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第24話 覚えたくなかった能力

「ハジメ様~!利用しようと思って来ちゃいました♪」


ゲシッ!! ハジメの空手チョップがミリンダの頭部にヒットした。普通であれば余裕で避けられる筈なのに全く避けようともしないミリンダ、ハジメから受ける仕打ちを何でもご褒美として感じる様になってしまったらしい・・・。


ミリンダの豹変ぶりを見てセシリアとランはハジメに何かされたのだと薄々は気付いているのだが、息を荒くしながら更なる仕置きを待つMっ気全開のギルド長の姿を見ると何も言えなくなった。


「今日、持ってきたのはハジメ様のみで行って頂きたい案件なのです。【大型転移陣ビッグゲート】の建設が急ピッチで進んでおりますが、最近ルピナス近郊の道の上で不審死を遂げている旅人が何人も出ているのです。転移陣に釣られて何らかの強力なモンスターが現れたのかもしれないのでハジメ様にはしばらくの間ルピナス周辺の警戒と探索をして欲しいんです」


「不審死って穏やかじゃないな、一体どんな死に方しているんだ?」


「はい、死亡していた者達は両耳を押さえる様にしながら恐怖に歪んだ顔で心臓が止まっておりました。何かご存知ですか?」


「聞いた限りだとマンドラゴラの性質によく似ているけど、マンドラゴラは絞首刑になった男の精液から生じると言われておるし道端で縛り首になんぞする筈も無いから少し妙ね」


当たり前の顔をしてハジメ達の食卓に顔を出しているアーシュラさん、厳重に鍵を掛けておいても何時の間にか侵入していて天井裏からハジメ・セシリア・ランの3人のご乱行を観察された事まで有った。


「婿殿が娘と上手く暮らしているか気になって、つい天井裏が空いていたからこっそり見物させて貰ったわ」


熱感知すら反応させずに侵入してくるアーシュラさんを見つけるセキュリティシステムが構築されれば、文字通り世界最強の防犯能力と言えるかもしれない。


「マンドラゴラなら一応俺も知ってるよ、地面から引き抜く時に絶叫してその声を聞くとショック死するって奴だろ?」


「ええ、その通りよ。そしてさっきも言ったけど絞首台付近でしか生えないモンスターが道端で生えているなんて事は有り得ないから、一応気を付けなさいな婿殿。でも婿殿に状態異常無効が有るのを知った上でのミリンダからの依頼だから、死の状態異常は恐らく効かない筈よ安心なさい」


「ハジメ様は私に死の絶叫を聞かせるお仕置きをくれるのでしょうか?はぁはぁ・・・」


なんちゅうお仕置きを欲しがるんだミリンダの奴は!?一歩間違えば死ぬんだぞ!状態異常無効はミリンダ自身も持っているみたいだから恐らく効かないだろうが、死ぬかもしれない恐怖を快感に変えて味わいたいのだろうか・・・。




朝食を終えたハジメはとりあえず最初の犠牲者の出た付近から順に見回る事にした、4時間ほど歩いてセシリア特製の昼食でお腹を満たしているとどこか遠くから歌声の様なものが聞こえてきた。


(何だろう、こんな場所で歌っているとモンスターに襲われかねないのに?)


するとハジメの熱感知に人型大の鳥の様な物体が急速で接近するのが分かった次の瞬間!!






『ボェ~オェエ~~ギァ~!!』






とんでもない歌声だった、聞いた瞬間ハジメの脳内が痺れて気が遠くなって熱が出そうになる位。


(某ガキ大将の歌をリアルで聞くとこんな感じなのだろうか?)


朦朧とする意識の中、目の前に降り立った者は上半身が人間の女性で下半身は鳥の姿をしたモンスターのセイレーンだった。


「あれ?私の魅惑の歌声を聞いてまだ生きているなんて変ね?」


目の前のセイレーンが物騒な事を言っている、これが魅惑の歌声なら一般人の歌唱力は天上の音色と呼べるだろう。


「もう1度、歌ってみるか」


「止めんかゴルァ!!」


ゴンッ!!


