第73話 贖罪と救済
(ここは?)
「俺の意識の中だ、ミシェル。 今、お前は俺に吸収され混ざり合っている状態に近いな」
(俺は負けたのか?)
「そうだな、お前は負けた。 だから起きた事を全て教えてくれ、お前達をこんな目に遭わせたシスティナにお仕置きしなくちゃいけないからな」
ミシェルは少しずつ語ってくれた、飛躍的に進歩していくハジメに比べいまだにスライムに苦労する自身の情けなさと嫉妬。 そして妹や仲間達まで奪われるかもしれない焦りをシスティナに利用され、多くの人を殺め最終的には大切にしていた女性たちまで喰ってしまったことを…。
(俺はどうなっても良い、アンナ達だけでも救ってくれないか?)
「安心しろ、その為に俺はお前を喰わずに融合したんだ。 少しの間、俺の身体の中で眠っていろ」
ミシェルはハジメの言葉に安堵し、意識を手放した。
1週間後、町の広場には多くの住人が集まっていた。 肉親だけでなく仲間の家族の命を奪った重罪人が捕縛され、その罪を償う為の処刑が行われるからだ。
後ろ手で紐で縛られ目隠しをされた囚人服のミシェルが引きずりだされると、住人達は口々に罵りながら石や卵を投げつけた。 アグナードが罪状を読み上げ、謝罪の言葉を聞くがミシェルは無言を貫く。 それが住人達の怒りを余計に買うことになった。
「早く殺せ!」
「こんな人、生かしておく価値なんて無いわ」
「とっとと地獄に送って、殺された人たちを安らかに眠らせてやれ!」
罵声を浴びせる住人達の前で1人の男がステージに登る、それを見た住人が一斉に歓声をあげた。 今回の捕縛にも協力し、数多くの功績を立てた異世界からの来訪者ハジメである。
「時間だ、覚悟は出来たかミシェル?」
それまで誰からの問いかけにも答えなかった男が、ハジメの声を聞いた瞬間に暴れだした。 死への恐怖からなのかハジメに対する恨みからなのかは分からない。 しかし、その暴れ方は逆に滑稽に映り住人たちの気持ちも幾分晴れた。
「見苦しいぞ、大人しく罪を償え!」
剣が振り下ろされ、暴れていた男の首が飛ぶ。 町を震撼させた殺人鬼の最期に住人たちは割れんばかりの歓声と賞賛をハジメに贈るのだった…。
ミシェルの死体は町の共同墓地に埋葬されることすら許されなかった、だがそのまま放置してゾンビなどになられても困るのでハジメの手で焼却されることとなる。 そして死体を入れた袋を背負い町を出たハジメをヒッポグリフが待っていた。
「それじゃあ、予定通り魔界に行ってくれ」
ビッグゲートを抜けて魔界に到着したハジメをアーシュラさんとカルーラさんが出迎える。
「ねえ、婿殿。 いつまでその袋の中身を抱えているつもりなのかしら?」
アーシュラさんに茶化されたハジメは頭をかきながら照れくさそうに答える。
「まだ誰かに見られているかもしれないと思ってさ、最後の最後にバレたらマズイしね。 融合!」
すると袋の中にあったミシェルの死体がドロリと溶け出して、ハジメの身体に吸収された。
「サリーネの案が上手くいって本当に良かったよ、あとの事はお願いしていいですか? カルーラさん」
「任せろ、魔王の名に懸けて彼らを守ろうじゃないか」
「それを聞いて安心しました、分裂!」
数回分裂を繰り返し、ハジメは計5体に分かれた。 しかし、その内4体の姿が徐々に別の者に変化していく。
「どうだ、人に戻れた感想はミシェル?」
「償いようのない罪を背負ってしまった俺まで、どうして助けようとするんだハジメ?」
「その罪を背負わせたのはシスティナだ、お前の責任じゃない。 この魔界ならあの女も手出し出来ないから、これ以上利用されなくて済む。 それとお前の意思を汲んで人として死なせてやろうと思っていた俺を止めたのは、そこに居る3人だ」
ミシェルが振り向くと、アンナ・ソニア・キャシーの3人が慈愛に満ちた顔でミシェルを赦す。
「折角助かっても、お兄ちゃんが居なくなったらわたしは本当に1人ぼっちになっちゃう。 そんなのは絶対に嫌」
「私はパーティーのリーダーなのよ、そのリーダーが仲間を置いていく真似なんて出来る筈無いじゃない!」
「ソニアもね私と一緒、あなたが好きなの。 両親をあなたに殺されたのに、嫌いになれないのよ。 本当に救いようがないわ、私たち…」
困惑を隠しきれないミシェルにハジメが事情を説明した。
「お前を融合で吸収した際に、3人の魂とも個別に話をしたんだ。 そうしたらミシェル1人を死なせるのなら、3人も一緒に地獄に堕ちると言い出してな。 そうなると3人を助けるには、お前を生かすしか方法が無い訳だ」
そして1番大事な事を4人に話す。
「それとこれは既に実験済みなんだが、一定以上離れると分裂した分体と融合することが出来なくなるんだ。 だからどこか辺境の地で今後一切俺と会わない様にしている限り、俺に再融合される心配は無い」
湿っぽい会話は好きじゃないので、ハジメは重い冗談を混ぜた。
「悪いことばかりじゃないぞ! 4人の素体は俺だから、たとえ兄妹で結ばれても問題無しだ。 いや、子が出来ないから問題大アリか?」
「そこまで心配する必要は無え!? 俺はずっとアンナの兄ちゃんだ!」
軽口を叩きながら、ハジメとミシェルを握手をかわした。 うっかり再融合しない様に気をつけながら…。
「元気でな、ミシェル」
「お前もな、そして本当に済まなかった」
いつまでも長居して誰かに怪しまれてはいけないとハジメがルピナスに戻っていくのを見ながら、ミシェルは1つの頼みごとをした。
「アーシュラさん。 すみませんが俺達4人を徹底的に鍛えてくれませんか?」
「それは婿殿から頼まれていることと違うのだけど?」
「あいつはいずれ女神システィナを討とうとするでしょう、その時に手札は多い方が良い。 利用された仕返しに、システィナの意表を突くぐらいの事はしてやりたいんですよ」
それなら良いでしょうと、アーシュラは了承する。 しかしその直後、ミシェルはアーシュラではなくカルーラに頼めば良かったと死ぬほど後悔した。
「それじゃあ早速だけど、1週間で魔界を1周してきて頂戴。 遅れたら、もう1周追加よ」
魔族の兵士達も裸足で逃げ出す、アーシュラ特別訓練メニューが始まったのだった…。




