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30:いつの間にこんなに?

「……ううっ。どうやら私の勘違いだったみたいです。お騒がせしちゃってすみませんでした……」


「いや。間違いは誰にでもあるし、気にしなくていいよ」


「うん、アレックスの言うとおり。わかってくれたなら、いい」


 銀髪の少女、セシリアがしゅんと肩を落として頭を下げている。

 登場時のハイテンションは何処へやらで、ちょっと気の毒なくらいだ。


 あのあと、ちょっとした押し問答の挙げ句、セシリアが「力天使(ヴァーチュース)かどうかは目を見れば分かります!」と主張したので、それじゃあとフィオナを説得して確かめてもらうことにした。

 だいぶ引き気味のフィオナにセシリアがぐいっと迫り、もう額がくっつくんじゃないかってくらいの至近距離で見つめ合うこと約3(タルジン)

 まるで蛇に睨まれた蛙のようになったフィオナが冷や汗を流し始めたとき、セシリアが絶望的な表情でがっくりと項垂れた。


「フィオナさんは今まで見たこともないくらいに大きな聖光の持ち主ですし、きっとこの人だって思ったんですけど。……残念です」


「さっきも言ってたけど、その聖光ってのは何?」


「それはですね、実は私、人の善し悪しを見分けることができるんですよ。善い人は白い聖光、悪い人は黒い邪気を纏っているんです。これは私の家に代々伝わる能天使(エクスシーア)の力の一つで、この力を使って悪を倒し、力天使(ヴァーチュース)を守護するのが一族の使命なんです。さっき倒した悪党が魔物みたいに消滅したのも、その能天使(エクスシーア)の力なんですよ。どうです、驚いたでしょ?」


「……へ? ああ、うん。すごく驚いた」


 そうだった、目の前で人が消えたんだからもっと驚かなきゃな。

 僕にとっては見慣れた光景だったから、うっかりスルーしちゃってたよ。


 それはそうと、やっぱりセシリアは、僕とは違う方法で人のカルマ値を見ることができるらしい。倒した悪人が消滅するところと言い、僕の持っている力に似ている。

 ……と言うことは、彼女も僕と同じように対悪人特化型スキルの持ち主なんだろうか? ちょっと聞いてみたい気もするけど、それでまたややこしい誤解を生むことになっても困るので止めておこう。


 さらにセシリアが話してくれたところによると、力天使(ヴァーチュース)と言うのは能天使(エクスシーア)よりももっと大きな力を持っていて、奇跡を起こすことができるらしい。

 ただし単純な戦闘能力では普通の人間と大差がないので、力天使(ヴァーチュース)が奇跡を行うのに必要な力を蓄積するまで守護するのが、能天使(エクスシーア)の役目なんだとか。


「ですけど、お母様のお祖母様のそのまたお祖母様の代から、力天使(ヴァーチュース)を見つけることができてないんですよ。私は探し始めてまだ2年くらいですから、やっぱりそんなにすぐ出会えるなんてことはないですよね。……あ、ところでこの話ですけど、他の人には内緒にしておいて下さいね。一応、機密事項なので、話すと命が危ない感じになります」


「だったらそんなに詳しく話さないでよ!?」


「……うん。迷惑」


 いや、そもそもどこまで本当の事なのかも分からないけどさ。



 ◇



 どうにかこうにかセシリアから解放され、僕たちがようやくアパートに帰り着たのは、もう完全に日が落ちたあとのことだった。

 普段からあまり口数の多くないフィオナだけど、その帰り道からさらに輪をかけて無口になっている。原因はやっぱり、さっきの男たちだろう。

 彼女にとっては話したくないことだろうけど、それでも聞いておかないとな。そう思って、でもどう切り出そうかと迷っていると、先に口を開いたのはフィオナの方だった。


「アレックス、ごめん。せっかく遠くに引っ越してくれたのに」


「と言うことは、さっきの男たちってやっぱり、アルテアの?」


 そう尋ねるとフィオナは力なく頷いて、小さくまた「ごめん」と謝った。


「フィオナは何も悪くないよ。僕も不注意だったし、そもそもこの街に引っ越そうって決めたのも僕なんだしさ。それにあの男たちはセシリアが始末してくれたから、まだフィオナがここにいるって事は知られてない。大丈夫だよ」


