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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
2章 --天翔艦クラールブルーメ--
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荒れた世界に花束を

 船内に引き込むレイショウと突然のことで驚きキョトンとするアトランティカ。


「それは二人に任せて、私はここで……」

「一人だったか孤独だったかが嫌いなんだろあんた」


「私は星に緑が戻っていくのを見届けられれば良かった」

「なら畑でも作って暮らせばいい、自分で植えた方が早く緑は戻って来るだろ」


「みんなの弔い合戦を命を懸けてまですることもないか……、戦うのに疲れちゃったし」


 暴れることも逃げ出すこともなくアトランティカは天翔艦の中に引き込まれる。


「でも驚いた、耳を引っ張ることないじゃない」

「それ飾りだろ。それにその服、他に掴むところないじゃないか。髪を引っ張れとでもいうのかよ?」


 天翔艦は垂直に立っているため通路を歩くことができない。

 天翔艦が星を出て無重力の空間でも前に進むための手すりをはしごに変えると、大人しくなったアトランティカを連れそれを登って指揮室へと向かう。


「バシッとかっこよく言い切った割には、人の手を借りないといけないだなんてな」

「戦闘で負った怪我ですもの仕方ありません、それにアトランティカを引き戻してくれてありがとうございます。誰と話し合っても戦闘となり、自分はもうアルケミストを説得することをあきらめていましたから」


 ハジメはジュンセイに背負われ、片腕が義手となり動かせないレイショウはジークルーンの手を借りて梯子を上る。

 ジークルーンたちが指揮室へと移動するとすぐに天翔艦は出航した。


 船体が振動し船体を固定していた固定具が外れ天翔艦が動き出すと同時に進路を塞いでいた天上が割れる。

 天翔艦がそのまま飛び立てる様で穴の開いた広い空間を突っ切り宇宙へと上がった。


「終わりましたね……」


 目の前には3隻の巨大な月の船。

 それらはゆっくりと前進しており三隻の横を天翔艦がすり抜けたあと、月へと向かって落ち行くのを見届けた。


「ユウセイが落としたのでしょうか」

「月の重力に捕まったんでしょ、じゃなきゃ出発直後に砲撃でも体当たりでもを受けていたはず」


「ではこれで終わりですね」


 加速を続け天翔艦は白い輪のついた青く輝く星へと向かう。


「戻ったら、地上に残ったあいつとも戦うのか?」

「ユウセイですか? いいえ、ナノマシンの操作権限を持っているのは自分たちと一緒に月へときました。一定距離離れれば自由に受け渡ししていた本来できないはずの操作権限も移行できないはず、地上に残ったユウセイは何もできませんよ」

「鬼がいなくなっているかいないか地上に戻ってみればわかることだよ」


 数時間ののち星の重力に引かれて大気圏へと入り、船体を赤く輝かせ白い尾を引いて巨大な天翔艦は星へと戻る。




 天翔艦はレイショウの居た土地を目指し着水できる場所を探して飛び回り、陸に近い海へと不時着した。


「今見た感じだと鬼は見えなかったね。人の少ない場所を通った可能性もあるけど」

「でも鬼を操作していた電波は感じられない、終わったみたい」


 着水した天翔艦は近場の浜辺に向かい岸へと乗り上げ停船すると月の生存者たちをおろす。

 月では時間の感覚などなかったが地上ではすでに日が落ち、新たに日が上ろうとしている時間帯。

 月の生存者たちは天井の無いどこまでも続く果てしない空に驚いていたがアトランティカの指示に従い落ち着いて行動していた。

 アトランティカが月の人間たちを仕切りまとめる様子を見ながらジュンセイとジークルーンは今後についてを話し合う。


「私はアトランティカと月の人間、残ったどっかにいるだろうユウセイを探して捕まえてチュウジョウのもとに帰るよ。彼らにもしばらく食事の面倒をみないといけないし。それに月の人間はこの土地じゃあ言葉が通じないからみんなでどうするか考える」

「そうですか」


「ジークルーンも来る? チュウジョウはきっと町を復興させてると思うけど」

「いいえ、自分は……」


 知らない土地を見回すハジメとレイショウの方を見て答えに困るジークルーン。

 ジュンセイはそれを見て彼女に背を向けアトランティカの方へと向かって歩き出す。

 ジークルーンは岸辺に咲いている花を集めているハジメの横を通り過ぎレイショウのもとへと歩む。


「レイショウさんは、村に戻りますか?」

「戻ってもだれもいないしな……鬼はいなくなったんだろ? どっかハジメと暮らせる場所を探すよ。ああ、当分暮らす分の食料をどうするか……」


「自分と一緒に暮らすというのは?」

「戦いで腕を失っちまったし俺はもう役には立たない、ジークルーンが旅をするというのならついて行きたかったけど。これじゃあ、な。お荷物だろ」


「レイショウさん」


 ジークルーンがレイショウの義手に触れる。

 簡易的な義手から人の腕に近しい形へと変わり、直後レイショウの肩に痛みが走り反射的にジークルーンを振り払う。

 振り払った腕は銀色の義手。

 片腕だけだと歩くのにもバランスが悪くなると形だけ取り付けられた動かない飾りの腕が動いたことにレイショウは驚く。


「これは?」

「ユウセイほど自由自在というわけではありませんが、何度か力を貸し与えていたためか自分のそばにいる場合はレイショウさんに自分のナノマシンの力を貸し与えられるようです。その間自分はアルケミストの力を使うことが出来なくなりますが、鬼という危険がなくなった今もう必要ないでしょう。レイショウさん、自分と一緒にいませんか?」


 ジークルーンが差し出した右手に、レイショウは銀色の腕でつかみ返し答える。


「ジークルーンの役に立てるのなら」

「お願いしますレイショウさん」


 その様子をハジメと一緒に見ていたジュンセイ。

 ハジメがジュンセイに何か耳打ちし頷くと彼女は天翔艦を解体し建物を建てる。

 白い洋風の建物に金色の鐘のついた施設。


「ジュンセイ、何です? 協会など立てて、驚きました……」

「ほら餞別、お幸せに」


「ははは……、自分たちは先ほどまで戦っていたのですよ? 戦闘も終わったばかりで、とても今はそんな時では……」

「今じゃないと、住む場所や食料調達で忙しくなるしできるかどうかもわからないでしょ。ほら、早くおいで」


 天翔艦を解体しジュンセイが抱えてきたナノマシンを変質させて純白のドレスを着させ、同じようにレイショウの着ている服をタキシードに作り直した。


「はい! お兄ちゃんをよろしく」


 ジュンセイと一緒に歩いてきたハジメはジークルーンに両手に抱えるほど集めた花束を渡す。

 突然できた白い建物に月の住人たちを集まってきてレイショウとジークルーンの姿を見て手を叩く。


「ですって、撤退したいですけど。……行きましょうか」

「あ、ああ。でも俺、こういうのの作法とかわからないぞ」


「自分もです、知ってはいても行動としては……」


 二人は手を握りなおし鐘の音を鳴らす白い教会へと向かって行った。

これにて終了です、ありがとうございました。

評価や感想などいただければうれしいです。

それでは、またどこかで出会えますように。

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