流石にキレたハジメがセイレーンの頭を殴ると粘糸を出して口を塞いだ。


「モゴモゴモ~!?」


セイレーンは手を伸ばして口を塞いでいた糸を剥がすとハジメに抗議した。


「ちょっと!私の歌声がとても綺麗だからってこんな仕打ちは酷くない?」


「じゃかあしい、ボケェ!てめぇの歌を聞いた瞬間意識が遠退き掛けたんだぞ!」


「それじゃあ、私の歌に魅了されかけていたって事じゃない。なら、もう1度歌えば・・・」


ドムッ! ハジメは反射的にセイレーンの鳩尾にボディブローを放っていた。


「それ以上歌うってのなら、この場で焼いて喰うぞ」


無表情で残酷な宣告をするハジメの顔を見たセイレーンは命の危険を感じて歌うのを止めた。


「どうして海に住む筈のセイレーンがこんな所に居るんだ?」


「何故だか知らないけど、魔界に帰れそうな気配を感じたのよね。その気配を追って住処を離れたら何時の間にかここの近くまで来ちゃった、その途中でお腹が減った時に立ち寄った町の絞首台付近で生えていたマンドラゴラの葉っぱの部分だけを食べたらこの魅惑の歌声を手に入れる事が出来たの」


(絞首台付近に生えていたマンドラゴラをセイレーンが食べてあの殺人ボイスを手に入れたのか、だがこれ以上ここに居られるのも困るぞ。犠牲者が更に出てしまう)




ハジメはセイレーンを【大型転移陣ビッグゲート】の隣に作られている簡易転移陣まで連れて行く事にした、。【大型転移陣ビッグゲート】が完成した後も故障時のメンテナンスや仮の移動手段等として利用される予定だがアーシュラさんも転移出来るだけの能力は確保されていた。


「すいません、ジィさんは居りますか?」


警備をしていた魔族が怪訝な顔でハジメを見るとすぐに慌てて敬礼をしながら奥の事務所に走っていった。ランのお目付け役の爺は正しい名前をジィクリッド・デモニック・フォン・ノイエルバインⅣ世というのだがあまりにも長すぎるのでハジメはジィさんと呼んでいる。魔族の中で長い歴史を誇る公爵家の当主で保有する魔力は魔王にも匹敵するとまで言われていたが、アーシュラさんの出現と強引な嫁入りですっかり影を潜めてしまった・・・というか影が薄くなった。


魔王に次いでアーシュラさんと長く接してきたジィさんがランのお目付け役となったのも他に抑えられる人材が居ないという側面も有った。


「ハジメ様こんな場所までご足労頂き恐悦至極に存じます、ところで本日はお一人で如何されましたか?」


警備に呼ばれてやってきたジィさんが丁寧にお辞儀をしながら挨拶してきた、魔王の娘婿(仮)という立場に配慮してだろうが丁寧過ぎて背中がかゆくなりそうだった。


「ジィさん、ランやアーシュラさんは一緒じゃないから丁寧に話さなくて大丈夫だよ。今日はちょっとお願いが有って来たんだ」


「お願いですか?」


ハジメは連れてきたセイレーンが原因でルピナス周辺で死者が出ている事を説明するとジィさんは事の重大さを考慮してくれた。


「そうですか、こちらに連れてきて頂いたのは正解でしたハジメ様。1歩間違えば我々が停戦を一方的に破棄したと言われかねない事態となっていたかもしれませんから」


ジィさんはハジメに感謝の言葉を述べると背後に居るセイレーンに声を掛けた。


「お前、こちらに居られるハジメ様に感謝するのだぞ。人族と魔族の停戦を貴様によってぶち壊されたと知ったらアーシュラ様はきっと怒り狂って八つ裂きにした上でHP1状態が延々と続く様に回復魔法を使われたかもしれぬぞ」


(げっ!?HP1の瀕死状態が延々と続いたら『頼むからいっそのこと殺してくれ』と言いたくなるぞ。ジィさんが言うって事は似た様な例が過去に有ったのだろうけど)


「魔王様が酒に酔った勢いで侍女の1人と一夜を共にした際にアーシュラ様が魔王様に浮気の罰として先程言った刑を5年間されたのだ。貴様は1年も耐えられるか?」


酒に酔った勢いとはいえ、夫の浮気に対する罰が5年間の瀕死継続。それなのに何食わぬ顔して俺の味見をするアーシュラさんの方が魔王よりも遥かに魔王らしいと何故か思えてしまった、元勇者の筈なのに・・・。セイレーンもジィさんの説明を聞いて顔面蒼白になっていた、アーシュラさんの存在は魔族やモンスター達の中で既に不可侵の領域となっているのだろう。




(あれ?そういえば、何でモンスターと魔族で会話が通じるんだ?)


