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一話 バイト

普通?の恋愛物を書いてみようかと思いまして…他の作品がスランプに陥ってしまい、暗中模索の末、考えているより何か書いてみようと思い立ちまして…感想などいただけると執筆意欲が高まりますので、よろしくお願いいたします。

こんな私も恋したい…

最近そんなことをよく考える…


私、荒川 聡美(さとみ)

女優名 大空 あさみ

ブログではアーサで…

AV女優で古本屋のアルバイト店員、最終学歴は短大卒、気がついたら私の人生、二十代半ばですごいことになっていた。

短大生の時に、生活費と授業料を稼ぐ為に夜、居酒屋でバイトをしていた。

午前中に講義が無い時は早朝までバイトをした時もあった。

日によっては、大学にいる時間よりバイトしている時間の方が長いくらいだった…

当時の私は少し自由な時間とお金が欲しかった…

そんな時、バイトの帰り道にスカウトされた。

バイト先に最近よくくる男性だった。後で聞いた話だが、私目当てで店に来ていたらしい…

それをはじめて聞いたときは、複雑な感情を抱きながらも、少し嬉しくもなったのだけれど…よくよく聞けば…恋愛対象じゃなく、商品として見ていたらしい…

それがわかった時、期待した私が悪いのだけれど、軽く落ち込んだ。

同じ会社に在籍しているそのスカウトマンをその後、一週間ほど無視してやった。

見た目が私好みだから余計に腹が立った。

そのスカウトマンは今は私を含め数人の女優の掛け持ちマネージャーをしている…。

今日は、というか今日もの方が表現としてはあっている気がするんだけど…撮影も打ち合わせもないのでバイトに勤しんでいた…私何で此処にいるんだろう…

そんな思いが心の端にあった。

それは心の中に色として現れる…青色…それも濃い青色だった。

濃い青色が心の端を染めていった…限りなく黒に近く…闇ではなく…ひたすらに濃い青色…冷たさと孤独感…

私が今、此の場所にいることすら判らなくなってしまいそうな、心の端の小さなしかし物凄く重く深い孤独感…鉛のような無機質に冷たく重い違和感が私の今を意味の無いものにしようとしていた…

「いらっしゃいませ」

自然と出る言葉…

自然と出る笑顔…

違和感も不快感も、そして必要以上に好意を抱かせない接客…

私の心と体を少しずつ削っていく…

自分を表現しようとすればするほど、それは鉛筆やチョークのように削れて減っていく…

自分を押し殺せば、それはやはり消しゴムのように削れて減っていった…

削られていく心と体は、もう、消えそうなぐらい小さくなってしまっていた。

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」

「いらっ…しゃいませ」

私と同じくらいの年頃の男性がカウンターの上に一冊の写真集を置いた…

それは私が短大卒業した時に発売された…私の写真集…一瞬、手に汗がにじむ…

当時、AV女優としてまあまあだった私がAV以外の方面へと進出しようと企画されたセミヌード写真集だ。

売り上げは…思い出したくない位の数字だった…

まさか…店先にあるなんて…

表紙には髪の色も形も違う五年前の私が、思いっきりよそ行きの笑顔で微笑んでいる。

ブラウンゴールドの髪に手を添えて、肘を軽く開きワキをチラ見せしているポーズが当時の私のお気に入りで…子供っぽさのある顔立ち…少し厚みのある唇…

五年の月日が一瞬目の前を通りすぎた…

ピッ

「三百円になります」

発売時二千円だったその本も三百円の価値しかない…

何だか今の自分の価値を言われているような錯覚に陥った…

「あっ、三百円…三百円ね」

男性はジーンズの後ろのポケットから黒革の長財布を取りだし、三百円をレジのトレイの上に置いた。

「三百円、丁度になります」

何時ものやり取りの筈が、何だかやけに長く感じた。

質の悪いビニル製の手提げ袋に商品を入れる。

ガサッと耳障りな音に少し苛つく…

袋の口の中央に短く切った赤いテープで軽く封をしてお客に渡した。

気のせいか私の事を見つめてる気がした。

「ありがとうございました」

私が軽く会釈をすると男性は立ち去って行った。



「お疲れ様でした」私は若草色の薄手のコートに腕を通しながら、同僚に手短に挨拶をしてタイムカードに打刻し外へ出る。

ドアを開けると夕日が外の世界をオレンジ色に染めていた。

バイトを終えた私は何時ものように店先の自動販売機に向かった。

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