第38話 【ダイナス恐怖の10日間】~3日目夜の部~
宿で寝ていたハジメ達は急に街中が騒々しくなったので目が覚めた、様子を見に外に出てみるとそこには信じられない光景が広がっていた。
「ぎゃあああああ!」
「何で、何でモンスターが街の中に溢れかえっているの!?」
「逃げろ、でないと喰われちまうぞ!」
「なんだこりゃ?」
夜のダイナスの街にはマミーが溢れかえっていた、普通に走れば余裕で逃げ切れるが酒に酔って動きが鈍くなった連中は揃ってマミーの餌食になってしまったみたいだ。
「ゾンビにしろマミーにしろ、普通は墓地から離れようとはしないんだよな?」
「ええ、本能的に自らが眠っていた場所から離れない筈なのです。それに一部が妙に怯えている様にも見えますが、まずは数を減らすべきでしょう」
こうしてハジメ達による、ダイナス浄化(マミー踊り喰い)作戦が開始される事となった。
A班、B班、C班(始・セレス)、D班と4つの班分けが終わるとダイナスの四方に散り作業を始める。ここで人選を間違ったのはD班のアーシュラさん、送った先のダイナス南地区のマミー達が一斉に他の地区に逃げ出してしまい他地区に負担を押し付ける形となってしまったのだ。
ここで各班の状況を説明するとA班は最後に回すとしてB班のランとミリンダはダイナスの北を担当し、そしてABCの中でもっとも効率良くマミーの数を減らした(喰った)班にもなった。
「ミリンダ、頭も勿体無いから一口大にカットするのじゃ」
「そうですね、私達は出来るだけ多く食べないと能力を得られる可能性が低いですから」
「うむ、ただ今回ばかりは何としても手に入れねばなるまい」
「はい、【腸内環境向上】と【体脂肪燃焼・肥満防止】を私達の手に!】
っとまあ、2人からして見ればわざわざ喰いに墓地まで行く手間が省けたみたいな感じで次々と出会ったマミーを喰い荒らし日が変わる前には北地区のマミーは全て2人の胃の中に納まった。
次にC班の始とセレスが1番遅く、全てのマミーを片付け終えたのは翌朝だった。
「おいセレス、少しは手伝ってくれよ」
「駄目です、始にも【体脂肪燃焼・肥満防止】を覚えてもらわないと。覚えるまで頑張って食べてください」
「いや、幾らなんでも1人でこの量を喰うのは無理が有るだろ?それにこいつら、モンスターとはいえつい先日見た連中ばかりだぞ」
「それがどうかしましたか?【体脂肪燃焼・肥満防止】を覚えるのに何か不都合でも?」
「いや、何でもない。喰うよ、喰えばいいんだろ?」
「それでこそ、私だけの勇者です♪」
今回C班が最も遅かった理由、それは担当した西地区がマミーになりたての連中の数が非常に多かった事による。何しろ初日にミリンダの手によって始末された冒険者達ばかりだったからだ。落とされた首を持って恨めしそうに街を彷徨う冒険者の死体、王の企みに乗ったのが原因とはいえ死んだ後に自らが倒していたモンスターと変わり果てたのは皮肉な結果かもしれない。
さて、A班のハジメ・セシリア・サリーネの3人を最後に回したのには理由が有る。彼らはマミー達を食している間にとある少女(?)との不思議な出会いを果たしていたからだ。
「サリーネ、無理して食べようとしなくても良いから。見てるだけで良いよ」
「いいえ、私もハジメさんと同じ物を食べれる様になりたい。セシリア姉さま達の様にハジメさんの奥さんに相応しくなりたいんです」
サリーネはセシリア・ラン・ミリンダの3人を呼ぶ際に名前の後ろに『姉さま』と付ける様になった、3人が年上である事と貴族としての立場を捨て積極的に中に溶け込もうとする気持ちの表れだった。
「この辺りのマミーは食べ終えたみたいだし、次の区画を見に行くか」
『ちょっと待って』
視界内のマミーを食べ終えたハジメが隣の区画へ移動しようとした時、背後から声を掛けられた。見るとボロボロのローブに身を包んだ緑色の肌を持つ少女だった。
「俺に何か用かい?」
『まだ行かない方がいい、排水溝から溢れ出すから』
「何が溢れ出すんだい、ってちょっと待って!」
そう言い残すと少女は何事も無かったかの様にその場を立ち去った。
「変わった雰囲気の女の子でしたね」
セシリアも少女のどこか希薄な雰囲気を不思議がる。すると次の瞬間、目の前のマンホールの蓋が開くと同時に大量のマミーが出てきた!
