第50話 ようこそ異世界学校へ②
~ ジーク ~
ジークは先々代の王の血を引いている、かもしれない人物だ。
ゲームでのユリナはジークを反乱軍の頭首に置き、国を乗っ取る計画を立てていた。
王を打倒したのち、ユリナはジークと結婚して王妃となる。
ジークを攻略するには、まず姉であるアンナと仲良くならなければいけない。
主人公とアンナ、そしてジークの三人で遊びに行ったり食事を一緒にしたり、そんなことを続けて好感度を上げていく。
一周目、ジークは反乱軍と共に国と戦うことになる。
バットエンドなら反乱が成功し、ユリナと結婚する。
ノーマルで反乱は失敗、主人公とアンナとジークは国外逃亡し、静かに暮らすのだ。
二周目で、アンナと協力してユリナと戦う選択肢が解放される。
主人公とアンナは、反乱軍の中に忍び込みジークに近づくと、
「めっ!」
姉の一言で反乱軍を抜ける決意をする。
それから「カッコ悪い姿ばかり見せられない」と、ジークは反乱を止めるために密告しようとするも、ユリナがいち早く気が付きジークを止めようとする。
しかし、両親が殺され孤児となりストリートチルドレンとして経験が生きる。多くのストリートチルドレンがジークやアンナを救い、王に危機を知らせることができた。
反乱は事前に止められ、ジークは褒美として大金を手に入れ、孤児院を作り仲間たちと、そして主人公と暮らすのだ。
「ユリナ、完全にオッサンに首ったけだよね。どうすんの、これ」
そう、ジークストーリーは、ユリナががっつりと関わってくる。
反乱の、はの字もない。
戦後の帝国を支える英雄伯爵夫婦は国に知れわたっているぐらいだ。
しかも・・・
「姉さん、いちいち学校に来ないでいいよ」
「えーっ! お姉ちゃん寂しいよぉ」
「いいから、少しは彼氏とか作れよ」
「神様が彼氏なの!」
「そんなんだから!」
遊びに来るアンナを、ジークは恥ずかしそうに追い返そうとするのだ。
そう、ジークは姉離れ中なのだ。
「つまり、これって普通に男の子ナンパしろって話だよね」
今までは攻略方法を知っていたから、恥ずかしいのを我慢して近寄ることができた。
自分はただのオタク、友達のBL本に惹かれながらも「ここを踏み越えたら堕ちる! どこまでも!」という恐怖心を持っている、中学の頃は男子と話もしたこともない、ごくごく普通のオタクでしかない。
学校に来ていた姉を追い払うジークは、呆然と見ていた豊子に気が付く。
「なんだよ」
不機嫌そうな口調に、オタクは心から震える。
「もっとお姉さんを大事にした方がいいじゃない?」
睨みつけられ、この場から逃げ出したくなる。
アニメや漫画のように赤くなったり頭から煙が出たりなんてしない。
ジークは、ごく普通の男の子だ。
「大事にしてんだよ。このままじゃ姉さんは行き遅れになる」
不機嫌そうな口調ではあるが、そこには優しさがあった。
「苦労してんだ、結婚して、幸せになってほしいんだよ」
恥ずかしいことを言ったと思ったのだろう、足早にその場から離れていく。
その背中を見ながら、震える足を思いっきり叩いた。
「ジークがいい子なのは誰よりも知ってる!」
震える心に叱咤する。
「オタク舐めんな!」
少女漫画、アニメ、お人形遊び、乙女ゲー。
そう、オタクとは百戦錬磨の恋愛マスターなのだ!
「ジークくん! 待ってよ!」
覚悟を決め、彼の背を追いかけた。
~ ロッソ・センネル ~
ロッソもまた、ゲームとは大きく変わってしまった人物だ。
夫を亡くしながら山賊を倒し、隣国の侵略を食い止めた女傑メリオ・センネル。
しかし政治にはとんと疎かったらしく、ユリナの陰謀に利用され殺されてしまう。
ロッソは母の死の秘密を探りに魔法学校へと入学する物語。
なのだが・・・困ったことにメリオは生きている。
ホットシータウンを探る内に、反乱軍の影を見つけるのだが・・・
彼は街をさ迷う中で、反乱軍を見つけられるわけもなく、
ただ日に日に気落ちしていくばかりだ。
今日も町を散策していたロッソが、ぼんやりとベンチに腰掛け行きかう人々を眺めていた。
豊子は、彼の隣に座った。
もういつものことなので、彼は何も言わず豊子を受け入れた。
「いい街だ」
「うん」
「いい街も、沢山ある。金をかけているからいい街。領主が市民に愛されるいい街。ホットシータウンは、その両方備わってる。理想の街だ」
わかる気がした。
ゲームのイラストのマップとほぼほぼ同じ。イラストなのだから理想郷を描くもの、それと同じということがどれだけすごいことなのか・・・正直豊子にはよくわからない。
「英雄ツカサ。カッコいいよな」
あのオッサンが?
喉元まで出てきた言葉を飲み込んだ。
「10人の英雄。9人になり、魔王の居城へと向かった。そして3人だけ帰ってくる。ただの英雄譚じゃない、犠牲の伴う本当の英雄譚だ! そして1人だけ伯爵となり、この町を作った」
彼は、まるで子供のようにはしゃぎオッサンを褒め称えた。
いやいや、あの腹黒オッサン、裏では相当えげつないことをしているに違いない。
「そういえばトヨコはツカサと仲が良かったな」
「え、ええ、その、はい」
歯切れの悪い口調に、彼は少し嬉しそうに笑った。
「とんでもない悪党なんだろ?」
「いや! いい人です! はい!」
ロッソは子供のように笑った。
「とんでもない悪党さ! 母さんが言ってたんだ、善人は何もなしえないってね」
鬼だとか悪魔だとか言われているけど、母さんは僕の誇りなんだ!
僕たちを守るために剣を持ち、戦士たちに檄を飛ばして戦争に向かったんだ。怪我をしながらも笑顔で帰ってきた母さんがカッコよくて、無力な自分が恥ずかしくて、小さくて・・・
だから僕は、母さんが誇りに思えるような男になることが目標なんだ!
豊子は何となく気恥ずかしくなった。
海外の人って、なんかマザコンがカッコよく見えるのはなんでだろ?
「母さんは、負けだんだ」
彼は、とうとう口にした。
「どうってことはない、まだ小娘に負けたんだ。当たり前だ、アリア派なんて、ただのゴロツキの集まりだ。そんな連中の仲間だってことが間違ってんだ」
そうさ、わかってる。
わかってるさ。
そう言って、彼は頭を抱えた。
主人公なら何て答えるだろう?
あたしなら・・・なんて答えるだろう?
「・・・」
何か問われたわけじゃなし、答える必要なんてない。
それが、あたし自信が出した答えだ。
ただ彼が、心の整理がつくまで隣に座り続けた。




