オマケ話その1 1章でのアリサ
私の名前はアリサ。昔は良くある普通の4人家族だった。
母親はルナが生まれてすぐに病気で他界し、父親は冒険者だったが町で暴れていた暴漢からルナを守って死んだ。その時のルナの落ち込み具合は酷く、元々病気だったのも影響して数日間寝込んでしまった。
家計を助ける為、私は飲食店で仕事をしていた。しかしその直後ぐらいからルナの病気が悪化し、治療費がかさむようになってしまう。
ルナは賢い子だ。すぐに家計が厳しくなった事に気が付き、自分も働くと言いだした。だが胸の病気のルナは激しい動きは出来ず、まともに出来る仕事はなかった。
そうなると方法は1つしかない。私が父と同じ冒険者となって稼ぐと決めた。
武器は父の形見の剣で、生前に身を守る程度に剣術を習っていたので、冒険者になる試験も何とか受かる事が出来た。だからと言ってもちろん最初から上手く稼げる訳がなく、ゴブリン相手に苦労もしたし魔石が1つも出ないで怪我だけした時もある。
「……お姉ちゃん、私の為に無理はしないでください。もしお姉ちゃんにまで何かあったら……」
上手く稼げない私に、家に帰る度に心配そうな顔で出迎える。
「大丈夫だよ。最近剣の扱いにも慣れて来たからな。そろそろ3階層にも足を延ばしても平気そうだよ」
この時、私が冒険者になって既に3か月が経過している。最初は誰とチームを組むのも考えたが、素人同然の私を対等の仲間として見る者はおらず、体目当てで近づいてくる男だけだった。
そんな経験から仲間を探すのに距離を置く事になっていたのだ。同じ女性冒険者としてリーザと仲良くなったが、彼女の元仲間は全員町を出ており、信用出来る人を紹介してもらう事も出来なかった。
ようやく冒険者生活に慣れて来た時、ルナの病気を治せる治療師が現れる。ただ既に大人気で、予約は1年待ちの状態だ。それでも他の医者が匙を投げた病気を治せるならと、その治療師に予約を入れる。ただその時に知ったのは、一回の治療に200万ゼニーもの大金が必要だという事だった。
ここから私の金集めの戦いが始まる。これにより魔石が出ない時の苛立ちも強くなり、自分の実力の無さに焦りも見えだした。
無茶な進行をして大怪我を負った事もあり、その時のルナの自分を責めるような顔を見てしまった。自分の責任と思いつめてしまい、自らの命を絶ちそうな雰囲気を感じた。私は必死に無茶をした自分が悪いと話たが、完全には納得してもらえない。不安は残ったが、怪我の治療に使ったポーション代も稼ぎ直さないといけない。時間がないのだ。
さらに数カ月の月日が過ぎてしまい、ルナの治療日まで時間がないのに必要額の半分程しか稼げていない……。
こうなったら一発逆転で魔導具を見つけるしかないと思っていても、そう簡単に見つかるはずもなかった。そんな絶望感に気持ちが染まる中、変なぬいぐるみを拾う。正直こんなのに構う時間も惜しいのだが、その人を馬鹿にするようで気が抜けるデザインの顔を見て、何カ月ぶりかに気が楽になった。
その事もあってギルドの持ち主探しを頼んだが、何故か私が預かる事になってしまった。
ルナは病気のせいで外で遊ぶ事が出来なかったので友達もおらず、持ち帰ると一発で気にいってしまう。更に次の日に迷宮に持って行く事になってしまったのは、咄嗟についた嘘のせいもあったが私に余裕がなかったのも原因だろう。
だがその日は不思議な事が起こった。
私は無茶をして魔物に負けた。死に恐怖しながら意識を失った所までは覚えていたのだが、次に意識を取り戻した時には装備が外れ周りに置いてあり、上の階層への階段近くだった。すぐに思い付いたのは他の冒険者が私を助け、意識を失っている内に体で報酬を払う事になったのでは?。そう思い体の調子を探ってみるがとくに異常はなさそうだ。
だがここでのんびり考えている時間はない。すぐに装備をつけ直して地上に帰らないと……気を失っていた時間が分からないので、魔物の凶暴化が始まって助かった命を無駄にする訳にはいかないのだ。
装備をつけ直した私は、ルナから持って行けと言われたぬいぐるみが落ちているのに気付く。リュックから故意に取り出さないと外に出るはずのないそれは、かなり汚れた状態で近くにあったのだ。不思議には思ったが、とりあえず持ち帰る事にする。
次の日の朝……ルナが激しく落ち込んでいた。よく見ると目は充血しており、泣いていたのがすぐに分かった。事情を聞いて見ると、あのぬいぐるみが無くなってしまったようだ。