「うん。……でも、また外に出られないと、アレックスの役に立てない」


「そんなことないよ。フィオナの治癒魔法には何度も助けられてる。今こうして何の不自由もなく右手が使えるのだって、フィオナのお陰なんだから」


 僕はフィオナに近付き、彼女が再生してくれた右手を見せて言う。

 それで彼女も少しだけ元気が出たようで、薄く微笑んで僕の右手を取り、ぐいっと胸に引き寄せた。


「アレックスがどんな怪我をしても、必ずわたしが治す。……でも、できれば大怪我はしないで。心配だから」


「……う。わ、分かった」


 む、胸。当たってるよ。むにゅって。すっごく柔らかいし、それに、これってけっこう大きい方なんじゃ?

 うわぁ…… フィオナ、いつの間にこんなに?




 ◇◆◇




 その翌日、僕は、アルテアにあったあの娼館が本当にこのランデルビアに移転してきているのかどうかを確認するために、一人で出かけることにした。

 あの娼館がそっくりそのまま移って来ているのか、それとも昨日の男たちだけがたまたまこの街にいたのか、それで状況がかなり違ってくるからね。

 だからフィオナには悪いけど、今日は部屋で留守番だ。そう伝えると寂しそうにしていたけれど、彼女を危険に晒すわけにはいかない。


 探す方法はいたって単純。色街に続く大通りを見張って、カルマ値がマイナス1000を下回っている男を見つけ、その後を尾行する。

 本当にこの街にあの娼館があるのなら、この方法を何度か繰り返せば必ず辿り着くはずだ。

 そして、もしそれを見つけてしまったなら、僕たちはもう一度引越しを考えなきゃいけなくなるだろう。


「逆に、腰を落ち着けちゃってからこんな事にならなくて良かったよな」


 今ならまだ荷物も少ないし、お金にも余裕がある。仕事だって探してもいないし、この街に愛着もない。

 もしまた街を出なきゃいけなくなるなら、今のうち、早い方がいい。


 そんなことを考えながら、人の流れを見続けること数時間(ジーン)。お昼をかなり回った頃に、ようやく一人目の大悪人を見つけた。カルマ値マイナス1270、なかなかの数値だ。

 だけどぱっと見にはとてもそんな悪人には見えず、裕福そうな身形で、普通の人間を装っているところなんかもポイントが高い。


「よし、行ってみよう」


 小さくそう呟いて、僕は【隠密】を発動させた。




 しばらく尾行を続けると、その男は僕の狙い通りに、いかがわしい店の立ち並ぶ色街へと足を踏み入れていった。

 男は、派手で怪しげな看板を掲げた店や呼び込みの声にも足を止めることなく、迷いのない歩調で色街の奥へと進んで行く。

 そして一軒の建物の前で立ち止まると、その玄関先にいた二人の男と短く言葉を交わし、すぐに中へと招き入れられた。その建物には、何の看板も掲げられていない。


 アルテアの時と同じだ。やっぱり、アイツらもこの街に来ていたのか!


 僕は【隠密】を掛けたまま、その建物の近くの路地に身を潜めた。

 ここがあの娼館であることは、もうほぼ間違いない。またアイツらにフィオナが見つかってしまう前に、さっさとこの街を出て行くべきだろう。

 次の行先は南か、それとも西か……


「アレックスさん、でしたね? この建物に何かご用事ですか?」


「……っ!!」


 不意に後ろから声を掛けられて、僕は飛び上がった。

 急いで振り向くと、そこにいたのは昨日の銀髪少女セシリアと、鮮やかな赤い髪の……


「……な、なんでアルがこんなとこにいるのよ?」


 驚いたように大きく翠色の瞳を見開くメリッサだった。

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