22
宜しくお願いします。
坂口の咳払いで、ヒロキは首を前に向けた。
「瀬名はな、この近くに住んでるよ。多分としか言えないけどな」
ヒロキの顔を見上げ、坂口が言った。
信じられない話だった。学校帰りや塾の後、そして休みの日にもヒロキはこの界隈へはよく出歩いていた。この近くに住んでいるのなら、一度くらい会っても可笑しくないのではと、内心疑っていた。
「その面だと、信用してないようだな。見つけたときには、俺らも驚いたよ。何故ここにいるってな」
「何処にいたんだ」
「興奮してきたねえ。古村君」若林が首を挟むと、坂口は手でそれを制した。
「あれは一学期の終わり頃だったか。日も暮れて、俺たちはいつものようにゲーセンに行ったんだ。そしたら、メダルゲームの両替するところで、いたんだよ」
「タカフミが?」
坂口は頷いて、ベンチの背もたれに寄りかかり腕を後ろに下ろした。
本当にタカフミだったのか。信じられない。自分だって、その頃にもゲームセンターにはよく行っていた。メダルゲームだってよくやっていた。今日あんな風に、小坂の前でメダルを沢山ゲット出来たのも、通い上げた積み重ねからというのもある。運や勘だけではない部分だってあるのだ。
ヒロキは唾を飲み込み更に訊いていく。
「タカフミどんな感じだったんだ」
「痩せたな。な?」隣に座る若林に同意を求めると、二人して首を縦に振り、坂口は顔を戻した。
「坂口さん、言った方がいいんじゃないですか」
「そうだな」
若林の言葉を聞いて、坂口は鼻を軽く摘まんで掻いた。そして大きく息を吐いて不適に笑った。
何を言う気だ。今の話だとゲームセンターにいれば、タカフミに会える感じの内容だ。頻度はどれくらいなのだろう。そもそも、会ったのはその一度きりか。
聞きたいけどおっかなくて聞けない。どうにかして聞かなければ。目薬をプレゼントしてくれた理由。会わないと聞けないだろうから。
「古村、お前渡辺ユイカとは、付き合ってるのか?」
「いや、そんな関係ではないよ。何で」
突如出た名前に、ヒロキは狼狽した。
坂口は一瞬だけ小さく笑うと、妙な落ち着きで語るように話し出した。
「その女が一緒だったんだよ。俺らは店内をぶらついていたんだ。何しようかあってね。女はうきうきした様子で、俺らの横を通り過ぎてったんだ。顔ははっきり見た。でも髪型が学校にいた時と違う。三人して、顔を見合わせたよ。こりゃかつらだなって、直ぐ分かったよ。瀬名は白いカップにメダルを入れてた。その女は駆け寄っていって、メダルゲームを二人でやってたって話だ」
「人違いじゃないのか」
「確かにあの二人だった。瀬名はその後も、何度か見掛けたよ。ゲーセンでな。でも声は掛けなかった」
「何故」
「仲も良くないし、俺らにとってはどうでもいい存在だからだ」
タカフミ、本当にこの近くにいるのか。自分だって、遅い時間にゲームセンターに行ったりしてたのに。
ユイカとタカフミが一緒って、どういうことだよそんな接点あったなんて、今の今まで知らなかった。
「頭大丈夫か?」坂口が軽く言うと、若林が「パニクってるんじゃねえの」とふざけたように言って坂口と顔を合わせた。二人は手を叩いてと笑いだした。
少し冷えたそよ風が、ヒロキの腕を通り過ぎていった。寒気が出てきた。
このことをユイカに聞いてみるか。ストレートに聞いたところで、素直に教えてくれる内容ではない。あの二人は、何処かで落ちあっている。ゲームセンターで一度だけ会った。そんな筈はない。気づいたのかもしれない。この三人がいたことを。きっと今みたいに、笑いあっていたと思うから。
「さあ、そろそろ俺らの願いも聞いてもらおうかな」
「身体震えてるよ、おしっこ出るのかな」
頭を整理していたヒロキが我に返るのと同じくらいに、二人はスッとベンチを立ち上がった。手に持っていた空き缶を、坂口はを手から離し地面に落とした。靴でベコリと踏みにじった。
「お願いって何?」ヒロキは、おでこの汗を手の甲で拭った。
「なあに、簡単な願いだ。お前がよく一緒にいる渡辺ユイカを、貸して欲しいんだ」
二人はニヤニヤしながら、ヒロキの顔を嘗めるように視線を上下させた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。




