25話 それぞれの道へ
「それでは今回の依頼はこれで終わりですね」
町に落ち着きが戻り、魔族の襲撃も無事に乗り切った事と約束の期日が来た事で、帰ってきたウェルダーに依頼完了の報告を行う。
「ああ助かったよ。それに魔法の指導。ジェムスが君以上の指導者は見た事がないと絶賛するほどだったし、実際カレンの魔法を見た時は私も驚いたよ。あの魔法があれば、今回の戦いも楽になっていたんだがな。
それに、町の反対側で起こっていた戦闘も耳に入っている。なんでも数百体の魔物の群れを子供2人が縦横無尽に暴れ回って殲滅してしまったらしいじゃないか。その話を聞いた時は耳を疑ったが、カレンの魔法を見て数日でこれだけの魔法を教えれるのなら、本人はもっと凄い事が出来てもおかしくはないと確信したよ」
「それは何の事かしら?私達はカレンの護衛なんだから、ずっと屋敷にいたわよ?」
ウェルダーの耳には、背中に大盾を背負った水色の髪の女の子が魔法を放ち、ピンク色の髪の女の子が群れの中で踊るように暴れていたと報告されていた。もちろんここまで特徴が一致しているので他人とは考えれないのだが、ゼロの視線がまるで自分の対応を試していると分かったので、話を合わせる事にする。
「そうか…私としても君達との関係を壊したくないからな。ここは素直にそういう事にしておくとするか」
「分かってくれて嬉しいわ」
その言葉を聞いて、ゼロは満足そうに頷く。
「なら今回の依頼は無事に終了と言う事でギルドにも話はつけている。ギルドに行ってくれれば報酬を受け取る事が出来るだろう。今回は本当に助かった。ありがとう」
そう言ってウェルダーは頭を深々と下げてくれた。
「それでは失礼しますね。あとカレンちゃんはどこに?お別れの挨拶をしたいと思ったのですが…」
ウェルダーが帰って来てからカレンの姿を見ていない。7日間だけとは言え、寝食を共にしたので挨拶ぐらいはしたいと探していたのだ。
「ああ、その事についてはカレンから伝言を預かっておる。今後は冒険者としてライバルになるんだから挨拶は不要、との事だ。そうは言っていたが、おそらく別れが寂しくて顔を見せれないんだろう。もしギルドや迷宮で顔を合わせる事があったら、気軽に声を掛けてやってくれ」
「そうですか…それではカレンちゃんにまた会いましょうと、伝えておいてください」
そう言ってルナはチラリと部屋の隅の方を見て笑っていた。
「ああ、必ず伝えよう」
「ありがとうござします。それでは失礼します」
そう言って僕達はこの屋敷を後にする。
「カレン、聞いていたのだろ?いい加減に隠れてないで出て来たらどうだ?」
「別に隠れてなんかいないわ。ちょっとここにいたい気持ちになっただけよ」
ウェルダーの言葉でカーテンの中からカレンが出て来た。
「まったく…あの子達にはばれていたようだぞ。もしこのまま冒険者を目指すなら、もっと隠れる事も上手くならないといけないな」
「お父様!?本気で私が冒険者になる事を許してくれるの?」
冒険者になっていいと言う約束はしているが、娘を危険な場所に行かせる事で反対すると思っていたのだ。なのでウェルダーが素直に認めてくれた事に驚いている。
「あんな魔法を身につける程、お前は頑張ったんだからな。もちろんお前がしっかりとした仲間を見付けるまでは、護衛も含めたチームメンバーは私が用意する。ほんとは彼女達のチームに入れてもらうのが一番安全だとは思うのだが…」
そう言ってルナ達が立ち去った扉を眺めていたが、
「それはどうかしら。ルナ達のチームは強いわ。とくに小さい3人は飛び抜けて実力が高いの。話に聞く限りでは、下層でも平気に潜って行けるんじゃないかと思えるほどよ。そんなチームに私が入っても足を引っ張るだけだし、ただ着いて行くだけでは私の成長もないの。だから別のチームにいた方が良いのよ」
「……そうか…」
ウェルダーはそのカレンの言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んで目を閉じる。
人の事を考えずに我儘し放題で、親の立場から自分も偉いと勘違いしていたカレンは……ここにはもういない。その成長を見て嬉しくなるのと同時に、ルナ達に多大に感謝していたのだった。
