第20話 怪物料理人(モンスターコック)
たっぷりとミリンダに怒られたハジメ達は3人で町の外に出た、セシリアにモンスターを実際に食べてもらう為だ。
「これから私もモンスターを食べるのかと思うと、少しだけワクワクします」
「怖いとは思わないんだ?」
「怖さよりも未知の味に対する興味の方が勝っていますので」
「セシリアは本当に料理するのが好きなんだね」
「はい♪」
そんなセシリアにまず最初に食べてもらおうと向かった先はステーキ(ブラウンスライム)の生息地、ハジメの好物(?)の味の参考になると考えたからだ。
「それじゃ、1匹捕まえるからね」
ハジメは小石を1個ステーキに投げて当てると、怒ったのかハジメに向かってステーキが突進してきた。ハジメはギリギリまで接近させるととある能力を狩りで初めて使用した。
「蜘蛛縛り!」
糸でグルグル巻きにしてステーキの身動きを取れなくすると、ハジメは軽く火で焼いてからナイフを取り出して手際良くステーキを一口大に解体した。
「はい、セシリア試しに食べてごらん。俺が元居た世界で牛の肉を焼いたステーキって料理の味がするから」
少し離れた場所ではランがステーキ達を追い掛け回しながら生のまま齧り付いていた。
「では・・・いただきます」
セシリアはステーキを口に入れると味や食感を確かめる様に何度も噛んでいた、そして確かめ終えてゆっくりと飲み込むと初めて食べたモンスターの味の感想を語り始めた。
「・・・・美味しい、これ凄く美味しいです。こんな美味しいのを普段から食べていたのですか?」
予想以上の反応にハジメは困惑する、だがセシリアの反応はこれだけでは終わらなかった。
「でも、こうすればもっと美味しくなる筈」
セシリアは腰に手を伸ばすとそこから小さな瓶を取り出した、それを見ていたランも物珍しいのかスライムを咥えたまま戻ってきた。
「セシリア、その瓶は一体何だい?」
「これは、塩とスパイスに少量のハーブを混ぜた物です。あとほんの少しだけコレを振り掛ければ更に美味しくなりそうな気がしたので」
そう言いながら切り分けたステーキに軽く調味料を振り掛けたセシリアはハジメとランに1つずつ差し出した。
「試しに食べてみてください、きっとこちらの方が美味しい筈です」
セシリアが熱心に薦めてくるのでハジメとランはその調味料が掛かったステーキを口に運んだ、そして味の劇的な変化に驚愕する。
「ハジメ、もしかして美味しく無かったのですか?」
「いや、逆だよ。さっきのでも十分美味しいと思っていたけど、コレと比べたら霞んでしまう。セシリアは本当に素材本来の味を引き出す達人だよ!お代わり貰えるかな?」
「はい、一杯有りますからたくさん食べてくださいね」
気付けばセシリアの隣では大量のブラウンスライムの死骸と木の枝を集めて火を起こしているランの姿が有った。
「ふ~!喰った喰った、こんなに美味いステーキを腹一杯食べたのは初めてだよ」
「こんなので宜しければまた食べに来ましょうか、ハジメ」
「そうだの、明日また3人で来るか?」
「ラン、その前に明後日が第2回の会議だという事を忘れてないか?明日、お前の母親がこちらに来るのだろ?」
その瞬間ランの顔がこの世の終わりでも訪れたかの様に変わった。
「ハジメ様、明後日私が無事生きている事を願っていてください」
(おいおい、本当にお前の母親は実の娘にも容赦無いのか!?)
