いざ脱出へ、掛けろ拍車(2)
いざ、ゲートに触れようとした―――その時。
背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
―――何をしている……早く行け……
―――服を脱ぐ意味は何じゃ……
これは……先日現れた、のじゃ神の声じゃないか?
いやもう気にしてる場合じゃない。なんか用があるなら、6面突入後にしてくれ。
俺は、のじゃ神のものと思われる声を無視し、6面へ踏み入った。
***
周囲には、鼻をつく―――腐乱した卵のような臭いが立ち込めている。禍々しい紫色の空気が俺を覆い、壁抜け状態で透過していなければ、間違いなく致死であると思われる量の毒が身体を蝕もうとしてくる。
―――しかし、俺は一人ではなかった。
「あ、あのな……わしとて、一応はおなごなのじゃから……服くらいは着たらどうなのじゃ」
「あいにく、私は衣類について持ち合わせが無いのです」
「―――だから人間とタッグを組むのは嫌だったんじゃ……うぅ……」
俺は、のじゃ神こと第六補助神グレアティアと、連れ立って6面の上空飛行を敢行していた。
どうやら、この6面。通常ならば二人以上での攻略が想定されているそうで、一人でプレイヤーが現れた場合はこのグレアティア姉さんがアシストNPC的な感じで、協力してくれるらしい。
「まさか神様がアシストしてくださるなんて頼もしいですね。今までの1面攻略でさえ、手をこまねいていたんですから」
「―――1面は、どうじゃったか」
それを主催側の神が言いますか。
「言わずもがな、レベル設定が鬼畜というか……というか、あなた方がテスターとして呼び出したティアラ一人では、どう考えてもこのゲームをクリアすることは不可能じゃないですかね」
綺羅羅ちゃんに会えなくされた憎しみ(俺は勝手に壁抜けで来ちゃっただけ)に、ティアラの分も乗せて抗議してみる。半分八つ当たりである。
まさに暗黒界……とでも言うべき、だだっ広く真っ暗な空間による出迎えを甘んじて受け、俺は壁抜け発動時の飛行を継続。神の姉さんは、錫杖振りかざして発動させた高速飛行でもって俺に追随してくる。
ときおり、もやがかった地上付近で、これまた邪悪カラーの鯨のようなモンスターが見え隠れするのが確認できた。ちらりと見えた、鯨のレベル表示は156500。インフレ漫画顔負けの数値である。
俺に合わせたスピードで飛行する神は『申し訳ないと思っておる』と呟いた。
「わしも……人間をテスターとして招くのには反対じゃったのじゃが……低位の権限しか持ち得ぬ、わしでは発案者の高位神に歯向かうことができなくてな……」
神にも上下関係が……勉強になるな。
神姉さんの話を鵜呑みにし、そのやり切れない表情を偽りのものではないとして見るならば、彼女に非は無いと考えるべきだ。というか、神のポーカーフェイスを見破る力量など、いち人間の俺にはあり得ないので、ここは信じる他ないのであるが。
どっちにしたって、この最終ステージの6面は一人で攻略することは不可能らしいから―――ゲームマスターに近い位置の神にアシストしてもらえるのはありがたい、と考えるべきだろう。今は余計な思考などしている場合ではない。残り時間は短い―――ステージボスとやらを撃破せねば。




