからわっちの『はーど』授業を始めるのじゃ!」

 「はい!」


 こうしてヒイロによる『はーど』授業が始まったのだった。

 

『はーど授業』終──

読んでいただきありがとうございます!

良かったら次話もよろしくお願いします!


本当にすみません……

十一時から二十分も遅れてしまいました……

次はないように心がけます。


メモ

ヒイロ関連の情報を喋ろうとすると、口が塞がれているような感覚に陥るため、話すことが出来ない。

また、他の手段でも同様にストッパーがかかる。


( ゜∀゜)o彡°次回更新は3月14日です。

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