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放浪屍鬼の世界 デーモンオーガディストピア  作者: 七夜月 文
2章 --天翔艦クラールブルーメ--
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楽園の崩壊 1

 

 無数に伸びた棘で無理やり継ぎ接ぎにされた肉の怪物。

 銀色の波の動きは止まりゆっくりと細かな銀色の砂へと変わり崩れる。


 その階物から半身を出す褐色肌のアルケミスト。

 彼女は立ち止まるジークルーンたちの方を見て声をかける。


「やぁ……ジークルーン・アインホルン」

「……ユウセイですか、どうしてしまったんですか」


「ゲッカと一つに慣れたよ」

「そうですか……あなたも壊れてしまったんですね。一緒にいられると思ったのに」


「私たちが始めたこと、私たちが消えれば地獄は終わる。ありがとうおかげで月のアンテナを奪えた」

「アンテナって、鬼を操っているという……今あなたは何をしているんです?」


「地上のアルケミストの襲撃、ここと同じことを地上でも起こしている」

「どうして誰もかれも、壊れてしまうのですか?」


「さぁ、私たちの使い方を間違ったからじゃない。兵器は兵器、暴力を振りまく存在。私たちはさぁ、化け物なんだよ。私たちこそがこの姿になるべきだったと思わない?」


 肉塊の山からゲッカだったものを引き上げ、その小さな体を抱きしめるユウセイはジークルーンたちに向けて腕を伸ばす。


「ここにいるのは後3人、じーくるーん、じゅんせい……」


 怪物は装甲を纏い黒い棘をハリネズミのように生やすと、巨体に似合わない速度で走り出した。

 狙いはジークルーン。

 ジュンセイはハジメを抱え鎖を伸ばし逃げる。


「ここまで一体誰と戦いに来たのやら、地上にいる残りのユウセイも帰ったら屠らないといけないね!」


 動き出す肉塊と黒く変色していく銀色の砂。

 肉塊に制御を奪われたナノマシンは溶岩のように冷え固まり熱で割れ、液化と固形化を繰り返しながらジークルーンを追う。

 レイショウは眼中にないようでジークルーンを追う肉塊と黒い波は、建物を飲み込みそれをナノマシンと解体しながら進む。


「……そうですねユウセイを倒します」

「それしかないもんな」


 逃げれば逃げるだけ相手の操るナノマシン量は増えて行き不利になっていく状況に何かないかと考えるジークルーン。

 距離を取ったジュンセイがバリスタを作りユウセイの操る肉の怪物に放つ。

 放たれた太い鉄の針は怪物の装甲に弾かれ火花を散らす。


「駄目か、ユウセイを直接狙えれば何とかなるのに。アルケミスト同士は……」


 うっとおしそうに黒いナノマシンで壁を作りバリスタの二射目を遮る。

 そう言ってジュンセイは自分の手を引くハジメの姿を見た。


「わたしが、うつ?」


 アルケミスト以外ならアルケミストを仕留められる。

 狙いを定めた後に引き金を引かせるだけ。

 それだけで無防備に背を向けるユウセイを吹き飛ばせ決着がつく。

 簡単な方法でありアルケミスト同士ではできない殺し合いに決着をつける方法。


「させられないよ、私たちはあなたのような弱い民間人を守るためにいるんだもの。君は戦士ではないから戦わせるなんて私にはできないよ」

「お兄ちゃんを守らなきゃ」


「なら、そのお兄ちゃんに手伝ってもらうよ。ここまでかかわった彼ももう戦士だ、アルケミストを倒すのは彼にしかできない」


 ハジメをその場に置きジュンセイはナノマシンで作った鎖を伸ばして走り出す。

 ジークルーンに夢中でジュンセイの接近に気が付かないユウセイ。


「私たちは戦いを止めるために生まれたんだもの、私たちが」


 アルケミスト同士は殺し合うことはできないが伸びた鎖は意志を持たない、もしそれがユウセイに引っ掛かった場合は細い鎖が抵抗する間もなく首を刎ねる。

 細く細くピアノ線のように細くしユウセイのそばへと伸ばして飛ばす。

 細く伸ばされた鎖は装甲から延びる無数の棘に引っ掛かり、ジュンセイの思った通りにはいかない。


「邪魔くさい棘だ」


 逆に怪物が大きく身じろぎ棘に引っ掛かったジュンセイの伸ばした鎖が引っ張られる。

 即座に切り離すが勢いでジュンセイは大きく吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされ更地となった地面に着地するとそこへレイショウがやってくる。


「大丈夫か」

「あんたはウロチョロと何してるの? ユウセイがうっとおしいと思えば一瞬で殺されるぞ」


「何か使えるものを、焼けばいいんだろ? 油とか無いか探している。見つかりそうもなかったしちょうどよかった、俺にあの力を貸してくれないか、なにか武器を貸してくれ」

「ジークルーンのようにうまくはいかないよ。一種の思考の同調、誰にだってできるわけじゃない。それにその怪我でまだ接近して戦う気なの?」


「ジークルーンが戦うなら。なぁ、何か飛べるようなものをくれないか、怪物を倒すのは無理そうならあいつのもとに行かないとダメそうだ」

「そう……確認してみただけであんたには戦ってもらうつもりだけど。なんか100年前を思い出すな。ならほら、道具なら貸し与えるから」


「助かる」

「私は私でなんとかするから、あんたはジークルーンのもとにでも行け。戦うと決めたなら死にに行くのは止めない、自分の妹とジークルーンを悲しませないでよ」


 散らばった器から長い鎖を作り出すとレイショウに投げ渡す。


「あんたの体内には私やジークルーンのナノマシンが入っている。棘に触れてもすぐに死ぬってことはないだろうけど、でもユウセイに制御を奪われたらあんたは鬼になる。あの怪物の一部にね」

「ああ」


「アルケミストの力は貸せないが、援護はする。あの怪物のそばまで行ってこのワイヤーの先を残っている建物にくっつけろ。あとは私が気を引いて何とかする」

「ありがとな」


 動かしずらい義手で鎖を持ち左手で鉈を構えると怪物に向かって走り出す。


 背後からは肉の塊、足元には黒いナノマシンの波、ジークルーンは背中に背負う羽を生やし腕から建物に向かって伸ばしたワイヤーを巻き取りながらその加速で空を飛ぶ。

 ばねの力で銛のついた細いワイヤーを放ち同じナノマシンでできた建物と同化させるとそれを巻き取り加速する。


「早い、逃げるのでやっとで反撃できない。ユウセイをあの塊からおろして怪物のナノマシンの制御を奪うだけなのに」


 空を舞うジークルーンはユウセイの後を追って走るレイショウの姿を見つける。

 彼は怪物の棘に鎖を絡めその階物の背に上っていく、ユウセイは気が付いていないようで巨体を操りジークルーンを追う。


「レイショウさん、なんて危険なことを……。ですが他に方法も……」


 とはいえこのまま逃げているだけではいずれ追いつかれると思ったジークルーンは体を傾けワイヤーを伸ばして行き先を変えレイショウが追い付けるように移動する。

 移動し新たに作り出したジュンセイが放つ二発目のバリスタ、ナノマシンの壁をすり抜けナノマシンで覆われていない足元を穿つ。

 バランスを崩しよろけたところで逃げ回っていたジークルーンが舞い降り、棘をすり抜けユウセイへと近づく。

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