朝食の準備はしてくれたが、家を出る時にルナは倒れてしまう。ぬいぐるみが無くなったショックからか、病状が悪化したようで立っている事も出来なくなってしまった。すぐにベットに連れて行って寝かしたが、「ハヤテさん」と虚ろな意識の中で呟いているだけだった。
正直、なぜ短期間でただのぬいぐるみに依存しているかは理解出来なかった。
部屋を探したがぬいぐるみは見つからず、そんな状態のルナを置いて行くのは気が引けたが、今は時間もなければお金もない。だが深い階層に行く事が出来ないのは、昨日身を呈して分かっている。5階層までで時間一杯まで粘ったが、魔導具はもちろん、魔石の収穫も思しくない。
こんな状態が3日ほど続いたが、ルナの調子が良くなる事もなく、金策も何も出来てはいなかった。
ルナの治療予定日の前日。こうなったら更なる無茶をして中層に行き、魔導具を探すしかないと覚悟を決めて迷宮に向かった。
しかし、その出鼻を挫かれる。2階層への階段のところでルナのお気に入りのぬいぐるみを見付けてしまったのだ。これでルナの体調が少しでも良くなるかもしれないと喜ぶ気持ちと、迷宮に潜る時間が短くなってしまった苛立ちがぶつかりあう。複雑な気持ちだ……。
目の前に見つけたぬいぐるみと、手に入る確率の低い魔導具探し……それを比べるとすぐに答えは出た。一先ずルナの元に戻り、安心させる事にする。これで体調が戻れば例え私が無茶をして帰れなかったとしても、少しは悲しみが減ってくれるだろうと考えたのだ。
だがその心配は杞憂で終わる。ぬいぐるみを持ち上げ、帰ろうと歩み始めた途端に奇跡が起こったのだ。甲高い音と共に、足元に先程まではなかったはずの武器が現れたのだ。
「なんだ今の音は?……ん?こ、これは!?」
拾ってみるとすぐにこれが魔導具だと分かる。前に一度、リーザが持っている魔導具に触れさせて貰った感覚、魔力が流れるような感じがあったのだ。
ここは1階層。魔物はスライムしか現れず、今まで魔導具が発見された前例など1度も聞いた事がないのだ。だがこれはまさしく魔導具…これでお金が手に入りルナが助かる。その気持ちで一杯になり、家に帰る足取りは何時振りかに軽かった。
「ルナ!、良い知らせがあるぞ!なんとお前のぬいぐるみが迷宮で見つかったんだ!」
私は家に着くなり一直線でルナの元に走る。
「そ、それは本当ですか!ゴホ、本当にハヤテさんが帰って来てくれたんですか!ゴホゴホ…」
ルナはその事を知ると、咳をしながら体調の悪い体を無理やり起こしてこっちを見つめて来た。すぐにでも安心させようとぬいぐるみを見せたが、明るい所でよく見てみると結構汚れている。このまま体調の悪いルナに渡すかどうか悩んだが、瞳に涙を貯めている顔を見てしまったら渡すしかなかった。
「お前は今、体調が悪いんだから無理はするなよ」
そう一言告げたがあまり耳に入っていようで、ぬいぐるみを抱きしめて泣き出してしまった。なにやらブツブツ言っているが良く聞き取れない。しかしルナの安心したような顔を見て一安心出来た。
「そうだルナ!実はもう1つ良い知らせがあるんだ」
私は迷宮で手に入れた魔導具を手にとって見せてあげた。ルナはそれを見て驚いている。それもそうだ、私みたいな低ランクの冒険者が魔導具を見付けるような奇跡を得たんだ。
もしかしたら、私がどこかから盗んで来たと思われるかもしれない……そう少しは心配したのだが、ルナは「ありがとうございます」と言いながら泣きだしてしまった。嬉し涙でも何となく居づらい雰囲気になってしまったので、布団に入ってゆっくり休むようにだけ告げ、私はギルドに魔導具の換金を行いに向かう。
ギルドでリーザに経緯を説明すると、とても驚いていた。彼女の記憶の中でも、1階層で魔導具が見つかった前例はなかったからだ。それでも事情を知っているので、満面の笑みで喜んでくれた。
あとからギルドマスターのルドルさんから聞いた話だが、リーザもお金を貯めてルナの治療費の協力をしようとしていたらしい。だが特定の人の為に1度でもそれをやると、ギルド職員として公平な立場を維持できなくなる。なのでやめるようにルドルさんが言い聞かせていたのだ。しかし、職を失っても構わないとお金を貯めていたようで、私はリーザに感謝の気持ちでいっぱいになっていた。
