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第54話 【ダイナス恐怖の10日間】~最終日午前の部~

翌早朝、起きれずにいるマリアを残し宿の食堂で水を貰いにハジメが階段を下りるとアーシュラさんが待ち受けていた。


「あ、アーシュラさん!?」


「おはよう婿殿、早速だけど覚悟は出来ているのでしょうね?」


げっ!?昨日頭に届いたのは本当にアーシュラさんの声だったのか。ハジメが怖気づいて階段を引き返そうとすると獲物を捉えた獣の顔をしているアーシュラさんの頭を平手で叩く者が現れた。


「こらアーシュラ、からかうのはよしなさい」


「痛~い!何をするのよ!?」


「お前が痛い訳無かろう!逆に私の人差し指の骨の方が反射ダメージで折れておるわ」


引き締まった肉体を覆う様に黒いマントを羽織っている赤銅色の肌の男とアーシュラさんが軽口を叩き合っている。何、この息がピッタリ合っている感じ・・・。


「そういえば、婿殿にはまだ紹介していなかったわね。この人がランとラーセッツのパパで私の旦那様よ♪」


「へぇ~そうなんですね、初めまして俺はハジメ・サトウ・・・って言います」


自己紹介の途中から鈍器で頭を殴られた様な衝撃に襲われた、もしかしてアーシュラさんがまたとんでもない事を仕出かしたのではなかろうか?


「ほう、君がランの選んだ男なんだね。初めまして、私の名はカルーラ。魔界を今代の魔王として統治させてもらっている。この度はうちの子供達が色々と迷惑を掛けてしまった様で済まなかったね」


ハジメに頭を深々と下げる魔王カルーラ、もしかしてもしかしなくても名前の由来はきっと迦楼羅カルラなんだろうと予想がついた。


「アーシュラさん!【大型転移陣ビッグゲート】が完成していたのですか!?」


「まだ完全に安全が確認取れていないから、完成とは言い難いわね。でもパパで実験して上手くいったから、動作は問題無さそうよ」


おい!自分の夫を実験台にするなよ!?


「それじゃあ、何でカルーラさんをこちらに?」


「ラーセッツのお馬鹿がアイン殿を国王に据えてしまったからよ。クレア王女やエイラさんを保護する傍らで冒険者ギルドルピナス支部長のミリンダさんに命じて停戦交渉を水面下で進めていたって事にすれば、少しは箔も付いて国の統治もしやすくなるでしょうからね」




ここで事後報告になってしまうが、アインさんが国王になったのを機会に国の名前を別の名前に変えた。これまでこの国の名は【ジェラ王国】といって歴代の国王の名前の頭には必ずジェラが付いていたらしい。そういえばジェラールとジェラルド、確かにジェラが付いている。先祖にはジェラシックパークなんて奴も居たらしいがダジャレか?


そして新しく決まった国の名前は【フリーダム連合王国】、コルティナイト公爵領がまず始を初代公王とする【コルティナ公国】に改名。そしてルピナスも【ルピナス協和自治領】と変わり【大型転移陣ビッグゲート】を抜けて渡ってきた新たな魔族やこれから魔界に向かう者達の出会いと友好の場の役割を果たす事となった。その初代自治領主に選ばれたのは・・・。


「嫌だ~!!俺は自由が良いんだ~!」


商業ギルド代表のアグナードさんだった、商業ギルドの本部に居たセシウスの予想通りルピナスから逃亡していたがアーシュラさんの手によってあっさりと発見捕獲された。ミリンダの目は誤魔化せてもアーシュラさんの追跡から逃れる事は出来なかった様だ。


