楽園の崩壊 2
一瞬のスキを突いたジークルーンの不意打ちは鬼となったゲッカが飛び掛かってきて止められるが、彼女の胸を貫きそのままゲッカごとユウセイの背中へと鉈を振り下ろす。
貫かれ血を吐くユウセイだったが、しかしすぐに胸から流れ出る血が止まる。
反撃に肉塊から延びてきた黒い棘がジークルーンを貫く。
「せっかくの不意打ちを無駄にしたね? ゲッカと戦った私はナノマシンの操作権限を移した後だったから血を止められなかっただけ」
「……止められればそれでよかった。自分ではユウセイを殺し切れませんので」
「どういう?」
ゲッカを貫いたジークルーンはナノマシンの操作権限の奪還によって足場となっている怪物を解体する。
「おっと……」
バランスを崩したユウセイの背中にジュンセイから受け取った鎖を伸ばし、まだ残っている町の一部からバリスタを作り出していてそこからの一撃。
ジュンセイが怪物を狙っていた物より小さく細い金属の矢はユウセイの胸を再度貫いた。
「……おしまいですユウセイ」
二人は巨体から転げ黒いナノマシンで覆われた地面へと落ちる。
最後の力でユウセイが天井に向かって手を伸ばす。
「……いいや、まだだよ。すべて終わらせるんだ」
怪物の残骸から鬼となったスイセイとジュピターが武器を構えて立ち上がるとユウセイを守るように立ちはだかった。
それと同時に建物全体に大きな振動が発生する。
「何です、何をしたんですかユウセイ」
当のユウセイは自身の体の維持に黒い角を生やし鬼となる。
鬼となったかつての仲間を相対している間にも振動は連続し天上に大穴を穿った。
天上が崩れ空には黒い穴ができ、真空の空間を隔てていた壁が消える。
そして建物の外へと漏れ出す空気。
あらゆるものを吸い出す荒れ狂う暴風に怪物の残骸、ナノマシンのかけら、ユウセイたちの体が舞いあがっていく。
「空気がっ!」
「さっきの振動は砲撃かゲッカたちが操作していた月の船がこの上に控えていたのを忘れてた。ユウセイめ、なにがなんでも私たちを……」
ジュンセイは離れたところにいるハジメのもとへと向かい鎖を伸ばして保護、レイショウとジークルーンはナノマシンでその場に体を固定し耐える。
同じように体を地面に固定する鬼となったスイセイとジュピター。
鬼となったアルケミストは指示役を失ったからか襲ってくることはなく、ジークルーンとレイショウもジュンセイのもとに移動してもおってくることはなかった。
「これからどうしますか?」
「ここからとりあえず離れる、空気がなくなる前にね。この施設の維持はもう難しいだろうね。星に戻るための船、どうしよっか」
「クラールブリューメは墜落し大破しましたものね」
「どうせ燃料もなかったけどね」
4人が立つ床に扉が作られる。
地面にできた扉から兎の耳が伸びてきた。
「ぴょん」
「アトランティカ!?」
天上に空いた大穴から吸いだされそうになるも体を固定し、腹部に銀色の治療痕を残したアトランティカは穴の中からジークルーンたちを見上げて話しかける。
「怪我を治療して薬の毒気を抜いて回復を待ってたんだけど、終わっちゃった?」
「ええ、ここを支配していたゲッカも暴走したユウセイも死にました。月のアルケミストはあなただけです」
「ふーん」
「どうしますかアトランティカ? いまさら自分たちが戦うことは無意味だと思いますが」
「帰りたい?」
「何です?」
「最終的にゲッカが直接指揮して星へと攻撃をするときのために残していた天翔艦が残っているけど、星に帰りたい?」
「あるんですか天翔艦が?」
「案内するよ」
「……いいんですか、自分たちはここを壊しに来たあなたたちの敵なんですよ?」
「一つお願いを聞いてくれるのなら」
「何ですか?」
「ここはもうだめ、維持できない。ここに住む罪なき月の民の保護をお願いしたいな」
「生存者がいたのですね、よかった」
ナノマシンを操作し小さな小部屋を作り出し、空気の抜けていく大部屋と隔離すると4人はアトランティカに続いて穴の中に入る。
重力操作の行われていない低重力の通路を降りて行く。
落下していく一本道の先に垂直に立つ一つの船。
月の船とは形の違う翼を持った大型の宇宙船。
「天翔戦艦」
「戦後に就航した三隻のド級の天翔戦艦の一つだよ。自分の象徴だからかゲッカはこれを壊せなかったみたい、ここは上の神殿の最深部なんだよ。本来の性能を生かせなくても飛ばすことはできるでしょう。生存者はすでに船に乗っています、聖地ということもあって彼らは騒ぐことなく落ち着いているはず。彼らを連れて行ってほしいな」
「アトランティカは?」
「私は月に残るよ、もう星を汚したく無しね! ここから星を眺めるよ、天井の穴を塞ぐ残った空気と食料なら一人くらいは生きていけるかも、だし」
床に着地し4人は天翔艦に乗り込む。
「上の状況は回復を待ちながら見ていたから、すでに人は非難させていて飛び立つ用意はできてる。それじゃ後はよろしく、しっかり面倒見てあげてね」
「本当に残るんですか?」
「バイバイ」
ハッチが閉まる。
ジークルーンたちが指揮室へと向かおうと背を向けると、レイショウが開閉スイッチを押し同じように離れていこうとするアトランティカの兎の耳を掴む。
「イダダダッ、なに? 引っ張らないで!」
突然の行動に驚いたのはアトランティカだけでなくジークルーンとジュンセイも同じ。
「保護したやつらのためにもあんたは必要だろ」




