第39話 【ダイナス恐怖の10日間】~4日目~
(ええ、そう。パパが来る前にケリを付けておきたいから、あなたの方も歩調を早めにしておいてくれないかしら?)
マミー騒動から一夜明けてハジメが1階の食堂に下りてくると、アーシュラさんが誰かと話をしているみたいだった。
「アーシュラさん、おはよう。誰と話をしてるの?」
(それじゃあ、頼んだわよ!)
ハジメが声を掛けるとアーシュラさんは慌てて会話を切った。
「な、何でもないわよ。オホホホホ!」
「それ、絶対に何でもなく無いでしょ?この後、何か騒動を起こすフラグにしか見えない」
「あららら、そして自分でそのフラグを確定させちゃうのか」
「ちょっと待て、本当に何か騒動を起こすつもりか!?」
「騒動というか、この国の人に受け入れて貰う為には何か大きなイベントが必要だと思ってね」
何をしようと考えているのか教えてくれないアーシュラさんだったが、その答えは翌日に判明する。
「四方の各門は近衛騎士団の指揮の下で堅く閉ざしているけど、壊れた城壁の所はやはり始に守ってもらうしかないな」
「でもやはり城壁の空いている部分を何かで埋めておいた方が良いぞ、流れ矢が住人に当たっても嫌だからな」
「その心配は無用よ、私が壊した城壁ならさっき埋めておいたわよ」
アーシュラさんがサラリと問題が無くなった事を報告してきた。
「城壁で使う石をそんな短時間で切り出せるものなのか?」
「時間も無いから、城壁と同じ位の高さの物で代用しただけよ」
代用? 何をするか分からないアーシュラさんがした事なので心配になったハジメと始は宿の3階の窓から外を見て驚いた。
「おい、俺たちが篭城した塔で穴埋めしたみたいだが1つ増えてないか?」
「どうせ幽閉とかでしか使わないのなら、城壁代わりにしても誰も文句言わないわよ」
後で修復する際に邪魔になりそうだ。
「それに、もう片方の塔の上に私が登れば2代の勇者が守る事になるわ。完璧よ」
(アーシュラさん1人だけで十分だと思うんだけどな、自業自得なんだから尻ぬぐ
ハジメの意識は途中で途切れた・・・。
「危ないわよ、婿殿。急に意識を失って3階の窓から落ちちゃうのだもの、下に居たセシリアさんやランがビックリしていたわよ」
サリーネがガクガクと涙目で震えている、どうやら久々にアーシュラさんのお仕置きを喰らってしまった様だ。
「ラン」
突然アーシュラさんがランに声を掛けた。
「明日、あなたはサリーネさんと一緒に南門に居なさい」
「南門ですか?」
「ええ、私の見た感じだとサリーネさんはセレスさんほど力を上手く使いこなせるとは思えないから」
明日の各門への配置は当初アーシュラさんが壊した城壁に近い北門と東門にはそれぞれミリンダとランが守りに付き、西門をセレスで南門をサリーネのみが付く予定だった。ハジメは王都の中で貴族達が暴発した際に抑える役と遊撃を兼ねているのでランが南門に配置変更となると必然的に東門に付くしかなくなった。
「ラン、あなたは隙を見て挟撃するのよ」
「挟撃ですか?」
「そうよ、今はまだ私の予想に過ぎないけど現実になったらすぐに分かるわ」
「?」
挟撃する相手が誰なのか、結局ランやハジメには分からなかった。
「さてと、ちょっと俺はサリーネを連れて出かけるから皆はそれぞれ準備していてくれないか?」
「出かけるってどこに行くつもりですかハジメ?」
「システィナイト伯の所、ちょっとご挨拶をしに」
顔を真っ赤にして下を向くサリーネ、やる事をやってしまった以上殴られるのを覚悟でご両親に挨拶するしかない。
「停戦交渉が終わったら、今度は私の両親に正式に挨拶に行きましょうねハジメ」
セシリアがプレッシャーを掛けてきた。
「私の場合は停戦交渉の直前に挨拶する事になるな」
ランは更にプレッシャーを掛けてくる、今更ながら父親が魔王だとどんな挨拶をするべきか予想が付きそうにない。
「私は・・・両親を知らないので、挨拶の必要は無いです」
ミリンダの言葉は過去をあまり話そうとしない彼女が他人に心を許した瞬間だった。
