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日常怪異禄 あなたの隣に怪異を  作者: ま〜ち


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2 弓道部員と道場で起きた怪異について

 なあ、一緒にメシ食べようぜ。

 こっちの席、使うぞ。

 …そういえばさ、聞いてくれよ。昼、食べながらさ。

 あのさ、この間。


 ―不思議な経験、したんだ。


 あ、お前、信じてないだろ!本当なんだって!

 …おら、お前の好きなハンバーグもらうぞ。代わりに、うちの唐揚げをやるわ。あ、ちょ! お前ー普通、1つだけだろ! そこはさぁ。


 え? あー…不思議な経験?

 あ、そうそう。ほら俺たち、弓道部じゃん。部活が終わったら、拭き掃除したり、安土を整えたりするじゃん。道着姿で。あれさー袴が汚れないように掃除するの、最初は大変だったよなー。それでさ、その日も終わって家に帰ろうとして皆で帰っただろ?その時さ、俺、矢筒忘れたって言って道場に戻った時なんだけど。うちの道場って、ちょっと体育館から離れている場所にあるじゃん。それでさ、近くまで来た時に、安土に矢が刺さる音がするんよ。あれ?おかしいなーって思ってさ。だって道場内、真っ暗闇だしさ、人の気配なんて感じなかった。誰か暗がりの中、練習しているのかな? って最初は思ったんだ。だったら、明かりぐらい点ければ良いのにって思ったんだけど。でも考えたら、うちの道場って活動時間外になったら明かりを消して、帰ることが決まってるじゃん? もしかしたら学校には内緒で、俺たち部員にも秘密にしながら練習している人、いるのかなって思ったんだ。そんな中で、練習しているし、きっと集中してやってるだろうから、声出さずに静かに道場に入ろうと思ったんだ。邪魔にならないようにって思って。それで、入ってみるとさ。


 青白く光る人がいたんだ。

 

 本当だって! 俺も目の錯覚だと思ったんだけどさ。

 

 でも、違った。


 ちょうど、会をしているところだった。そして矢も光っててさ。その光の矢が弓で離れて安土に刺さったのな。


 サクッ、って音と同時に。


 ……今思えばなんだけどさ。時々、先輩達から怒られてたじゃん、俺ら。安土の整備がなってないって。安土に、矢の跡が残っているだろって。多分、犯人はこいつ。ていうか、絶対。え? どんな姿だったかって? そうだな…これ先生にも言ったんだけど。痩せてて、髪の毛は後ろに束ねてて、あとすっごく射が綺麗だった。まるでお手本見たいな感じ。ちょっと俺、羨ましいもん。あと多分、胸当てをしてたから、女子だったと思う。普通、道場はいるとさ、皆の顔が見えるような位置に出入口あるだろ? でもその青白く光る女子はさ。


 顔が、分からなかったんだよ。


 青白く光っているからってのも、あるだろうけど。本当に分からなかった。でも、目だけは分かった。目は俺たちと同じ黒色をしていたから。それで、俺が道場に入った瞬間、腰ぬかしちゃって。道場のドアのところで。変な汗出たなーマジで。本当に、喉から心臓が出るかと思った。どうしよう、とか、なにこれ? っていう思いもしなかった。ただ…ただ、怖かった。なにも、考えられなかった。射場にいたその…幽霊としようか…幽霊がさ、安土の方に向けてた顔をこっちに向けたんだよ。目が合った。確かに目が合ったんだ。でも…その目に敵意はなくてさ。なんとなく分かるじゃん。ほら、真剣にやってるとさ。なんとなくだけど。その目を見てたらさ、一気に怖さとか緊張とかが溶けるようになくなってきたんだ。なんか、なんていうのかな…こう、別に本当に弓道してるだけですって言う感じでさ。今まで回ってなかった頭が少しずつ回るようになってきてな。まず思ったのが、誰?この子って。そう思って幽霊をずっと見ていたらさ、射場から出る時の動作して一礼をした瞬間。


 霧のように消えたんだ。


 あ、夢だったのかなって。その時は思ったんだけど。矢筒も忘れて急いで道場を、出て帰った。どうやって、家に帰ったのか、誰と帰ったのか、覚えてないんだけど。気が付いたら、箸を持って夕飯の席にいたんだ…全然食べれなかったけど。その日、風呂に入っても、その道場での出来事が頭から離れなくてさ。それで、風呂の時に思ったんだけど、あの子っていったい誰だったのかなって。シンプルにそう思ったんだ。死んでも弓をやりたかったのかなって。なんか未練でもあるのかなって。もしかしたらだけどな。本当かどうかは分からないけど。でも、間違ってないと思うんだ。


 翌日になって、あの幽霊の事を誰かに聞いてみようと思ったんだけど、誰に聞いたら良いのか分からなくて。誰に聞いたら良いのか、電車の中で、ずっと考えてたんだ。うちの顧問である永田先生、いるじゃん? そうそう、ナガ先。そのナガ先にさ、とりあえず聞いてみようって思って、昼休みに職員室に聞きに行ったんだ。ほら、俺、職員室に行くからーって時、あったじゃん? その時な。


