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第69話 コルティナ公国に迫る危機

「おいセレス、ありゃ何だ一体?」


「分かりませんわ、あなた。初めて見る化け物です」


再編した兵士を率いて現地に到着したサトウ・ハジメとセレスティーナ・ハジメは、とある村を襲っている異形のモンスターを見て思わず呟いた。


エティン自体は知っていたが、雌雄同体でしかも前後に顔を持つエティンは初めて見る。数日前に村からの救援要請が届き急いで来たが間に合わなかった。救援が間に合わなかった事への悔しさと己の無力さを噛み締めるサトウの手を、セレスティーナが優しく握り締めた。


「あなた1人で全てを背負う事は有りません、私も隣にいる事を忘れないでください」


「そうだな、俺に出来るのは今出来る最善をするだけだ!悔やむのは、目の前のあいつを倒してからだ」


サトウは短時間で勝負を決めようと、最初から力を出し惜しみしなかった。右手を天に向けると、異形のエティンを焼き尽くす為の炎を呼び出す!



【火炎乱舞】



だが、ここでサトウの予想は覆された。エティンの足元に浮かんだ巨大な魔方陣が突如消え、サトウの足元に現れたのだ!


「何っ!?まずい、皆急いでここから退避するんだ!!」


サトウはセレスティーナを抱きかかえると、跳躍しその場から急いで離れた。しかしサトウとセレスティーナの周囲を守っていた近衛兵の一部は逃げ遅れ、燃え盛る火の中で灰となって消えた・・・。


「ちっ!俺の攻撃を反射するモンスターが居るなんて、聞いていないぞ!?」


「そんなモンスターを作り出せる者は、多分1人だけです」


「システィナか?」


「おそらく・・・そして、その目的は勇者という存在の排除だと思います」


「多分、お前の予想通りだろうな。あの女は自分以外の存在をゴミ屑程度にしか見ていないしな」


だがそう考えると、セレスの力もあのエティン相手には通じない事になる。公王を名乗ってやってきたサトウを受け入れてくれた、住人達はもちろん兵士達からもこれ以上の犠牲を出す訳にはいかない。その方法を模索していた、サトウに思いもよらない助っ人が参戦する。




『ボェ~オェエ~ギァ~!!』




聞くだけで意識が遠のく声で歌い始めたのは、あの超絶音痴のセイレーンだった。ジィさんが連れてきた後、姿を消し行方知れずとなっていた。


フュージョンエティンは勇者の力を反射する力を与えられていても、殺人的な歌声に対する耐性までは与えられていない。オマケに4つの耳で聞く羽目になったので、即死とまではいかなかったが甚大なダメージを受けたみたいだった。


「あれ~?このモンスターも私の魅惑の歌声を聞いて無事なのね、やっぱりこの声を良くするにはもっとマンドラゴラを食べる必要があるみたい。新しいのを探そうっと!」


助けに来たのかと思ったが、ただ単に自分の歌声が良くなった(?)かどうか確かめてただけみたいだ。サトウ達に挨拶もせずに飛び去っていくセイレーンを見て、皆しばし呆然としていた。


「あなた、今の内に倒させましょう!」


「・・・あっ!ああ、そうだな。俺とセレスじゃ無理だが、普通の兵士達なら攻撃可能だ。皆の者、今が好機だ!ありったけの矢を放ちハリネズミにしてやれ!」


一斉に弓が引かれ、合図と共にいつでも撃ち出せる状態となった時伝令の兵士が駆け込んできた!


「報告!あの異形の怪物に近付く者がおり、攻撃を開始すると矢が当たってしまいます!」


「何だって!? 攻撃中止、近くに居る兵士はその不用意に近付いている奴に逃げる様忠告させろ!」


「りょ、了解!」


伝令が去るのを見ながら、サトウは何か得体の知れない寒気に襲われた。


(なんだ、この感じ?今、俺が下した指示はとんでもない間違いだったとでもいうのか?)


サトウの抱いた不安が現実となったのはその直後だった。




「おい、すぐに逃げるんだ!そいつは危険だ、早くこっちに来るんだ」


「こいつは、俺の物だ。俺が喰う」


(喰う?その化け物を喰うだと!?)


エティンに近付く者の唇を読んだサトウは、周囲に轟く大きな声で叫ぶ!


「撃て、近付いている奴ごと化け物に矢を浴びせるんだ!決してその化け物を喰わせるな!」


サトウの命令を合図に矢が雨の様に降り注いだ、当然その矢は近付く者の背に何本も刺さるが痛がる様子は見られない。


そうこうしている間にエティンのすぐ近くまで近付いた者は、顔を覆っていたフードを外しながらエティンに吐き捨てる様に呟いた。


「お前は、俺のエサだ。お前を喰って、完全なる存在へと生まれ変わる」


(あの顔、見覚えが有るぞ。確かルピナスに居た、ミシェルとかいう冒険者だ)


ミシェルという名の存在がエティンに触れると、エティンの身体が液状に変わるとそれを啜る様に飲み始める。


そのあまりにも異様な光景に身動き出来ずにいると、全てを飲み干したミシェルの身体に変化が訪れた。




ボゴゥ! 鈍い音を立てながら、ミシェルにもう1つの首が生える。そして左右の腕も1本ずつ増えると、今度は胸と背中に女性の顔が現れた!


新しく増えた顔をやはりサトウは見覚えが有った、胸の顔は女剣士のソニアで背中の顔は魔法使いのキャシー。


そして・・・最初に生えた首の顔は、ミシェルの妹のアンナだった。


「ほら、アンナ。これでずっとお兄ちゃんと一緒に居られるよ」


妹の顔を掴んで無理やり自分の方に向けるミシェル、ボキボキボキと音を立てて妹の首が折れ曲がると愛おしそうに見つめ、そして口付けする。


「セレス、俺に何か有ればすぐにルピナスに逃げるんだ。良いな?」


「あなた、どこに行くつもりですか?」


「あいつに話しかけてみる、誰の差し金でああなっちまったのかも知りたいしな」


サトウは大きく跳躍して、ミシェルだった存在に話しかけた。




「よお!お前は確かハジメと同じルピナスに住んでたミシェルとかいう冒険者だよな?」


「お前、見覚えある。当たりの方の佐藤 始だ」


「覚えていてくれたとは光栄だね、今日は何だ?俺やセレスを殺す為にでも来たのか?」


いつでも動ける様にサトウは身構えた、勝つ事は出来なくてもセレスを逃がすだけの時間を稼ぐつもりなのだ。


「今はお前に興味は無い、今すべきはハジメ・サトウの排除。アンナ達を俺の物にする為に・・・戦う!」


サトウに背を向けて、ゆっくりと立ち去るミシェル。どうやら見逃されたらしい。





「あなた!無茶はしないでください」


「悪い、だが奴の目的は分かった。急いでルピナスに向かうぞ、ハジメの奴に知らせなくちゃならん!」


ごく僅かの手勢のみを従えて、サトウは公国を出立した。ハジメに今回の出来事を早く伝える為に・・・。

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