「予想だとハジメ殿が独立して初代国王となる筈だったのに、なんでこんな事に!?」


「あ~それは多分、途中からアーシュラさんとラーセッツの独壇場に変わったからじゃないのか?」


そう、今回の10日間において最も暴れまわったのは文句無くアーシュラさんだが中盤以降から加わったラーセッツも成果的な面で言えばアーシュラさんを上回る事を仕出かした。近衛騎士団の団長に過ぎなかった人を国王に据えたり王女に一目惚れして求婚したりとやっている事を思い出すだけで無茶苦茶だった。


そして色々とドタバタが重なり受け取りが遅れていた馬車が最終日の当日に宿に届けられた。商業ギルド秘蔵の技術が惜しげも無く使われ、その代金は全てアグナードさん宛に送られ請求書を見たアグナードさんは最初『これ・・・桁が2つ3つ多くないか!?』と本気で問い詰めていた。


「将来的な技術向上の為、秘蔵していた技術を更にもう一段階発展させるのに苦労しましたよ。王城の年間維持費半世紀分を予算に計上して使い切りましたので、この馬車が一般に出回るのは恐らく数世紀後になるかもしれませんね」


得意気に語るセシウスと顔面蒼白になるアグナード、セシリアの予想では日本円にして50億円以上のお金がこの馬車1台を作るのに回されたらしい・・・・。


(それ、アグナードさんの給与で払いきれるの?)


ハジメの心配をセシウスは笑いながら否定した。


「大丈夫ですよ、【大型転移陣ビッグゲート】の通行料は【ルピナス協和自治領】に全て入る仕組みになっておりますのでそちらから返してもらいます。我々、商業ギルド所属の商人が魔界に渡る際に通行料を割り引くか免除するかはこの自治領主が判断しますので。そこら辺の匙加減を間違う様な御仁がギルド代表になる筈が有りません」


商業ギルド側は通行料の永続的な割引か免除で元を取る考えらしい、しかしこの計画は後日アグナードからの痛い反撃を受ける事となった。


「馬車の中身は後ほどゆっくりとご覧ください、最初驚かれるかもしれませんがきっと気に入られると思いますので」


セシウスの笑みがマッドサイエンティストみたいに一瞬見えたのは気のせいだろうか?




「さて、ここに主な代表の方々にお集まり頂いたのは他でも有りません。新国王となられたアイン殿の治世をより安定させる為の一芝居をお願いしたいのです」


「一芝居?」


「ええ」


朝食を済ませるとアーシュラさんは主要人物に声を掛けて回り宿に集合してもらった、まずハジメ達一行に新国王のアインさんとエイラさんクレア母子。商業ギルドの新代表に就任したセシウスと自治領主アグナード、そして魔王カルーラと物凄い顔ぶれだ。


「国王即位表明の際にアイン殿は魔族と停戦交渉をしていると説明されました、しかしルピナスで行われている合同会議では既に不可侵条約と同盟関係の締結を目指す予定となっておりました。なので、国民の前での調印の席で停戦ではなく不可侵に変更しようとアイン殿がうちのパパのカルーラに提言し了承される流れに変えたいのですが如何ですか?」


勇者でもない人間が魔族の王たる魔王に不可侵条約を提言する、何も知らない国民は己の命も顧みず人族と魔族の仲介を果たそうとしていると見えなくもないだろう。ハジメは特に問題無さそうに思えた。


「良いんじゃないかな?それよりも魔王が既にシスティーナに来ている理由を考える方が先の様な気もするけどね」


『あっ!?』


停戦交渉も成立していないのに、この場に魔王が居る事自体がそもそも異常なのだ。なので調印の日取りも後日に回すしか無かった。


「それじゃあ、出発は夕刻という事にしてそれまでの時間は各自自由行動にしましょう。私はこれからパパと一緒に街中を散歩してくるから邪魔しちゃ駄目だからね」


アーシュラさんはカルーラさんの手を掴むと引き摺る様にしてあっという間に、宿から消えてゆく。こうしてダイナスの最終日、人々から恐れられている筈の魔王とその魔王を半殺しに出来る元勇者の夫婦が街に解き放たれた・・・。

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