第70話 祝宴とルピナスからの使者
「はい皆さん、焼き鳥は十分数が有りますから慌てて食べなくても大丈夫ですよ」
「セシリア、追加のゴブリンとジャイアントマンティスを持ってきたぞ。オークの残りはどんな具合じゃ?」
「ありがとうランさん、オークは・・・このペースだと多分2時間もすれば全て無くなるわ」
「そうか、では今度は選手交代だな。魔族軍第2師団に周辺の食料調達を命じる、手も足も出せない様な奴が居た場合はすぐに知らせる様に。おぬし達は食い過ぎだから、食いたいだけ狩ってくるのだぞ。あと血抜きも忘れない様に」
「ハハッ!」
キングブラウンスライムの討伐が終わった後も数日様子を見て安全を確認出来たので、駐屯地では帰宅を許された周辺住人を交えた祝宴が開催されていた。
多くの酒や食べ物が用意されたのだが、皆が群がったのはセシリアが振舞うモンスター料理のコーナーだった。住人たちは今まで口にした事が無かった、ゴブリンとカマキリ(ジャイアントマンティス)の焼き鳥や、オークの刺身盛り合わせなどに衝撃を覚えた。
更には緊張が解けた事で空腹に耐え切れなくなった魔族軍の皆さんも押し寄せたことで一時パニック状態となったが、押し寄せた軍の兵士たちは全員アーシュラさんが再訓練と称したお仕置きに連行していった・・・。
「みんな楽しんでいるな」
「ああ、ようやく帰還して家族の許に帰れるからな。私が妻に連れて行かれている間、ここを守り抜いてくれたのはこの者達のお陰だ。1週間の特別休暇を与えるつもりだ」
カルーラはそう言って、誇らしげな顔を見せながらこの場に居ない妻の事を思う。ここまで強い軍となれたのも、妻アーシュラの功績が大きい。もしも彼女が単身召喚されて、システィナに言われるまま私を殺していたら今頃どうなっていたのだろう?
ランやラーセッツは当然生まれてこなかったし、もしかしたら爺が次代の魔王を引き継いでいたのかもしれない。それと同様にシスティーナの国も王族が腐りきったままの状態が今後も続いていただろう。
システィナがアーシュラを召喚した事がキッカケとなって、この世界は変わろうとしている。それはシスティナの排除という形の未来へ向かっていると言っても過言ではない。システィナ自身もアーシュラの思惑を薄々とは感じ取ったのだろう、だからこそ己の世界に異形のエティンを解き放っていたのだ。
(システィナはハジメ殿が話した様な、世界の行く末を大人しく見ている様な女神などでは無い。きっと何か良からぬ事を企んでいるに違いない、それが何であれ妻の為なら多少の汚名を被るのも仕方ない)
「そこまで心配なさらなくても大丈夫ですよ、魔王様」
魔王の思考を読み取ったらしいマリアが近づく、そして彼の憂いを解く言葉を紡いだ。
「きっとハジメさんが何とかしてくれます、奥様やランさんも勿論ですが関わった人を全て助けようと動いてくれますわ」
「・・・・そうだな、そう信じよう」
そんなささやかなの希望を打ち消す報が駐屯地に届けられたのは、それから1時間後の事だった。
「報告、ルピナスより急報!システィーナにて異変が発生している模様、アグナード殿からの急使が来ております。ハジメ様には至急お目通りを」
呼び出されたハジメが急使と対面すると、その使者を見て驚いた。
「えっ!?何でここに?それから使者って一体?」
「その節はアルラウネ殿に助けられました。あれからすぐに彼女と一緒にダイナスを抜け出したお陰で、無事ルピナスまで逃げる事が出来ました。アルラウネ殿はお元気ですか?」
ルピナスから来た急使とは、ダイナスでアルラウネだったマリアが助言をした兵士だったのだ。
「彼女ならあれから人間に戻って俺の傍に居るよ、お~いマリア!ちょっと来てくれ」
「は~い!」
やって来たマリアも兵士を見て驚いた顔をのぞかせる。
「どうやら無事にルピナスに辿り着けたみたいね」
「はい!アルラウネ殿の助言のお陰です」
「今の私はアルラウネではないわ、人間に戻って本来の名のマリアを名乗っているわ」
「これは失礼、そういえばハジメ殿もそう呼んでおりましたね。自己紹介が遅れました、私の名はアルフレッドと申します。あなたの行く末に幸多きことを願います」
マリアに対して跪拝するアルフレッド、人生を変えるだけの助言をした彼女に心酔しているのだろう。
「それはそうと、システィーナの方で何が起きているんだ?」
「はっ、そうでした!先日、ルピナスにコルティナ公国からの早馬が届き異形のエティンに村が襲われる事件が発生した模様です」
「・・・異形のエティン」
残り2体のフュージョンエティンの内の1体が、サトウの治めるコルティナ公国を襲ったのだろう。サトウとセレスティーナだけでは分が悪い、至急応援に向かうべきだ。
「よし分かった、急いで準備を整えてルピナスまで戻る。少しだけ待ってくれないか?」
「それから・・・ハジメ殿にと2通の書状を預かっております」
「書状?」
ハジメはまずアグナードからの書状を開けて読んでみた。
【ハジメ殿の友人だった冒険者のミシェルが、自身の父親と仲間の家族を殺し妹のアンナとソニア・キャシーの3人を連れてルピナスから行方をくらませた。何でこんな事を仕出かしたのか理由も一切不明、何故だか嫌な予感がする。早くルピナスに帰還して欲しい】
もう1通の書状はサトウの名が記されていた。
【この書状を見ているという事は異形のエティンについて聞かされている筈だ、あのエティンはどうやら俺達の攻撃を反射するらしい。危険だから迂闊に飛び込むなよ、それからもう1つ悪い知らせがある】
ハジメは紙をめくって思わず息を呑む。
【こちらのエティンは何とか倒す事が出来たんだが、その時にそのエティンを喰いやがったのが居る。そいつはルピナスに居た冒険者でミシェルとかいう奴だ。ちなみにエティンを喰った後にそいつの身体から妹や仲間達の顔が生えてきた、奴は仲間や妹まで喰ってしまったのかもしれない。おまえも女房達を喰われない様に気をつけろ、俺も最低限の兵を連れてルミナスへ向かっている。続きは再会してから話そう】
読んでいた書状を無言で握りつぶすハジメ、こんな事を起こせるのは1人しか居ない・・・。
「システィナ、お前はそこまでするほど俺達の存在が邪魔なのか!?」
アーシュラに遠く及ばないかもしれないが、ハジメの心の中で明確にシスティナへの殺意が湧き上がっていた。