「両親を知らないって孤児だったって事?」
「孤児だったら、その方がマシだったかもしれませんね。私が物心付いた時には、暗殺者として育てられていましたから・・・」
そういえば、始とセレスも小さな子供が刺客として送り込まれて来たと言っていたな。この国のどこかに子供を攫って暗殺者にする組織が存在するのならそんな物は徹底的に破壊すべきだろう。第2第3のミリンダを増やさない為にも。
サリーネが手配した馬車に乗って、システィナイト伯の屋敷に到着したハジメは伯爵夫妻から歓迎された。殴られるどころか泣いて感謝される始末で拍子抜けしてしまった。
「この国の女の子は15で成人の儀を済ませます、その頃までには婚約者の1人や2人居てもおかしくないのですがこの娘は作ろうともしませんでした。そんなサリーネが肌を許したのです、反対する理由など有りません」
「サリーネ」
伯爵の奥方が娘に優しく語り掛ける。
「あなたの代でシスティナイト家が途絶えても構わないのよ。私達は血を存続させる事と血を利用させない事に執着しすぎていた、だからきっとシスティナ様が女の子が生まれない様に変えてしまったのよ。だけど時が流れ2人の同姓同名の勇者が現れた事で新たな時代が訪れるのを確信されコルティナイトとシスティナイトの両家に女児を誕生させた。それぞれの勇者に嫁ぐ事で両家は血を存続させる役目から解放され歴史から消える、全てはシスティナ様の御導きよ。あなたはきっと幸せになれる、安心してハジメ殿の下に行きなさい」
その日は夜遅くまで伯爵に夕食や談笑に付き合わされた、奥さんとの馴れ初めや口説き文句まで話すものだからサリーネに宿に戻る馬車の中で何度もプロポーズを求められる羽目となった。
翌5日目の朝、早朝の霧に紛れながらコルティナイト公爵の私兵が壊されている筈の城壁からの侵入を試みようとしたが、アーシュラさんが運んできた塔2本によって穴を塞がれていた為に奇襲は失敗に終わった。
「見た感じだと、騎兵5000の歩兵3万位だな。セレスが言っていたほぼ全軍に間違い無いだろう」
始が言うほぼ全軍とは、騎兵の数が少なかったのでそんな表現で言っているが暗に騎馬による別働隊が動いていると知らせているのだ。
「我々はコルティナイト公爵の義勇軍である!セレスティーナ公女が勇者と共にこの王都で窮地に立たされているとの報が入り、お父君であらせられる公爵閣下は娘の救出と勇者の救援を決意された!抵抗すると我らの敵とみなし攻撃するので無駄な抵抗を止め門を開放しろ!」
「大層な理由を言っているが、クーデターを正当化しようとする言い訳にしか聞こえないぞ!俺は勇者、佐藤 始だ。お前らは一歩も王都には入れさせないからどうしても中に入りたければ死ぬ気で掛かって来い!」
コルティナイト側から戦意高揚の雄叫びが聞こえる中、公爵の兵達の後ろに新たな軍勢が現れた!
「おい、挙兵したのはセレスの親父さんだけなんだよな?あの軍勢は一体どこだ!?」
「私の情報網には入っておりません!他の大貴族は様子を見ている状態の筈です」
動揺が走ろうとした時、その新たな軍勢が軍旗を掲げた。
「あれは?」
赤地に黒い悪魔の顔、セイレーンを魔界に送ろうとした際に見た図柄。間違いない、魔族正規軍の軍旗である。
『私は魔界公爵にしてルピナス駐留軍司令のジィクリッド・デモニック・フォン・ノイエルバインⅣ世である!魔王妃アーシュラ様からの命により、勇者佐藤 始に加勢させて頂く!』
面食らったのはコルティナイト兵ばかりではない、ハジメ達も驚かされている。ルピナスからここまで1週間近くの距離なのにジィさん達魔族の兵は5日目の朝に到着した、これも全てアーシュラさんによる鍛錬の成果だとすればとんでもない統率力だ。
『今日が人族と魔族が共闘し共存の道を歩む為の第一歩となる!その妨げとなる者には相応の報いを与えてやるのだ、突撃~!!』
ジィさんの号令と共に魔族軍がコルティナイト兵の背後を襲う、アーシュラさんによってコルティナイト兵は魔族に上手く利用された哀れな鼠へと姿を変えようとしていた・・・。




