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第51話 ようこそ異世界学校へ③


 ~ ゴイル ~


 ゲーム内に、時々現れる変な子供。

 ドレスを着たお転婆な子で、スカートを捲し上げて走り回ったり、木に登ったり、お弁当を横から取って行ったり、可愛らしくも困った子。

 笑顔がかわいい子で、学園のマスコットみたいなっていく。

 そう2周目でその子の正体が明らかになるのだ。


 女の子は、なんと隣国のお姫様なのだ。

 ユリナが反乱を起こす時に協力を仰ぐために接待としてお姫様を招待していた。

 ただ幼い女の子は社交界が退屈で、すぐ逃げ出してしまうのだ。


 そして、護衛兼お付きのバトラーと知り合いになる。


「まぁ、あの方はどちら様のかしら?」

「素敵な方ですね」

「どちらかの貴族なのでしょうか?」


 廊下で足を止め、中庭で佇むすらりと背の高い好青年に女学生たちは目を奪われていた。

 ゲーム内イラストとイメージの違う人たちばかりだったが、彼に対してはいい意味で裏切られた。


 褐色の肌、少しくせ毛で鋭い目つき。

 ナノと同じぐらい高身長だが、細マッチョ。

 ホットシータウンの高級仕立て屋でも用意できなさそうな綺麗なスーツに身をまとう姿は、ジャニーズでもイケメン枠に確実に入れるほどの美形なのだ。


 何となく周囲の女子たちの視線に怯えながら、中庭に入っていく。

「トヨコか。ロラが迷惑をかける」

「はは、みんな気にしていいないよ」

 彼の淡々としながらも、その低く美しい声に思わずクラっとしてしまう。


 隠しキャラ、ゴイル。


 彼と仲良くなるには、お姫様のロラの出現にすべて遭遇すること。そして、かくれんぼで遊ぶミニゲームが始まるのだが、それをタイム内に見つけることが必須となる。

 もちろん豊子は出現を見逃さなかったし、何周もしてどこに隠れているかなど完璧に覚えていた。


「いつも大変ですね、あんなに元気なお姫様を追いかけるのは大変じゃないですか?」

「そんなことはない」

「そうですか」


 そしてゴイルは口を閉ざした。

 この世界に来てゲームとは違う箇所が沢山あったが、ゴイルとロラが間違いなくトップクラスに性格が違う。


 ロラはお転婆だが、今見ているように野猿が真っ青で逃げ出すほど野性味あふれる動き回り方はしていなかった。

 ゴイルもそうだ。どちらかと言えば美形だがすぐ女子に話しかけるチャラ男で、気安く接することができるタイプの男子だったはずなのに・・・


「女子たちに注目されていますよ。少しはファンサービスした方がいいじゃないですか?」

「興味がない」

「そうなんですか」


 そして押し黙り、ロラを見つめ始めた。

 そう、無口キャラなのだ。

 ただでさえこのゲームは陰キャ無口キャラが多く、唯一ぐいぐいキャラが隠しキャラだったってのに、これでどいつもこいつも喋んなくなったわけだ。


 いいもん!

 こっちから話しかけてやる!