だが翌日、大型転移陣の在る方角で高さ数百mにも及ぶ巨大な火柱が確認されハジメ達はランの母親のアーシュラがこの世界に戻って来た事を肌で体感する事となる。
ルピナスの町に戻ってくると、セシリアがハジメに珍しくお願いを言ってきた。
「ねえハジメ、1つお願いが有るのだけど良いかしら?」
「遠慮しないで言ってごらん、セシリア」
「そうだぞ、今晩もハジメにフェロモンを撒いて欲しいという願いなら私も大賛成だ」
「そんな願いでは有りません!今日、調味料を使い過ぎてしまったので少し買い足しておきたいのです」
確かにハジメとランがお代わりを何度もしてしまったので、セシリアの持っていた調味料はあっという間に無くなってしまった。しかし、この世界のコショウは金に近い価値が有るので本来で有ればスライムに掛けて喰う様な使い方は絶対にしない。しかしここでハジメはとあるふざけた考えを思い付いた。
「ちょっと思い付いた事が有るんだけど、今からガルフの所に行かないか?」
「おう、今日は3人か!一体何の用だ?」
ハジメは防具職人であるガルフにその思い付きを伝えてみた。
「おい、本気で言っているのか?俺は防具職人だぞ」
「ああ、でも能力持ちでもある」
「俺の能力をそんな事の実験に使いたいのか!?」
「ああ、成功すれば調味料を買う金を節約出来るかもしれない」
「ふざけるな、職人の魂を簡単に切り売りする真似なんて出来るか!!」
「ガルフさんお願いします、ハジメに美味しい物を何時でも食べさせてあげたいんです」
ハジメを想うセシリアの願いをガルフは1度だけ聞き入れる事にした。そして2時間後・・・
「出来たぜ、同じ物をもう1度作れと言われても作る事の出来ない逸品がよ」
そう言いながらガルフがセシリアに手渡したのは小さな空瓶のセットだった。
「一見ガラスに見えるかも知れないが、それは裏ルートで手に入れたクリスタルワイバーンの皮膚を加工した物だから落としても決して割れない。透けて見えるから、中に何が入っているかもすぐに分かる筈だ」
「ガルフさん、無理を言ってすいませんでした」
「今回は特別だからな、こんな変な注文はこれきりにしてくれよ」
だが後日ガルフは再度セシリアからある物を作れないか相談を受ける事となる。
「上手くいくかどうか1度家に戻り手持ちの調味料を移し替えて試してみよう」
ガルフを連れて家に戻ったハジメ達は実験の成果を試す為にキッチンで1枚の肉を焼き始めた。
「では、使ってみますね」
セシリアが肉に振り掛けると移し替えた瓶の中身の調味料がわずかに減った、しかし次の瞬間瓶が白く光ると減った筈の中身が増えていた。
「どうやら成功みたいだ、調味料を移し替えてから【自己修復】を付与して貰えば幾ら使っても調味料が切れる事は無い」
そう、ハジメが試したのは無くならない調味料セットを作れるかどうかだったのだ。この実験の成功でハジメ達はセシリアが味付けしたモンスター料理を食べられる様になった。
「さて、そろそろ私も帰るとするかな」
実験を見届けたランが急に帰ると言い出した。
「なんだ、今晩も泊まるのかと思ったが違うのか?」
「そうしたい所だが、いつお母様がこちらの世界に来られるか分からないからな。早目に戻って出迎える準備をしておくとする。あとは・・・お母様のお仕置きを受ける覚悟を決める時間が欲しい」
ガクガクと震え出したラン、お仕置きが相当怖いらしい。
(明後日無事に生きていたらまた会おう)
ハジメとセシリアはランの無事を切に願った。その後ガルフと一緒に夜食を済ませ、御礼を受け取ったガルフが満足そうにしながら帰るのを見送ると2人は久しぶりに恋人同士の時間を楽しむ事にした。
「たった数日しか居なかったのに、ランが加わるだけで随分と家の中が騒々しくなるものだな」
「そうですね、でも明後日の第2回の会議まで時間が有りますからそれまではハジメを独り占めしちゃいます」
「俺はセシリアをずっと独り占めしているけど、これからは一緒にモンスターを食べられる様にもなったし更に長くセシリアの顔を見つめている事が出来るよ」
「見つめているだけで満足なんですか、ハジメは?」
「そんな訳無いだろセシリア、もっと俺に夢中にさせたいから色々と試させて貰うよ。佳い声で啼かせてあげる」
その言葉通りハジメは媚薬効果を持つ2つの力を絶え間無く使ってセシリアが普段見せない牝の顔を強引に引きずり出した、そして夜が明ける頃には2人とも精根尽き果て昼過ぎに火柱が上がる轟音で目覚めるまで抱き合ったまま眠っていたのだった。
セシリアは能力の確認をしていなかったが町に戻る時にはLVが1から10に上がってメイン職業の専業主婦(仮)が怪物料理人に変わっており、そして・・・保有能力に【怪物美食家】が加わっていた。




