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二十八話 アイスコーヒーの前に
「早苗?何かあったの?」
「別に何もないですよ…幸せすぎて怖いくらいです…先週の水曜日に結納をしたばかりなんです…」
そう言って彼女は乾いた笑みを浮かべた。
「おめでとう…」
「先輩にも私の幸せ分けてあげたいくらいです」
「…それじゃ…少し分けて貰おうかしら…」
「良いですよ…」
「早苗…あのさ」
私は何て言えばよいのか解らなくなって…言葉を濁した。
「先輩?」
「何か無理してない?」
「えっ…何の事ですか?」
「結婚…無理してない?」
「無理だなんてそんなこと…私…今幸せなんですよ」
そう言って彼女は膝の上のバックを覗き混むように俯き…左手で顔を覆った。
「ちょっと早苗…」
彼女は中指で目尻をなぞり、天井を仰ぎ見ると…私に笑顔を向けてきた。
「月島知美は、幸せですから!」
「早苗…」
「私自身…やっと幸せになれそうなんですよ」
「早苗…」
「来週末、淳史さんと式場選びに行くんですよ…ねぇ、先輩、チャペルとか…」
彼女が何か言いかけていたのだけど、私は早苗に強い口調で声をかけた。
「早苗、私に相談したいことがあるんじゃないの?」
「先輩…」
「何かあるんでしょ…さっちゃん…」
一瞬、何もかもが止まったかのような、静寂が訪れて…
コト…
「はい…アイスコーヒー」
目の前にアイスコーヒーのグラスが現れた。




