第25話 本部からの出頭命令
「ハジメ様、申し訳無いのですが至急ダイナスに向かって頂けませんか?」
「ダイナスってどこだっけ?」
「この国の王都です!ハジメ様を本部所属に切り替えたいそうなんですが、再来週には【大型転移陣】が完成して魔王がこちらの世界にやってきます。それまでには何とか戻ってきて欲しいのです」
朝一番でハジメの家を訪れたミリンダが本部から送られてきた出頭命令書を広げて見せた、早馬で急げばギリギリ往復出来る距離らしいのだが大人数での移動が出来ないので俺1人だけで向かうしか無さそうだ。
「それなら往復は無理だけど、片道で良ければこの場に居る全員を私がダイナスまで運んであげましょうか?用件を済ませて1日王都を見物してから馬車を買って帰ればパパが来るまでに余裕でルピナスに戻れるわ」
いつの間にか来ていたアーシュラさんが妙な提案をしてきた。
「片道だけ全員を運ぶって何をするつもりなんですか?」
「簡単な事よ、自分の魔力で空間を捻じ曲げてダイナスまで転移するの。私1人なら1日で往復出来るけどこれだけの人数になると片道を移動すれば1週間は再転移出来そうも無いわ。だから、帰りの馬車は自費で買ってくださいな婿殿」
「ええっ!?俺が馬車を買うの?」
「パパが来る前に婚前旅行を済ませておくのも良いでしょう。それに婿殿の狩りの様子を見ると徒歩でしか移動してないみたいだし、馬車を持てば行動範囲も広がるからダンジョンの探索も今後視野に入れられるのでは?」
アーシュラさんの言っている事はもっともだった、本部所属に切り替わればこの国の中を自由に動ける様になる。ルピナス近郊にはダンジョンは存在しないがセシリアやランを連れてダンジョンに入ってみるのも面白そうだ。
「そうだな、ダイナスである程度の人数が乗ってもOKの丈夫な馬車を買っておくのも良いかもしれない。ところでセシリア、馬車の相場ってどれくらいかな?」
「そうね、中古の安いのであれば白金貨3~4枚で買えるけど馬無しの2人乗りサイズになるわよ。5~6人乗れて頑丈な馬車となると馬も合わせて多分白金貨15枚前後は必要になるかもしれないわよハジメ」
「予算足りるかな?なあミリンダ、今身分証を見せれば今チャージされている報奨金の総額は分かるかな?」
「それくらいでしたらお安い御用ですハジメ様!私に任せてください」
ミリンダが笑顔でハジメの身分証を受け取って確認し始めた、すると何故か急に彼女は固まってしまう。
「ハ、ハジメ様?」
「何か問題でも有った?」
「いえ、そうではないのですが最近ご自身のレベルを確認されたりしましたか?」
「そういえば、全くしていなかったな。確認するにしてもチャージされている報奨金しか興味無かったし・・・」
「では今のレベルを見て下さい、多分ティターニアとオーベロンを食べた影響だと思いますが」
ミリンダに言われた通りに自分のレベルを確認するとモンドールの村を出た時は31だったが今のレベルは60に上がっていた。
「いつの間にか60に上がっていたのか、60ってレベルは問題有るの?」
「問題有りません、けれど私のレベルは65ですが冒険者となって10年掛けて辿り着きました。それをあなたは冒険者になってからわずか半年掛けずに成し遂げてしまった事になるのです」
「こっちの世界に来てからを考えれば3年半か、これって結構良いペースでレベル上がった事になるのかな?」
「早過ぎます!!」
そして報奨金の総額を見せてもらうと白金貨50枚分近くに達していた。
「これだけ有れば、予算が多少オーバーしても良い馬車を買う事が出来そうだ。アグナードさんからダイナスに良い店が在るか聞いておくとするか」
ダイナスに向かう為の荷造りをセシリアとランに任せて、ハジメは商業ギルドを尋ねるとアグナードからダイナスで馬車を扱う所で良い店が在るか聞いてみた。
「ダイナスとなると流石に範囲外となってしまいますので、私からの紹介状を渡しておきましょう。商業ギルドの本部でそれを見せれば本部に居る人がきっと良い店を教えてくれる筈です」
「有難う、アグナードさん」
「いえいえ、これからも長いお付き合いになると思いますので先行投資です」
「?」
先行投資の意味がよく分からなかったが紹介状を懐にしまうと今度は始の住む家に向かった。
「・・・そんな訳で明日ダイナスに行くからしばらくの間ルピナス周辺で何か起きたら始に対応をお願いしたい」
「ああ、良いぜ。ようやく俺も自信を取り戻せたからな、任せておけ」
「自信を取り戻せたって何か有ったのか?」
ピシッ!何かにヒビが入った音が聞こえた気がした、見ると始が急にしおらしくなる。
「お前との違いを半日近く言われ続けるとな、男としての自信を失くしかけるんだ・・・」
始がその場で体育座りして落ち込みだした、見かねたセレスが始に囁く。
