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Answer  作者: 釜鍋小加湯
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 塾の帰り、ユイカと駅で別れてから一人家路へと向かう。ヒロキはポケットから目薬を取り出し、量が減ってきていることと、これまでは三日は持っていた効力が、二日持てば良いくらいになってきたことに不安を覚えていた。

 休日の午後。まだ太陽が高い時間に、ヒロキは街に出た。本屋に入り雑誌の立ち読みをした後、奥に移動してこの地域の学校案内に関する本を開いた。

 偏差値の高い高等学校を、頁を捲りながら探していく。

 タカフミは、一体何処の高校を受験するのだろう。そもそも、彼が今何処にいるのかが全くもって不明だ。何かしらの情報が欲しい。休み時間にクラスの仲間や、彼が以前居たクラスの生徒に聞いたことがある。

 瀬名タカフミは何処に行ったのかと。殆んどの生徒は、懐かしいとか、そんな生徒もいたなあと、既に過去の生徒と化していた。それを聞いて、ヒロキは内心がっかりしたが、何食わぬ顔で話題を変えたりして上手く装ったりしていた。

 タカフミの志望校が分かれば、ユイカを誘い同じ高校に行ける。自分自身も受かるかどうか、不安は少なからずある。

 目薬の効力が減って、高校入試まで目薬の量と効力が持つのか。一応の案はある。それを実行していけば大丈夫だと思う。先ずは彼の居場所だ。何としてでも知りたい。

 ヒロキは本を閉じ、棚に戻した。レジに並び漫画本を二冊買い、外に出た。少し歩くか。

 何気なく歩いたが、頭では何処に行くか決めていた。

「古村君」

 背後から軽く声をかけられ、肩をびくつかせ振り向くと、見覚えのある顔が後ろで笑っていた。彼は鞄を手に持っていた。

「あれ、小坂君」

「さっき、本屋にいたよね。レジに並んでいるの見えたから」

 小坂とは、タカフミと同じだったクラスの生徒だ。彼が急にいなくなった時、もうこの学校には来ないと教えてくれた生徒だ。

 小坂も本屋にいたそうで、レジに近い列で雑誌を立ち読みしていたそうだ。声を掛けようとしたが、読んでいた本が気になった。キリの良いところで読み終えて再び目を向けたら、既にヒロキはいなくなっていた。

 読んでいた雑誌を購入し店を出たら、見覚えのある半袖Yシャツを見つけて、急ぎ追いついのだと話してくれた。

「どっか行こうとしてたの?」

 ヒロキと並列して歩きながら、小坂が気さくに訊いてきた。

「ゲーセンに行こうと思って」

「一人で?」

 ヒロキは無言で頷く。

「気晴らしに一緒に行っても良いかな?」

 いいよ。とヒロキがテンポよく答えると、「たまにはいいよね」と、勉強の息抜きとして言ったのだろう。同意を求めてきた。彼は小坂に合わせて、頷いて笑ってあげた。

 ゲームセンターの中に入ると、休みの日だけあって人は店内の三分の二ほどいる状態だった。

「人多いなあ」

 小坂の声は側にいるというのに、遠くにいるかのように小さく聞こえた。店内から、ゲーム音があちこちから聞こえてくるためだ。轟轟と壁を反響しているが、この音が作り出すゲーセンの雰囲気が、ヒロキは好きだ。

 隣に立つ小坂はきょろきょろして、落ち着きがない。恐らく、久々に来たからだろう。様々な光景に目が行き、興奮にも近い状態に見えた。ヒロキはある方向を指さし、二人は移動をした。

 背丈ほどの両替機の前で、ヒロキは五百円玉をメダルに変えた。勢いよく落下してきたメダルを鷲掴みして、白色のカップの中に音を立てて入れていく。小坂も同じように両替して、二人はメダル落としのコーナーで遊ぶことにした。

