第72話 最低な戦い
「ミシェル、そんな格好で寒くないのか?」
町の入り口で出迎えたハジメが声を掛けると、ミシェルはおもむろに顔の下着を外した。 するとその下からは新たな下着が顔をのぞかせる。 あいつは一体何枚の下着を被っているんだ!?
そんな事を考えていると、ミシェルは外した下着を人差し指でくるくると回し始めた。
「喰らえ、パ○ツチャクラム!」
ミシェルが指を離すと下着は、カミソリの様な切れ味をもった刃と化しハジメの頬をかすめる。 背後の壁に刺さった下着を見て最初に声を上げたのは、ハジメではなくサトウの妻のセレスだった。
「きゃあああああ! これ私の下着!?」
セレスに続いて声を出すのは、サリーネ。
「ちょっと! あいつが被っている下着、私のよ!?」
「フォオオオー! どうだ愛しい者の下着を他人に被られた上に、武器として使われた心境は!?」
どうだ? と言われても、答えようが無い。 そんなハジメの肩にサトウが手を乗せてきた。
「すまん、あいつ倒すの俺に譲ってくれ。 妻の下着を武器にされて怒らないのは男じゃない」
いや、男とか関係ない気がする。 だが間違いなく、これまでで1番最低な戦いになる予感を感じた。
「ミシェル、お前どうやって下着を盗んだ?」
「気になるところ、そこ!?」
実は凄く気になる、全員に気づかれずに忍び込むなんて常軌を逸している。 その気になっていれば、昨夜の内に全員殺されていた可能性だってあるのだ。
「ふっ! お前らが子作りに励んでいる間に、全ての部屋に忍び込んだに決まっておろうが! 目の前のタンスの中を物色されているのにも気付かないほど、盛るな色ボケ共が」
もはや、ぐぅの音も出ない。 アグナードはもとより、他の衛兵達の視線も痛い。 戦うべき相手に忍び込まれたあげくに、下着まで盗まれるとは間抜け過ぎだ。
「Wパン○チャクラム!」
今度は2枚の下着を外して、攻撃をしてくるミシェル。 マリアが悲鳴をあげたので、どうやらサリーネの下のはマリアのだったみたいだ。
「まだまだ~!!」
ミシェルは、また同じ攻撃をしてきた。 なんとか避けたのだが、セシリアとランが慌てて回収している姿はなんだか可哀想だ。 ようやく素顔を現したミシェル、だがここでハジメは余計なことに気が付いた。
「ミシェル、ミリンダのはどうした?」
そう、ここまでの犠牲者はミリンダを除く女性陣。 何故かミリンダだけ被害に遭っていないのだ。
「これ以上重ねるとさすがに息が出来ないのでな、予備として持ってきてある。 安心しろ」
海パンの中に手を突っ込むと、中から1枚の○ンツを取り出して被るミシェル。 しかし、ちょうど額の位置にくる部分には可愛らしいクマさんのイラストが描かれていた・・・。
「見たかハジメ。 この瞬間俺は熊、そう熊の力が新たに加わったのだ!」
ドゴッ!!
「余計なことするんじゃないわよ!!」
飛び出して後頭部に蹴りを入れるミリンダ、ミシェルは勢い良く転がりハジメの近くまで来た。 ○ンツにはミリンダと手書きで名前まで書かれていた。
(えっ!? 名前まで書いてたの?)
セシリア達の目が一斉にミリンダに向けられた。 それだけではない、ルピナスの冒険者たちの視線もミリンダに集中する。 元ギルド長の知られざる一面が明らかとなってしまい、過去に恐れられた異名や名声はすっかり地に堕ちた。
「うう・・・もう恥ずかしくて表を歩けない」
「安心しろ、表を歩けないのはここに居る俺達もだ」
泣き崩れるミリンダを慰めるハジメだが、ほとんど慰めになっていない。 それに今は何とか自我(?)を保っているが、自我を失った時目の前にいる人たちを食い始めるかもしれない以上戦いを長引かせる訳にはいかなかった。
「ミシェル、お前が倒したい相手は俺なんだろ? 望み通り相手をする、だからもう1つだけ答えてくれ。 お前は妹たちを喰ったのか?」
「ああ、アンナやソニア達の心をお前に奪われる前に俺の物にした。 俺の大切な物を奪う事は出来ない、異世界から来た者を全て排除しシスティナ様の願いに応える」
ミシェルは被っていたミリンダのクマさんパン○に手を伸ばすと、それを破り捨てた。 そして気合を入れるとミシェルの身体からボコボコと幾つものコブが現れ、やがて新しい首と両手が増えて胸と背中にも顔が出てきた。
(サトウの言っていた通り、初めて見ると卒倒しそうになる姿だな。 けれどサリーネの予想が正しければ、まだ4人を救い出せる筈だ。 精々派手に芝居を打つとしますか!)
ハジメはミシェルのすぐ傍まで近づきながら、挑発し煽る。
「ミシェル、お前は俺を喰うつもりみたいだがな。 モンスターと化したお前を、俺は逆に喰う事で返り討ちにしてやる。 お前の頭は最後にするから、妹たちが俺の胃袋に納まる所をよく目に焼き付ければいい」
「俺が先にお前を喰うんだ!」
ミシェルの手が一瞬早くハジメの頭を鷲づかみにする。
「ハジメ!?」
サトウが加勢で飛び出そうとしたが、セレスに制止された。 攻撃を反射されてしまう以上、足手まといになってしまうからだ。
口元に笑みを浮かべていたミシェルの顔に変化が起きたのはその時だった、普段であれば触れた相手が液状に変化するのに逆に触れた手が液状となりハジメに取り込まれ始めたからだ。
「ハジメ、貴様いったい何をした!?」
「お前、怒りですっかり忘れているみたいだが俺もお前が喰ったエティンを喰っている。 その時にシスティナの加護を得ている者の攻撃を全て反射無効化の能力を手に入れた」
「それがこの状況と何の関係がある?」
「まだ分からないのか? 相手を溶かし喰う攻撃が反射されればどうなるか・・・」
「まさか!?」
急いで離れようとするミシェルの耳元で、ハジメは周りに気付かれない様に小さく話しかけた。
『お前は自分から俺に喰われようとしている、このチャンスを利用させてもらうぞ。 お前を助ける事は難しいかもしれないが、せめて妹達だけでも人に戻したい』
ハジメが大きく口を開いた、もちろんミシェルを喰らう為では無い。 この千載一遇のチャンスを活かす能力の名を言う為だ、そしてその名は呟かれた。
【融合】