「溢れ出すってこの事かよ!?」
「文句は後で、これを片付けない限り隣の区画へ行けません!」
食べている時間を与えてくれそうにないので、ハジメは仕方なくこのマミー達をフレイムやスパークを使って始末した。30分ほどの戦闘の末に排水溝から出てきたマミーを片付けたハジメ達が隣の区画へ移動すると、先程の少女がまた姿を現した、排水溝を使ってマミーを呼び寄せたのはこの少女ではないか?ハジメは彼女の動きに警戒する。
『警戒しなくても良い、今度はお願いがあって来た』
「お願い?俺達に出来る事なのか?」
『ええ、墓地に撒かれた液体を水で薄めて欲しいの。マミー達が街に出たの、それが原因』
「何でそんな事を知っているんだ?君は一体何者なんだ?」
『私の名はアルラウネ、また今度会いに行くわ』
そう言うと、ハジメの手に何か小さな物を握らせた。
「これは?」
『良かったら使って、マンドラゴラの種』
びっくりしてハジメはその種を落としそうになった、その間にアルラウネと名乗った少女は姿を消していた。
「アルラウネってもしかして?」
その名前に覚えが有るのかサリーネがハジメに確かめようとした。
「ああ、アルラウネはマンドラゴラの女性版みたいな奴さ。しかし、モンスターが自分の方から接触してくるなんてどういうつもりだ?」
しかし彼女について詮索する前にマミーが街に出てきた理由が墓地に有るのならば急いで向かった方が良い、ハジメ達はすぐ先に在る墓地へ向け走り出した。
「それで?今回の騒ぎの原因はお前だった訳かドリアード」
『ごめんなさ~い、ワサビ汁を浴びせたらマミーがどんどん消えていくからつい面白くなって墓地中ワサビ汁塗れになっちゃった』
アルラウネに言われた通りに墓地に着いたハジメ達が見たものは指先からワサビ汁を出しながらマミーを追いかけるドリアードの姿だった。何故、こんな所にドリアードが居るのか分からなかったがマミーがワサビ汁が苦手で墓地から逃げ出したのが今回の騒ぎの真相らしい・・・。
「とりあえず、ワサビの香りがキツ過ぎるから薄めるぞ」
『え~!鼻の通りが良くなって嬉しくないの?』
「通りが良くなりすぎて鼻水や涙がボタボタ出るわ!」
ハジメはドリアードの抗議を無視して、両手を天に向ける。
「アイスブリッド!」
無数の氷の弾丸が撃ち出され、空高く上がり雲の中に消えていく。弾丸が見えなくなってしばらくしてから今度は別の能力を使った。
「捕縛網!」
ハジメは墓地の上空に何重にも重ねられた粘糸の網を作ると、落ちてきた氷の弾丸が網に次々当たり網の上に氷の層の様な物が出来上がった。
「導火糸」
ハジメが糸の1つに火を付け網ごと氷を溶かすと、溶けた氷は墓地全体に雨として降り注ぎドリアードが撒いたワサビ汁を徐々に薄めていった。
「見てハジメ!マミーが戻ってきたわ」
ワサビ汁が薄まるにつれマミーが少しずつ墓地に戻ってきた、ワサビの強い香りもマミーにとって嫌な物の1つだったのかもしれない。
「ところで何でお前はこんな墓地なんかに来ようとしたんだ?」
『ちょっと知り合いの子に会いたくなって本体にここまで根を伸ばしてもらったの』
「知り合いの子?」
『うんアルラウネっていうんだけど、どうやら留守みたいだったからまた遊びに来るね』
「もう遊びになんて来なくて良いわ!」
地面に潜り森へ帰っていくドリアードの分体からアルラウネに会いに来た理由を聞くのをハジメはすっかり忘れていた。ドリアードによって起こされたマミー騒動はハジメ達のお陰で何とか一晩だけの被害で治まったのだった。