「人には相性って物があるの、私とあなたの相性さえ良ければ他の人との相性を気にする必要なんて無いの。でも私のは始専用だから他の人に触れさせたり見せたりする真似は絶対にしないわよ」
何が始専用なのか分からないが、詳しく聞かない方が良いだろう。
「とりあえず明日から頼んだ、お土産買って来るから楽しみにしていてくれ」
落ち込む始をあやすセレス、2人の仲は相変わらず良好みたいだ。始に留守中の町の守りを頼み終えるとハジメは一旦家に戻った。
「ただいま~!」
「おかえりなさい、ハジメ様。最初にお風呂にしますか、ご飯にしますか、それともお・仕・置・き?」
「遮音結界」
一瞬で頭に血が上ったハジメは出迎えたミリンダの望み通りお仕置きを与える事にした。
「ボェ~オゥイエ~~ギョエ~!!」
恍惚とした顔で気を失い倒れるミリンダ、すっかりハジメの魅惑(?)の歌声の虜となっている。
「まったく!何で帰宅早々お仕置きせにゃならんのだ」
「とはいえ、ハジメは責任を取って彼女も養っていかないといけませんからね」
セシリアからのツッコミにハジメは何も言えない、ミリンダは万が一の事を考えて室内の様子を録画用の水晶玉に常に記録させていた。そしてハジメのお仕置きの様子もバッチリ録画されていた為、それをネタに脅されセシリア・ランとの同時挙式後にミリンダも籍に入れる運びとなっている。
「私は最早ハジメ様無しでは生きてゆけない身体にされてしまいました、責任を取って下さいね」
「・・・・・はい」
『女の天敵』として国中の冒険者から追われる位ならミリンダを受け入れる方がまだマシだ。セシリアとランは半ば呆れながらもミリンダの脅しに一定の理解を示す。
「だって・・・私達もハジメにアレをされるのが当たり前になってしまって、普通では満足出来なくなってしまいましたから」
セシリアとランは状態異常無効を持っていない、その為ハジメは夜になると持つ能力をフルに発揮して男女の営みを楽しんでいた。
先程ツッコミを入れていたセシリアが何かを思い出したみたいでハジメに頼み事を言ってきた。
「そうだハジメ、ダイナスに行く前にガルフさんにお願いしたい物が有るのだけど一緒に行ってくれないかしら?」
「まあ、夕食にはもう少し時間も有るから良いけど調味料セット用の瓶を追加したいのかい?」
「いえ、そちらはまだ大丈夫なのですが今回のは作るのを承知してくれるか不安なのでハジメも一緒にお願いして欲しいんです」
セシリアの頼みを断る事が出来ないハジメは一緒にガルフの店へ向かった。
「ガルフさん、こんにちわ。すいません、またある物を作れないか相談に来ました」
「何だかお前らが来ると本職の防具以外の注文しか言ってこない気がしてならないんだが・・・今日は俺に何を作って欲しいんだ?」
「包丁セット」
セシリアが単刀直入に欲しい物を言うとガルフは勢い良くテーブルに頭をぶつけていた。
「包丁セットだと!?」
「はい、活きの良いモンスターをその場で出来るだけ早く捌いてハジメに食べさせてあげたいので」
モンスターを捌くとか普通考えないのだが、セシリアもハジメと同様にモンスターを食う事に躊躇いが無くなりつつある。
「もうあれこれツッコミ入れるのは止そう、包丁を幾つ作れば良いんだ?」
ガルフはこの2人に何を言っても無駄だと悟ると、初めて刃物を作る上での相手の希望を聞いておく事にした。
「ガルフさ、日本じゃ包丁セットと言っても刺身包丁・菜切包丁・万能包丁・ペティナイフ・小出刃包丁の5本も有れば十分足りるよな?思い出しながら何とか5本作ってくれないか?」
「今回ばかりは1日で作るのは無理だぞ、知り合いの刀鍛冶から刃物の打ち方とか教わっておかないといい加減な代物を渡して怪我をされたら鍛冶屋の名折れだ。作る以上はちゃんとした物を作りたいから2週間前後時間が欲しい、それが無理ならこの依頼は断る」
職人気質というか適当な物を作って満足する事が出来ない性分なのだろう、だがその方がこちらも安心して任せられるというものだ。ダイナスから帰る頃には出来上がっている筈だ。
「それなら大丈夫だよ、丁度明日ダイナスに行く用事が有ったからルピナスに戻るのが大体2週間前後だ。満足いく物が出来るまで待つから期限を気にせずにやってくれ」
「それを言ってくれるとはありがてぇ!最高の包丁を作ってやるから期待していてくれよ」
ガルフに注文し終えるとハジメとセシリアは久しぶりに2人で手を繋ぎながら家に帰った。そして翌朝、ハジメ・セシリア・ラン・ミリンダの4人はアーシュラの力でダイナスの手前まで一気に転移すると5人で最初の目的地である冒険者ギルドの本部へ向かう事にした。しかしダイナスに来て早々に周囲の人間を巻き込む騒ぎを起こす者が現れた、過去に王城を全壊させた非常識元勇者のアーシュラさんである。




