邪竜の花嫁(生贄)になりました
メルターリアは、かつて罪人たちの流刑地であるなにもない荒れ果てた土地だった。
けれど生き残った罪人たちが力を合わせて村を作り初めて、畑を耕し放牧を行って、段々と人が増えていき小さないながらも国となった。
そんなメルターリアのすぐ近くにある火山には、恐ろしい邪竜が住んでいる。
しかしメルターリアの人々は、この邪竜によって過酷な環境であっても生きていた。
というのも初代のメルターリア国王が、一年に一度若い娘を一人花嫁として邪竜に捧げることで、国を守護してもらう契約を交わしたからだ。
花嫁に選ばれることは国を守るための大切な役目であるため、とても名誉あることだと国の人間は幼い頃から教えられる。
だから花嫁に選ばれた娘の親族は、貴族であれ平民であれ喜んで自らの子どもを邪竜へと捧げるのだ。
逆らえば、自分たちが国の人間たちに殺されてしまうから。
そうして今年の春の初めに、新たな花嫁が選ばれた。
国王と男爵家の娘の間に生まれた、今年で十五となる第四王女が。
それが私――リグレーである。
ちなみに前世は日本人だった、異世界転生にちょっと憧れ持ってたライトなアニメオタクだ。
まあリアルな異世界転生はクソだったがな!!
この世界の古い言葉で名無しって意味の名前付けられる時点でアウトだけど、まともに面倒は見てくれないし、食事は世話係の気まぐれで一日一回与えられたら良い方って、ハードモードが過ぎるわ!
しかも、身内からもいらない子扱いされてるから成人である十五歳になったら邪竜の花嫁という名の、生贄にされるのが確定されているっていう生まれよ!
本当に、リアルはクソッ!! ファンタジーな世界なのに魔法も奇跡もあったもんじゃねー!!
「目的地に到着しました花嫁様」
内心で口汚くリアルに対する恨みつらみを語っていたら、乗っていた馬車が止まって護衛兼見張り役の騎士が馬車の扉を開けた。
ええ、そうです。現在邪竜の元へドナドナされている最中です。
頑張って逃げようとしたけど、他勢に無勢過ぎてあっさり捕まってドナドナされる日まで監禁。で、出荷日である今日が来てイマココ。
無駄な抵抗とは分かっているけれど素直に馬車から出るのは癪で、端っこに座って動かんぞという意志表示をしてみたけれど、扉を開けた騎士が中へと入ってきて私の腕を掴んで強い力で引っ張ってきた。
男女の差以前に、筋肉と体重が圧倒的に足りない私の力じゃ数秒も踏ん張ることはできず。
問答無用で馬車から降ろされた後、私をドナドナしてきた馬車と護衛兼見張り役の騎士は、踵を返してさっさと帰って行った。
完全に馬車も騎士の姿も見えなくなったから、その場にどさっと座り込んだ。
無駄に豪華な花嫁衣装のドレスが汚れるが気にしない。だって、邪竜に食われる時にはもっと酷い有様になるだろうし。
「……おなかすいた」
呟くと、それに呼応するかのように腹の虫がぐぅっと鳴いた。
元々あまりちゃんと食事は与えられなかったけれど、生贄として今いる邪竜の棲家である火山の麓に出荷されるまでの間も、最期の晩餐的な食事は与えられなかった。
辺りには雑草がちょろっと生えている程度で、食べられそうなものはない。
途中で通った森で何か食べ物をくれとお願いしても、誰もくれはしなかった。水だって城から出る前にコップいっぱい分飲ませてもらった程度。
……本当に、私が一体何をしたというのだ。
前世はただの平凡な社会人で、殺人とか強盗とかしたことのない一般市民だったのに。
今世のこの境遇はあんまりではなかろうか? っていうか、単に王様と男爵位の母さんとの間に生まれただけで、差別されて虐待受けるとかなんなん。
穢れた血とか言うけど、てめーらの先祖は何かしらの罪犯した元罪人ですけどぉ??
空腹が限界突破したせいか、奴等に対して段々怒りが湧いてきた。
ついでに過去、うちの初代国王と契約した邪竜にも。
「なんで邪竜のくせに人間と契約して人間守ってんの!? 邪竜なら邪竜らしく生贄貰った後、「お前ら人間の言うことなんか聞くかばーか」とか言って滅ぼせよ!! それでも邪竜か!? 邪悪なる存在かよ!?」
大きく息を吸って、腹の底から声を張り上げた。
いやほんと、邪竜って呼ばれてるくせに何人間と交わした契約に大人しく従ってやがんだよバァーカ!!
ぜぇぜぇと息を吐きつつ、ちょっとスッキリした気持ちで地面に座り込み溜息を吐く。
と、突然頭上からちょっと困ったような声が聞こえてきた。
『邪竜というのは人間が勝手に我に付けた名だが? というかそもそも、花嫁は一年に一回ではなく数十年に一回って言ったんじゃが。なのにどうして年に一回になった?? あと、我を勝手にやべえ奴扱いしないで。我困っちゃう』
「数十年に一回!? 変わりすぎでは!? つーか、悪者扱いされて困るんか……」
『本当にそう。そもそも花嫁とは言っているが、ガチのやつではなく単に話し相手になってくれる人が欲しかっただけなんじゃが……。まあ、怖がられて話にならんかったが』
「え、なにそれ可哀想……??」
途中まで普通に話して、ハッとする。
……ここにいるの私だけだよね? 馬車も騎士も帰っちゃったし。
じゃ、じゃあ、一体誰と私は話してるんだ……?
あとさ、今気がついたんだけどに私に覆いかぶさるようなこの大きな影は一体……。
ぐぎ、ぎ……と、錆びついた人形のように首を動かして上を見上げる。
ぎらりと輝く金色の二つの目と目が合った。
『やっほー。我、邪竜』
「ピッ」
ぐるりと世界が回ったと思ったら、目の前が真っ暗になった。