ハジメは今頃になって当たり前の疑問に気が付いた、自分で話をして連れて来ているにも関わらず。更にツッコミを言わせてもらえばつい先日もオーベロンと会話しているのに不思議に感じていなかったのだ。


「ねえ、ジィさん。モンスターと人族や魔族ってもしかして会話可能なの?」


ジィさんやセイレーンが口を開けて呆然としている、よく見ると周辺の魔族達も愕然としていた。


「知能の高いモンスター達とは会話や意思疎通も可能です、ですが知能が低くて自我を持たないモンスター達は会話が成立しないので出会えば戦闘状態となってしまう訳です」


「俺、ティターニアやオーベロンを喰っちゃったけどもしかしてマズかった?」


妖精系の王と女王を喰ったと平然と答えるハジメに魔族の作業員達はアーシュラの再来みたいな眼差しを向けた、アーシュラさんほど非常識じゃないと思っていたので少し悲しい。


「まあ、会話して喰わずに済むのならそれに越した事は無いか。会話出来る相手を喰うかどうかはその時にでも決めるよ」


喰うのを止めると言わない辺り、ハジメの感覚はやはりずれていた。ここでジィさんがモンスターについて大切な事を教えてくれた。


「モンスターには人族・魔族と決定的に違う事が1つだけ有ります」


「それは一体何?」


「それは個体の増やし方です」


「増やし方?」


「はい、魔族は異なる位相空間で生活していますが同じ世界の人間なので人族と同じで男女の間で子を産み数を増やします。魔王様やアーシュラ様みたいに人族と魔族で結ばれハーフのラン様やラーセッツ様が生まれるケースも有ります」


ここでジィさんが一息ついた。


「ですが、モンスターの場合は違います。スライムの様に分裂したり、アントの様に卵で増えたりもしますが何も無い場所から自然発生する個体が存在するのが怪物モンスターなのです」


「自然発生ってモンスターは何時どこで現れるのか分からないって事?」


「ハジメ様が食べられたティターニアやオーベロンが良い例かもしれませんが妖精系などは空気中の魔力の流れが乱れて滞留する箇所が出来るとそこから大量発生します。ティターニアやオーベロンの群れが現れる事も有ります、魔界はシスティーナよりも魔力の量が多いので1度乱れるとどんなモンスターが姿を現すか分からないので歴代の魔王様は魔力の流れが穏やかなシスティーナに魔族が安心して住める場所を作ろうとしたのです、最初の人族との接触に失敗したのが原因で長い戦争状態となっていましたがラン様とハジメ様のお陰で魔族の悲願がようやく達成されようとしております」




セイレーンを魔界に送る事でハジメとジィさんの意見が一致したので早速簡易転移陣を起動させようとした時、セイレーンがハジメに話しかけてきた。


「あの、私を喰わないでくれた上に魔界に送ってくれてどうもありがとうございます!これはお礼なので、ゆで卵にでもして食べてください」


セイレーンが胸元から1つの卵を取り出してハジメに手渡した。


「これは?」


「はい、私達セイレーンの卵です」


(おい!?自分の子供をゆで卵にして食えってどんな神経しとるんじゃワレ!)


でも折角なので後で食べようと考えている非常識人間のハジメである。


「魔界にもしも来たら海に遊びに来て下さい、仲間と皆で歓迎の歌を披露しますから」


ハジメの返答を待たずにセイレーンが転移陣の上に乗ると、少しずつ輪郭がぼやけ始めてセイレーンの姿が消えた。


「どうやら開戦の危機は去ったみたいですな」


「空腹だからってマンドラゴラを食べるセイレーンの神経は疑いたくなるけどね」


(お前にだけは言われたくないわ!)


ジィさんを含めた魔族の皆さんは内心で総ツッコミを入れていた、そしてハジメはやはり非常識な行動を取り始める。


「ねえ、ジィさん。鍋で湯を沸かしてくれないかな?」


「ハジメ様・・・・まさか!?」


「うん、折角貰った物だしゆで卵にして喰うよ」


アーシュラの娘の婿となる男もやはり常識が通じる相手では無かった、ハジメは魔族から畏怖の対象とされた事に全く気付いていなかった。


「いただきま~っす!」


茹で上がったセイレーンの卵の殻を割って取り出すと、ハジメは出来たてアツアツのゆで卵を口に運んだ。


卵の白身部分はふんわりとしていて、黄身の部分がアンコの様に甘い・・・この味と食感は!?



「ドラ焼きだ」



セイレーンのゆで卵を食べ進む内にハジメの脳裏で嫌な予感がし始めていた、今回のセイレーンの一件では某アニメの影響が色濃く出過ぎている。もし能力をを手に入れた場合、最悪のオチが付くのではないか?その予想は的中する。




ハジメは【魅惑(殺人レベル)の歌声】を会得した。




「俺、もう人前で絶対に歌えねえよ!?」


これまでの罰が当たったのか、ハジメはルピナス墓地に生息するアンデッドさえ強制的に成仏させる歌声を手に入れたのだった・・・。

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