九十三話 こんなわたしも
今回で最終回です
地下歩道通路の中は薄暗く湿り気を帯びていた。
そこかしこに暗号みたいな極彩色の落書きが描かれている。
彼は三脚にカメラを取り付けていた。
わたしはレフ板を杖のように床に立てていた。
機材を粗末に扱っている自覚はあったけれど、彼も気にしていなし、陰気臭い通路のはずが、何故か和やかな雰囲気が漂っていた。
静かにカメラのシャッター音がする。
彼は撮影をはじめていた。
ただコンクリートしかない通路に錆びの浮かび上がった蛍光灯から無機質な明かりが冷たく辺りを照らしている。
そして何かにあがなうように、それは不規則に点滅していた。
滅びへの抵抗か、それとも永遠への熱望か、時に取り残された地下歩道の中は、時間の流れが不規則になっているような感じだった。
シャッター音が鳴り止み、一瞬の静寂の後、彼の声にわたしは我に返った。
「退屈だよね」
「ううん…」
「そう?無理してない?つまらない…」
「そんなことないよ…つまらなくないから大丈夫だよ」
わたしは彼に気を遣わせたくなくて、慌てて言葉にした。
そして、それはあまりよい対応ではなく、その証拠に彼は浮かない顔をしていた。
「付き合わせちゃってごめん」
彼は私に対して悪いことをしたと思ったのだろうか
そう謝ってきた。
わたしは違うと言いかけてその言葉を咄嗟に飲み込んだ。
彼はわたしが退屈していると思い込んでいるだろうし…
それを否定してわたしなりに楽しんでますと言ったところで彼はきっと信じない
…はず、きっとそのはずだから…
「不思議な感じ…時が止まっているみたい」
「えっ」
彼がわたしに聞き返すように言葉をかけてくる。
でも…わたしはそれをあえて無視することにして、自分の服に自ら手をかけて脱ぎはじめた。
「ちょっ」
「何?」
「服」
「脱いだけど」
「何で」
「暇?だから?」
「えっ、ちょっ」
「何その顔…口半開きで」
彼の呆然とする顔が可笑しくて、何故か愛らしくて…
「可愛い」
思わすそんな声がこぼれてしまった。
「可愛い?ってアーサ…」
「カメラマンが仕事をして、女優が暇をしていたら…不平等よね」
わたしは悪戯にウインクをして見せる。
「でも、だからって服は」
「わたしは女優よAVのね」
「だからって、」
「いいから!撮って」
わたしはレフ板を床に置いて、お気に入りのポーズをきめた。
彼のシャッターをきる音が響いた。
わたしは彼のことが好きだ
ずっと好きかどうかはわからない…けど…この好きの続きが知りたくて仕方がない。
こんなわたしもどうやら恋ができたらしい
おわり
回収不良多々ですが今回で最終回です
読んでくださった方ほんとにありがとうございます
感想もいただきありがとうございました