 円形状のガラスの中には、高々とメダルが重なっている。左右に動くレールの側にはメダルがひしめきあっていて、所々に透明な袋に十枚くらい包まれたメダルも置かれていた。既に人は埋まっており、丁度よく若い男が去ったのでヒロキはそこに立った。

 左右に動くレールを、ヒロキは暫し見つめた。目を慣れさせるためだ。レールがタイミングよく近付いたところでメダルを落とせば、並んでいるメダルはレールに押され落下しゲット出来る。

 ヒロキは二枚連続で落とし込んだ。すると、メダルが三枚立て続けに落下した。

 よし! ヒロキはガッツポーズを作って、しゃがんで三枚のメダルを掴んだ。小坂も嬉しそうに白い歯を見せていた。

 離れた場所で人が去ると、小坂もそこでメダルを落とし始めた。

 それから、ヒロキは競馬で大穴を当てた。大量のメダルをゲットすると、小坂に半分近くあげた。遊んでいくうちに、二人のメダルは共同で使い始め、それは日が暮れるまで続いた。

 メダル落としのコーナーにまた戻った頃、白いカップは底が見えていた。二人は、店内の角にある自販機でジュースを買い赤いベンチで休んだ。人は大分減り、今からだったら空いているところではなくて、好きなところで遊べたなとヒロキはベンチから眺め思った。

「メダルゲームでこれだけ遊べるなんて、古村君のお陰だよ」

 炭酸飲料を勢いよく飲んで、小坂が足を組んで言った。

「たまたまだよ」

「でも凄いよ。あの第七レースでの万馬券がでかかった。それがなければ、今はもう自宅に居たよ」

 ヒロキは缶ジュースを片手に、声を出して笑った。小坂の褒め方が妙に面白かった。一人で来ていれば、競馬でも当たらなかったかもしれない。仮に今時分までいたとしても、一人で過ごしていただろう。彼と来たことで、いつもよりも楽しい日になった。何だかんだで、これで良かったと話しているうちに思えてきた。

「小坂君、今日楽しかったよ」

「本屋で見掛けなければ、こうはなってなかったね」

 今度また来ようと約束をして、二人は赤いベンチから離れた。競馬のコーナーで、残りのメダルを大穴に賭けることにした。小坂は何処と無くそわそわしていた。店内の掛け時計を眺めると、五時半を過ぎていた。そろそろ帰りたい時間だ。外すために賭けたようなものだ。

 見事に外し、二人とも落胆する様子もなくゲームセンターを去ることにした。

 出入り口にあるクレーンゲームのところまで、二人は縦に並び話しながらやって来た。前にいる小坂は、スッとその通路を出ていったが、ヒロキは一瞬立ち止まった。三人の男がクレーンゲームを囲んで遊んでいた。そのうちの一人と、ヒロキは目が合った。直ぐに反らしたが、相手はまだ目をキツくして見ているのが分かった。小坂は出入り口で足を止めていた。多分、三人の存在には気付いていないのだろう。

 彼らは、クレーンゲームを操作しながら話をしていた。人のことを話している風だった。ヒロキは耳をそば立てた。何か気になったが、右足を出して歩き始めた。

 小坂は何か言いたげに、口元を小さく動かしていたが、ヒロキが「また明日」と言って笑いかけると、小さく笑い「またね」と手を振ってさよならをした。

 小坂とは逆方向の、駅の方へヒロキは歩いた。半袖のYシャツに風が当たり袖が(なび)く。

 空は微かに明るい、遠くに目をやると薄紫色の空が建物の屋根を染めていた。

 帰ってからは、飯食って風呂入って、昼間買った漫画本を読む予定をしていた。だが、喉に何か引っ掛かっているかのように気になることがあった。

 あいつら、何か知っているのかな。人の話をしていた。それも、あいつについてのことかもしれない。それとも、懐かしい生徒の話をただ単にしていただけなのか。

 踵を返し、ヒロキは来た道を足早に戻った。 

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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