「とりあえずギルドに行って、カナの冒険者登録を済ませましょうか」
「そうですね。どうせなら今日中に済ませた方が良いですね」
「……2人がそう言うなら私は構わないの」
そう話してギルドに向かおうとすると、アリサが足を止めて真剣な顔でこっちを見つめて来る。
「皆に話があるんだ。………実は…その…」
そう言ったアリサは少し言い難い事なのか、上手く言葉に出せないでいた。
「……すまない!実は私はこのチームを抜けて、ブランのチームに行きたいんだ。もちろん、ルナ達の事が嫌いになったとかそう言うんじゃない」
ようやく決意したのか、アリサは真剣な顔で真っ直ぐルナを見てそう言った。
「つまり愛するブランと少しでも一緒にいたいって事?」
「それもあるが、一番の理由はそこじゃない。ルナ……お前は私に気を使って、実力を隠して戦っているだろ?」
「え!?いえ…その…」
その指摘を受けてルナはすぐには答える事が出来なかった。
「別に責めている訳じゃないよ。今回の依頼を受けて、ルナが当たり前にやっていた事がどれだけ周りの魔法使いよりも凄いかを知ったんだ」
今回の依頼で、熟練の魔法使いであるジェムス…そして、見張り塔から見た魔物と戦う他の魔法使いの魔法。そのどれと比べてもルナの魔法は確実に上を行っている事を知った。
そして初心者のカレンの急成長。ここまで情報が揃えば、魔法に詳しくはないアリサでもその実力を理解出来たのだ。
「そしてブランとカレン、ジェムスさんで戦った時に思ったんだ。いかにルナの魔法に頼って戦っていたのか、そしてこのままじゃ私はルナの重荷になるってな」
「重荷だなんてそんな……」
ルナはそんな風にアリサの事を思った事は一度もなかった。
「分かってる。ルナはそんな風に考える子じゃないって事はな。だからこそ私が自分で身を引かないと、このままズルズルと行ってしまうんだ。
もうアラドにはブランから話を通してもらって許可を貰っている。今日、ギルドに行ったらチームの解散の伝えるから、これからはルナがチームを作り仲間を引っ張って行くんだ」
「そんな!嫌です。お姉ちゃんと別れるのは絶対に嫌です!」
そう言ってルナは泣きだしてしまった。ゼロも何も言わない。これはいつか来るだろうと思っていた事だし、このままではアリサの為にもならないと感じていたのだ。
「ルナ…別に生涯の別れをする訳ではないんだぞ?それにその内ブランと結婚して子供が出来たら、冒険者稼業は休業か、引退する事になる。結局は遅いか早いかの違いだ。それともなんだ?違うチームに行ったら、もう私とは会ってくれないのか?」
アリサは泣いているルナを、出来るだけ宥めるように明るく話を進める。
「そんな事はありません……ありませんけど…」
「なら良いじゃないか。むしろ私達の関係が上手く行く事に協力してくれ。同じチームにいて他の女に目が行かないようにしたいからな」
他の女に目がいくとは少しも考えていないアリサだったが、ルナが泣くのをやめてくれる為に、あえて冗談を交えて話をしたのだ。
「……フフ、そうですね。お姉ちゃんの幸せの為に協力するですから、悲しんではいけませんよね」
「そう言う事だ。ルナ達は私が抜けても3人でチームが組めるから、安心しているんだぞ?」
「私もアラドさんのチームなら安心です。それにブランさんも、真剣にお姉ちゃんの事を考えてくれているみたいですし」
「そうだろ。だからここからは別の道を進む。お互いに笑って先に進もうぜ」
そう言ってアリサは握手を求めて来る。その手を握るとアリサはチームから出て行ってしまう。その事が悲しくないと言えば嘘になるが、
「はい!私も自分の目標と私の好きな人の為に頑張ります。今後は違うチームですが……お互い体には気をつけていきましょう」
「ああ」
アリサの決意と気持ちを無駄にしなくないと、ルナは笑顔でしっかりと手を握った。
話が済み冒険者ギルドに着くと、そこにはアラド達のチームが待っていた。
「ブランさん、お姉ちゃんを頼みますね」
「ああ、任せてくれ」
そのブランの真剣な眼差しを見たルナは、安心して頼める気持ちになる。
「何か問題が出たら、私達に相談しなさいよ?出来る限りは対応してあげるからね」