家に帰ってみると、ルナの体調は劇的に良くなっていた。ぬいぐるみ1つでここまで変わるのは不思議だったが、思い返してみるとあれが家に来てから奇跡の連続だ。
そんな中、また1つ不思議な事が起こる。キッカケはルナの左手の薬指に指輪が見えた事だ。話を聞くとその指輪はぬいぐるみから貰ったと言っている。触ってみて驚いたが、なんとそれも魔導具だったのだ。本人はこれのおかげで体調が良くなったと言っているので、おそらく体調を回復する魔導具なんだろうと理解する。着けている指は気になるが、幸せそうで体調も良くなっているので無理に外すようには言えない。
何故ぬいぐるみが魔導具を持っていたのか、その疑問は残ったが今はルナが無事ならそれだけで十分だった。
その日の夜は良く寝れなかった。もしかしたら今日一日の出来事が全て夢だったのではないかと、心配になり怖かったのだ。それは朝日を浴び、お金を確認してもまだ気持ちが落ち着かない。
ようやく実感が湧いたのは、ルナの治療が終わり治療所を出た時だ。治療を受けたルナの顔色は良くなっていて、足取りもだいぶ軽そうに見えた。
その帰り道、ルナは突然冒険者になると言いだした。詳しく聞くと、自分も治療の魔導具を見付けて病に苦しむ人を救いたいとの事だ。志は高く素晴らしい物だ。しかし迷宮は死と隣り合わせの危険な場所……そんな所に病み上がりのルナが行ってどうにかなるものではないと感じる。
だから私は1つの条件を着けた。冒険者養成所に入ってもらい、そこで合格を貰えと。武器を扱った事はおろか、体力的にも心配が残るルナだ。とてもじゃないが合格なんてありえないと思っていた。これで諦めてくれれば御の字だと……。
しかし結果は見事合格して帰ってきた。運が良いのか悪いのかルナには魔法の才能があり、かなり優秀な評価を得たようだ。
ルナが冒険者としてやっていけるかの心配は消えなかったが、それと同じぐらい、一緒に迷宮に潜れる事が嬉しかった。複雑な心境だ。
ギルドで得た評価通り、ルナは迷宮で足を引っ張る事はなかった。それどころか戦いがかなり楽になり、安全で効率も良くなっている。魔法の事は詳しくないが、迷宮で出会った3人組の話を聞く限りかなりの腕前のようで、同じ魔法使いのリーザも太鼓判を押してくれた。
その後しばらくして、危ない雰囲気の男と出会う。奴は迷宮で出会った同行者のアラド、ガルを斬りつけ、更にルナにまでその魔の手が伸びた。
私は逆上して戦ったが、実力の違いと反則に近いスキルのせいで追い詰められる。そこにより得体の知れない全身真っ黒の男に助けられる。その男も何やら逆上しているようで、私達には目も向けずに暴れるように戦い出した。本当は一緒に戦ってルナの敵を打ちたかったが、体力の限界からか立ち上がる事すら出来ない。
そう悔しそうに戦いを眺めていると、治療不可能な剣で斬られたはずのルナが戦場に向かって駆け出していた。声を掛けたが聞こえていないようで、こっちを向く事はない。
そんなルナがこっちに来たのは、迷宮の先を覆い尽すような巨大な水が現れた後だった。見た目はルナがいつも使っている水弾にそっくりだが、その大きさと音が段違いなのだ。
しかし戦いもようやく終わったと思ったが、奴はまだ生きており、敵意を持って歩いて来る。ルナは私の剣を持ち、最後の戦いに向かう。相手が弱っていたのもあっただろう、ルナは傷1つなく無事に帰って来てくれた。
全員の体調を考えて、今日は迷宮で一晩過ごす事になった。その時に落ち着いて話をする時間があったので、アラドのチームメンバーと世間話から最近の迷宮の話、武器や防具の話などして過ごした。彼のチームはこんな事があっても活気がある。これが本当のチームなのだと感じ、羨ましくもなった。中でもブランは、戦いは斧を使い大雑把な攻撃が目につくのだが、絶えず仲間の気を使い、ガサツな私にも女として見てくれて細かい気使いをしてくれる。
正直冒険者を始めてから、自分が女である事を忘れていた。なのでまだ飲食店で仕事をしていた頃に戻った気がして、少し嬉しかった。
ようやくこのピンチを乗り切り、地上で太陽の光を見た時の感動は忘れない。眩しくて目が痛いぐらいだったが、その痛みも気持ち良い物だった。
今回の事で、やはりルナの魔法使いとしての腕は凄いのかもしれないと感じたが、比較対象がいないのでハッキリ実感する事は出来なかった。
でも、今は無事に生き残った事を喜ぶ事にする。生き残る事が出来れば、まだ幸せと思えるこの時間が続くのだから………。




