第71話 合流
急いでルピナスに戻ろうとするハジメ達に、アーシュラさんが魔界に残ると言ってきた。
「システィナの思惑が勇者の排除である以上、全員でのこのこ行くのは愚の骨頂だわ。 私はカルーラと魔界に残るから、済まないけどサトウと2人で解決してちょうだい」
最悪俺とサトウの2人が敗れて取り込まれた場合、魔界が最後の防衛線となる。 人間と魔族にとってシスティナの力が及ばない場所が、魔界というのがなんとも皮肉な話だ。
カルーラさんにはいざという時システィーナの住人を、魔界で受け入れるだけ受け入れて欲しいと頼み了承してもらった。
セシリア達と共に馬車に飛び乗ると、ヒッポちゃんが馬車を曳き空を翔る。使者のアルフレッドは馬を残していく訳にもいかないので、後から追ってくる事となった。
ビッグゲート前まで来ると担当の方が、既にゲートを起動させて待機していた。アルフレッドの様子からただ事ではないと直感で気付き、誰が来てもすぐにシスティーナに転移出来る様に準備していたのだ。
「ありがとう! これで時間が稼げた」
「いえ、礼には及びません。 それよりも何が起きるか分かりませんので、十分お気をつけて!」
挨拶もそこそこにゲートに飛び込むと、システィーナへと戻る。 ルピナスに戻ると、全身ドロだらけのサトウ達公国兵の姿があった。
「サトウ無事か!?」
「ああ、何とかな。 しかしアグナードから少しだけ話を聞いたが、ミシェルの野郎はとんでもない事を仕出かしたみたいだな」
アグナードに案内されて、事件現場を見せてもらう。 亡骸はすでに埋葬されているが、現場内の大量の血痕から当時の状況がどれほど凄惨だったかが分かった。
「彼はこんな事が出来る様な人じゃ無かった筈なのに・・・」
ハジメの隣で呟くミリンダの言う通り、ミシェルはこんな事が出来る奴じゃない。 ハジメ達が気付かない間にシスティナが接触して、何らかの力を与えたことで暴走したのだろう。 しかし・・・。
「彼にはケジメをつけさせる必要がありますな」
アグナードの言葉にハジメは激高した。
「ケジメ? ケジメってどういう事だ!? ミシェルはシスティナに操られているに決まっている、何に対してケジメをつけさせる気なんだ?」
「民へのケジメです」
アグナードはケジメの意味を伝える。
「たとえ女神システィナが元凶だったとしても、彼が人を殺めたという事実に変わりはない。 残された親類縁者の感情も考慮しなければいけません。 それに・・・」
一旦言葉を切ってから、アグナードは1番肝心なことを話す。
「仮にハジメ殿が無事に助けたとしても、彼はおそらく自決を選択する筈。 正気に戻った時、その罪の意識に耐え切れるとは思えませんから。 化け物として討たれるよりも、人として裁かれる方を望まれると思いますよ」
ハジメは思い悩んだ。ミシェル本人はもちろん、彼の仲間達を救いだす方法を見つけるために。しかしその答えも見つからないまま、数日が過ぎた。
コンコンコン・・・。 ある日の深夜ドアをノックされたので、ハジメが寝室から顔を出すとそこにはサリーネが立っていた。 部屋に招き入れると、サリーネはハジメの心に衝撃を与える一言を放った。
「ハジメさんが、ミシェルさんの介錯をすべきです」
「介錯って・・・!?」
「それが友人として当然の義務であり、また彼と彼女達を救える唯一の方法でしょう」
「聞かせてくれ、どんな方法を思いついたんだ?」
それから明け方近くまでサリーネはハジメに思いついた方法を身振り手振りで伝えた、そのお陰でハジメは一筋の光明を見出すことが出来たのだった。
「アグナード、1つ頼みがある。 これを自治領内のいたる所に貼りだしてくれないか?」
ハジメが1枚の紙を手渡すと、アグナードは半ば呆れた顔になりつつもその効果を認めた。
「たしかに貼り出せば効果はバツグンですが、火に油を注ぎかねませんよ?」
「これくらいすれば、流石のミシェルも怒り狂ってすぐにでも姿を見せてくれるさ!」
街道沿いや町や村に幾つもの立て看板が設置されたのは、それから数日後のことだった。その看板に貼り出された紙にはこう記されていた。
【おいミシェル、早くルピナスまで来い。 お前を喰らい妹達の身体を俺も堪能したいんだ。 抱き心地を想像するだけで、よだれが出てくる。 ごちそうさまです。 ハジメ・サトウ】
怒りで鬼神と化したミシェルが姿を現すまでに、それほど時間はかからなかった。 だが・・・。
「なあサトウ、あの姿のミシェルと戦いたくないんだが逃げても良いか?」
「お前があんな立て看板を出したのが原因だろうが! 責任取って、戦ってこい」
「とても正気の沙汰とは思えません、どうすればあんな格好をしようと思えるのでしょう・・・」
ハジメはミシェルを怒らせた事を後悔し始めていた、怒らせた事自体には後悔していない。 ミシェルがもしも正気に戻った時に、死んでも死に切れない汚点を残させてしまった事に後悔しているのだ。
目の前に居るミシェルはサトウからの報告にあった、アンナ・ソニア・キャシーの顔は浮かんでいない。普通の人間の姿だ。 しかし、その格好が海パン姿で女性用の下着を顔で被っているという正に変質者だったのだ!
どうしてこんな事になってしまったのだろう? ハジメはミシェルの状態を鑑定眼で調べてみる事にした、そして最初に飛び込んできたのは、こんな言葉だった・・・。
【嫉妬と怒りで別の意味で変質した者ミシェル】




