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休日。本屋を出てから、ヒロキは小坂という同級生に声を掛けられた。タカフミと同じクラスだった生徒だ。
ゲームセンターで一緒に遊び、帰りのクレーンゲームのところで、見覚えのある三人組に遭遇した。
小坂と別れて一旦は駅方面に向かうヒロキだったが、奴らの話している内容が耳に残り、ゲームセンターへと戻ることにした。
ゲームセンターの前まで戻ると、クレーンゲームには若いカップルだけがいた。男がボタンを押してクレーンを操作し、ミニスカートの女は縫いぐるみを何とかゲットして欲しいと、祈りのポーズをしていた。
まだ帰る筈がない。さっき見た感じとしては、来たばかりの雰囲気だった。この時間帯が空いているのも熟知してのことだろう。
ヒロキは成績が上がったことで、小遣いが増えた。勿論それは、目薬を使い始めて、成績が上がったからに他ならない。それもあって、特に休日は日が暮れてもここに留まっていることがたまにあった。これまでの休日は、使えるお金も尽きてしまい、夕方には帰宅していた。
ユイカを連れて、ヒロキはゲームセンターに来たことはなかった。塾の帰りに誘われたことは何度かあった。ヒロキはその度に断り、公園で話をしようと逆に誘い返し行くことを拒んだ。どうしても彼女とは、来たくなかった。来る時はいつも一人だった。
店内に入り、アーケードゲームのコーナーに真っ先に進んだ。奴らと遭遇するのは、いつも決まってここら辺だったのをヒロキは覚えていた。
点々と座る人混みの中に、やはり奴らはいた。
やんちゃな三人組は、格闘ゲームの画面の前に座り込んでゲームをしていた。そのうちの二人は、両隣のゲームをする為の椅子を使い座っていた。
距離を置いて立っているが、ヒロキの呼吸は浅くなってきていた。以前から奴らは苦手だったが、この間の休憩時間の一件以来、更に受け付けない症状が出てきていた。胃まで少しキリキリと痛くなってきた。
こんな姿、間違ってもユイカには見られたくないな。何とか踏ん張ろうと、ゆっくり拳を握る。手汗が滲んできたのが感覚としてあった。
どう声をかければいいのか。奴らの座るとこまで、まずは近付いてみるか。そこで気付かれたら足を止めて、話をしてみよう。出来るかどうか分からないけど、何としてでも訊いてみたいことがあるんだ。
自分自身を奮い立たせて、ヒロキは恐る恐るやんちゃな三人組に近付いていくことにした。
奴らの座る背後まで来たところで、止まろうかと思った。でも結局、声をかけることもなければ、かけられることもなかった。ヒロキは一つの列を、単に端から端まで歩くことになってしまった。
ためだ。そもそも自分は。あの三人に声をかけたことは一度もない。ここで遊んでいるのを見かけても、知らぬふりをして距離を取っていた。声をかけられたくもなかったから。
あの三人から放たれている不気味なオーラは、ヒロキにとって尤も苦手とするものだ。不良系特有の威圧感。
びくついていても、何も変わらない。今日ここで逃げたとして明日以降、学校で声をかけるのも恐らく無理だ。学校にいる新しく出来た仲間たちに、奴らと話しているのを見られるのも好かない。今思うと、小坂は見て見ぬふりをしたのかもしれない。
兎に角行こう。唾を飲み込み、ヒロキはゆっくりと歩き始めた。歩く直前、一つの方法が頭に浮かんでいた。
これなら声をかけられる。どう攻め立てられるかは覚悟の上だ。でもこれで話すきっかけが掴めるなら、悪くはない。
今度は、一つ隣の列を歩いていく。さっきより恐さはない。少しは慣れたのだろうか。呼吸は少し荒い中、奴らの座る向かい側のアーケードゲーム機の前で、ヒロキは座った。
直ぐ様、端に座っていた一人の男が即座たに詰め寄り、ゲーム中の男に声をかけた。
見えなくてもわかる。彼らは笑っている。
三人が、一斉にヒロキの顔を見てへらへら笑いだした。
真ん中に座りゲームをしている坂口が、歯並びの悪い前歯を見せた。
「古村、何しに来た? 小坂とのデートは済んだのか」
「普通に遊んでいただけだよ」声が震えたのが、自分でも分かる。
「お前、いつも一人なのに珍しいな」端に座る若林が、爪を噛んでいた。
その言葉に、ヒロキは特に反応しなかった。気持ちは既に、やる気になっていた。財布から小銭を出して、投入口に入れた。
コンピューターのプロレスラーのキャラクターと、坂口の操作するカンフーのキャラが対戦中に止まり、キャラクター選択の画面に切り替わった。
やんちゃな三人は、揃ってにやにやしていた。キャラクター選択画面に切り替わり、誰を選ぶ気だとでも言いたげだ。
ヒロキはキャラを選ぶ前に椅子を立った。三人の見える位置に移り、坂口の細い目を見た。
「タカフミの居場所、知ってるのか?」
「何だお前、そのためにここへ戻ってきたのか」坂口は、レバーを握りながら見返してきた。
「知っているなら教えてくれないか」
「それなら、こっちも聞きたいことがある」
端に座る米田が、隣のアーケードゲーム機に肘を乗せて話しに割り込んできた。
「米田君が知っているのか」
さあね。天秤のような格好をして、米田ははぐらかした。
「古村、座れよ。俺らも知りたいことがあるんだ」
坂口は画面に目を戻し、ぶつぶつ呟いていた。
従うつもりはないが、ヒロキは椅子に座った。キャラを選ぼうとレバーを動かしたが、時間切れでカーソルりのあるキャラクターに決まってしまった。
知りたいことってなんだ。以前脅された、成績が急激に上がった理由だろうか。だとすれば、それは絶対に言えない。目薬については、知られるわけにはいかないんだ。
交換条件だとしても、言うことは出来ない。どうしたら教えてくれるのか。
猫背になり、ゲームをする体勢に入る。画面上では、二人のキャラクターが、ファイティングポーズをとっていた。
勝つべきか、負けるべきか。
スピーカーから聞こえたファイトの声と同時に、ヒロキはレバーとボタンを操作し、今日プレイしたかったゲームを始めた。得意なんだよ。このゲーム!
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