「はは、君達の力を借りれるなら、大概の問題は解決してしまいそうだな。ま、その時が来たら遠慮なく頼むとするよ。それに当分はカレンの護衛をして迷宮に潜る予定だから、見かけたら声を掛けてくれ」
「へー、カレンがチームに入るんだ。ならますますバランスの良いチームになりそうね。リリカも先輩としてしっかりしなさいよ」
「はい師匠。師匠の教えをしっかり守って頑張ります」
(…師匠?カレンの屋敷に居る時に暇つぶしでリリカを指導していたのは知っていたけど…そんな風に呼ばせていたのかよ…)
実際リリカのHPなどはゼロの指導を受けてから急成長をしていた。アラド達にはまだ劣るのは仕方がないが、それでも邪魔にならないぐらいまでは成長していると見てとれた。
「リーザ、そう言う事だからチームの解散と私の編入を頼む」
「……まさかアリサが先に良い人を見付けるとわね……悔しいけど、おめでとう」
「ありがとう。今後もルナ達の面倒を頼むぞ」
「分かっているわよ。…はい、これでアリサの編入は終わりよ。それと指名依頼の報酬は山分けで良いのね?」
そう言ってリーザはお金の入った袋を取り出した。
「今回の依頼はルナが指名だったし、ル…」
「今回の依頼料は、結婚準備金として全額お姉ちゃんに渡します」
「は?」
「それが良いわね。私もその意見には賛成だから、アリサが何を言っても受け取るつもりはないわ」
アリサが言葉を全部言う前に、ルナとゼロは受け取りを拒否する。その事を嬉しそうに見ていたリーザも、さっさと話を進める為に、受け取り人の名前をアリサ1人にして終了印を押してしまう。
「おいルナ、それにゼロとリーザまで何を勝手に話を進めているんだよ」
その事に戸惑いながら困った顔をしたアリサに、リーザは…
「こういうお祝い品は、受け取る本人が困った顔をしたら駄目よ。素直に受け取って、ありがとうって笑顔で返すのが互いに幸せになれるコツなの」
「そうか?………いや、確かにそうだな。2人共ありがとう。とても嬉しいよ」
アリサはそのお金を本当に嬉しそうに抱きしめ、その光景を見ていたアラド達も今回の依頼で得たお金をブランに渡していた。そして2人並べられた事で少し困った顔をしていたが、とても幸せそうな笑顔を見せてくれる。
「さて、ルナちゃん達はチームを組むって事で良いわね?」
アリサ達のお祝いが終わった事で、今度はルナ達のチームの処理を行われる事になった。
「はい。でもその前にカナちゃんの冒険者登録をお願いします」
「……お願いなの」
「………また見た目に不安を感じさせる子を連れて来たわね。……やっぱりこの子も強いの?」
カナの姿を見たリーザは「またか」と額に手を当てて俯いてしまった。
(見た目だけで言えば、子供が3人並んでいるようにしか見えないからな。リーザ…その気持ち分かるよ……。でもカナの強さか…)
カナミティー
HP 245 / 245
MP 112 / 112
スキル 闇の魔法(極) ・ 重鎚技(極)
隷属者(死)
(あれ?純粋な魔法使いだと思っていたけど、やけにHPが高いな……それに鎚って事はハンマーみたいな鈍器の扱いが得意って事?しかも重って……)
見た目の幼さと、華奢な体つきから生粋の魔法使いだと思っていたが、どうやら完全にパワーファイターだったみたいだ。
「そう言えばカナちゃんの戦っている姿って、見た事がありませんでしたね」
「そう言われればそうよね。でも大丈夫じゃない」
「……任せるの。ハヤテにいいとこ見せるの」
カナの変わらない表情とは裏腹に、その言葉だけは気合いが入っているセリフだったので、リーザはますます意味が分からなくなっている。
「…とりあえず申請書を作りましたから、そちらの階段から下に行ってください。もし着いて行くならゼロさんが迷わないように案内をしてくださいね」
「そうね。カナの実力も見ておきたいし、見学でもしに行きましょうか」
「そうですね。あまり無茶な事をしないように見ておかないといけませんよね」
2人のそう言ってカナと一緒に階段を下りていく。このタイミングで僕が見たステータスの内容を説明する為に、カナの所に連れて行ってもらう。その内容を聞いてカナは少し驚いていたが、やはり思い当たる所があったようですぐに納得する。
そんな3人の様子を見て、アリサ達も興味があったので一緒に着いて行く事にした。