「今日もいい天気ですね」

 鉄板の天気の話から切り込んでいく。


 そういえばここら辺は雨が降らない地方ですねぇ

 へぇ、ユリナ校長に会いに来てるんですかぁ

 予定はロラ様が決めるんだぁ、大変ですねぇ


 なかなか心無い会話を続ける。

 案外とそれでも男子は喜んでくれるみたいだから不思議なものだ。


「ロラの行動は、不思議と何かしら周囲を好転させる力がある」

 さ迷う話題の中で、どこでどうなったかそういう話題に行きついた。

「それ、わかります。ユリナ校長、ロラ様と仲がいいことが知れ渡って、なんかいい感じなんですよぉ~」


 ユリナ校長の校則はかなり厳しい。

 平民、貴族などの地位による格差は校内には持ち込ませない。

 平民、貴族であろうと授業後の掃除はきっちりとしなければいけない。

 平民、貴族、男女関係なく実力主義。


 平民と貴族を同等にするというのは、いくらなんでも無理がある。

 実際多くの貴族が魔法学園を去り、そして支援打ち切りにあっている。

 この学園が成り立っているのは、伯爵夫人であること、そしてモリオウ領がしっかりとした経済的な自立をしているからに違いない。


「そりゃもう、沢山異名があるんですよぉ」


 折れない鉄の女ユリナ。

 悪役令嬢ユリナ。

 世の理に反する女ユリナ。

 嫌われ者ユリナ。


 そんな風に恐れ、嫌われ、避けられていた。

 それを変えたのが、ロラだった。


「ユリナ!」

 木に登っていたロラが、ユリナを見つけると飛び降りて彼女に抱き着く。

 まだ子供とは言え落ちてきた子供を、ユリナはふわりと抱き留めることができた。


 子供を抱くユリナ。

 その姿は、思い描く理想の母親のような、優しく美しい姿だった。

 学生たちはその姿に目を奪われてしまう。

 親元を離れ、ある者は二度と帰ることのできない故郷の母親の姿をそこに見る。


厳しい校則も、平民や貴族を対等に見る姿勢も、馬鹿じゃなければ愛を持って接しているからこそだって、気が付くものだ。

 今では「母親を守らなければいけない!」なんて感覚が芽生えているぐらいだ。


「そんな風になったのも、ロラ様が愛らしくて、みんなが大好きになっちゃったからですよ」


 彼は嬉しそうに微笑んだ。

「ロラはそういう力がある。わかってもらえるのは嬉しいな」


 心がふぁぁっとなりながら、何となく赤面する。

 隠しキャラ故に、ゴイルのキャラはパッとしなかった。多分だが根暗キャラばっかりだからナンパなキャラ追加してって言われて慌てて追加したかのような、荒さがあった。

 だけど実際に話してみると、そっか、お姫様のことを本当に大切に思ってるキャラなんだなと、知ることができた。


 そんなことをぼんやり思っていると、中庭に見覚えのある人物が入ってきた。

「あ、オッサン」

「ん? やぁ、どんな感じ?」

 世界を救った英雄、豊子の金銭的、政治的バックの森往司が相変わらず薄っぺらい笑みを浮かべて近づいてくる。


「え?」


 急にゴイルが、豊子を抱きしめた。

 そして、そのまま後ろに下がる。


「父の敵!」

 言葉通り、弾丸のようにロラが長いナイフを片手に司に突撃した。

 司は笑顔のまま剣を抜き、それを軽々と受け流した。

「うりゃ! うりゃ!」

 剣と剣がぶつかり合い、本当に火花が飛び散っている。

 アランとビターの模擬戦を近くて見ていたが、そんなレベルではない。

 本当に、殺し合いをしている勢いだ。


「下がれ、危険だ」

「は、はい」

 ゴイルに抱きしめられているが、殺し合いを前に、ただ恐ろしく震えることしかできない。


 ロラは、自分の身長より高く飛び上がる。

 すると、背中から羽が生えてきた。

 落下するように剣を司に落としていく。


「友達ができた!」

 司は受け流さず、身をかわしロラの腹を殴りつけ遠くに飛ばした。

 ロラはダメージもなさそうに空中で体勢を整える。

 幼い子の体は、ゆっくりと黒く染まっていく。

 最後に、頭の左右に巨大な角が現れた。

「いっぱいできた! いっぱい!」

 脚力だけでも人間を上回っているのに、羽が生えることにより浮遊感が生まれ更に捉えにくい動きで司に迫った。

 それでも司は軽々とロラの攻撃を受け流してしまう。


「ま、魔族・・・?」


 豊子は驚きの声が漏れてしまう。

 ゲームには存在しないはずの異種族。

 妖精などは見たことあるが、エルフやドワーフのような、風で消えてしまわない種族は初めて見た。


「いっぱいいたのに! みんな死んだ!」


 ロラは笑顔でそんなことを叫んだ。


「いっぱいいっぱい考えたのに! うまくいかなかった!」


 司は苦しそうな表情を浮かべ、彼女の腕を掴んだ。

「どうする? ゴイルに任せて、うちにくる?」

 ロラは頭突きをしようとするが、司はそれも避ける。

 だがその隙をつき、腕を払う。


「私がいないと! もっと死ぬ!」


 地面を踏みしめた、最高の一撃。

 司はそれを、受け流すことができず、剣で受け止める。


「もっと! もっともっともっと! 戦う! そうしたら!」

「死ななくなる」

「んっ!」


 司に蹴飛ばされる幼子、だがその顔は笑顔に溢れていた。

 そして再び司に剣を向け突撃していった。


「・・・ダメだ」

 抱きしめるゴイルが呟いた。

「場所が悪い。狭すぎる」


 確かに、木々が植えられているほどの広い中庭ではあるが、羽と尻尾が生えているロラの戦い方に対しては、あまりに狭すぎる。

 それに中庭には生徒もいる。


「・・・」


 ゴイルは、豊子を見た。

 豊子はよくわからず見返す。

 彼は目を閉じ、豊子を離し後ろに下がらせた。


「残念だ、トヨコ」


 そう言うと、彼の体はみるみる巨大化していく。

 肌は、暗く染まっていく。

「ひぃ!? ま、魔族だ!」

「魔族が学園に入り込んでいる!!」

 生徒たちの悲鳴が上がった。

 魔族と言えば、ほんの数年前、この国を滅ぼしかけた種族。

魔族に家族や友人を殺された人も、この学園には多くいる。


 ゴイルは、その長い手を伸ばし、ロラを捕まえた。

「ゴイル! なに!?」

「ロラ、ここでは元の姿にならない約束だ」

 抱きかかえられながら周囲を見渡すと、学生たちは青い顔をしながら逃げ出していく。

 彼女は剣を収め、ん、と言って大人しくなった。


 ゴイルに対し黄色い声を上げていた女学生たちも、姿の変わったゴイルを前に悲鳴を上げて逃げていく。

 当たり前、実に当然の結果なのだが・・・


 豊子は熱に浮かされたようにゴイルに近づいた。


 まるでギリシャ彫刻の美しく均等の取れた筋肉。

 大きくなったからと言って顔かたちが変わったわけではなく、美しいまま。


 彼の綺麗に割れた腹筋に触れる。

 思ったより熱く、柔らかい。

 豊子は、さすがに自分の性癖にちょっと引いた。


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