 先生、突拍子ないことを聞くんですけどって言うところから話してさ。事の顛末を説明したんだ。ちょっと、疲れている子なのかな? そう思われる覚悟で聞いたわけ。そしたら、なんか思っていた反応じゃなくてさ。最初、馬鹿にされるとか、否定されるって思ったんだけど。違った。話し終わったら、ナガ先がさ、上を向いて少し泣きそうな雰囲気になってんの。目元を揉んだり、鼻をすすったりしてさ。そんなナガ先、見たことなかったし想像してなかったから驚いちゃって、俺。え、どうしたのかな? って思ってたらさ、その幽霊の特徴を聞いてきんだ。

 

 身長は、これぐらいだったろ? とか。髪の毛は後ろに束ねてただろ?とか。射は、綺麗だったろう。とか弓返りの時、ちょっと弓の先端が前を向くだろとか。すべて当ててくるんだ。ナガ先、なにか知っているだ。どういう事なんだろう? そう思いながら答えていたらさ、周りの先生も少しずつ集まってきちゃって。周りにいる先生たちの声を少し聞いてみたらさ。ちょっと聞こえた声だと、多分あの子だ、とか。そうか。とかそんな声が聞こえてたんだ。


 周りの先生も、何か知っているみたいだったからさ。誰なんだろう?って思ってたんだけど。急に、ナガ先が「今日の部活は休みにする。1年の皆に伝えておいてくれ」って言われて、話は終わり。

 色々と分からないまま、俺は職員室を出たんだけど。出た瞬間に、先輩に呼び止められたんだ。「おい、道場で見たんだって?」って。ほら、田口先輩いるじゃん。3年の。何か、先輩もさ職員室にいたらしくて話が聞こえたらしいんだ。それで、先生は詳しいことは言わなかったと思うんだけどってところから始まって。


 「その青白い子、多分、弓削田だと思う」って言うんだ。


 その日、帰りコンビニの駐車場で先輩と待ち合わせしてさ。詳しい話を聞くことになったんだ。聞いた話だとな、その幽霊って言うのがさ弓削田さんって言って、今年の春に…俺たちが入学する時期ぐらいに亡くなったんだって。事故とかじゃなくて、病気で。なんていう病気だったか聞いたんだけど…なんだったけ…なんか筋肉が徐々に動かなくなる病気?みたいなこと言ってた。それでさ、その病気を発症しても筋トレとかしたら、症状が抑えられるっぽくて。だから、発症しても弓削田さんは弓道を辞めなかったんだって。それで、田口先輩たちが2年生の時にさ、県大会の決勝にいったことあるって、聞いたことあっただろ? その大会で3人立で落ちの場所が、弓削田さんだったんだって。弓削田さんがさ、最後の一矢を番えようとしたらさ、矢を落としちゃったんだって。多分、筋力が衰えていたからなのかもしれないって先輩が言ってた。でも、それは病気じゃなくても起こることだし。しょうがないことだった。そう言っててさ。だから、誰も弓削田を責めなかった。


 だけど。


 その日、弓削田さんはずっと泣いて皆に謝ってたって。


 先輩は…弓削田さんは叫んでいたって言ってた。大人しく声を殺して、泣くような感じじゃなくて。まるで…咆哮のようだったって。


 田口先輩が俺の話を聞いてさ、ナガ先と同じように泣きそうな顔をして言うんだ。「もしかしたら、あの一矢をやり直してるのかも」って。

 ずっと。もしくは次の大会の為に練習しているのかも。とも言ってたけど。


 よくナガ先がさ、一矢を大事にしろっていうけどさ、このことがあって言うのかもなって思うんだよ。後悔を残してほしくなくて、全力を持って臨んでほしくてさ。それで先輩たちは今年、全国に行ったし。県大会で勝った日さ、お前覚えてる? あの3年の先輩たち誰一人、喜んでなかったし、歓声もなかったよな。当時、これが弓道かーとかって思ったんだけど。そのことも次いでに田口先輩に聞いてみたんだけど。

 勝ったその日、その足で、弓削田さんの家に行ってご家族に報告しに行ったんだって。

 それで仏壇の前で、皆大泣きしたって。


 だからって訳じゃないんだけど。俺さ、頑張ろうかなって思うんだ。道場の中で、弓削田さんを見た時はさすがに、ビックリしたし、今までにないくらい動揺したけど。

 その話聞いたらさ、俺もやってやるって思うんだ。先輩たちが全国、いったからとかじゃなくてさ。なんだろうな。

 

 少しでも無念を晴らしてやりたい、そう思うんだ。弓削田さんの。一回だけじゃなくて。


 どうした? なんだよ。お前、泣くのかよ。


 なあ…唐突、なんだけど、さ。


 全国、行かないか。


 一緒に。

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