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第49話 ようこそ異世界学校へ①


~ アラン・スノー ~


 木刀同士の疑似戦。

 紙村豊子はただの模擬戦だと分かっているのに、びくりと震えてしまう。

 アラン・スノーと、ドラゴン騎士団に所属する貴族の父親を持つ青年ビターと模擬戦という名の決闘だ。

「ぃたぃ」

 アランは木刀で腕を叩かれ、豊子の方が痛いと声を出してしまう。

 ゲーム内では真剣で戦っていたが、もしそんなことになれば豊子は失神してしまっていただろう。


 ビターは強かった。


 彼は騎士の従者として腕を磨いており、命令により魔法を学びに来た青年だ。もちろん卒業後は、騎士として向かい入れられる。

 従者の経験がなく、騎士としていきなりなったアランに対し馬鹿にする。

「親の七光りで騎士団に入り、すぐ騎士になれるのは楽でいいな。騎士団とは名ばかり、ならず者の集まりでしかないというわけだな、精霊騎士団は」

 その言葉に激高し、アランは模擬戦を申し込んだのだ。


 しかし、それは罠だ。


 ユリナに命令され、フェチネア・マーロがビターを誘惑し戦わせるよう仕向けたのだ。

 二人の騎士団員、どちらが強く結婚するのに相応しいか調べるために。


 そして、アランは敗北する。


 アランもまた迷っていたのだ。

 従者ではなくいきなり騎士になれたこと、そして山賊のような精霊騎士団はならず者の集まりなのではないかという迷いが、剣を鈍らせてしまうのだ。


「ひゃぅ・・・」

 豊子は震える。

 木と木がぶつかり合う音に、そしてアランきゅんが血を流し倒れてしまうことを知っている。

 そんな彼を介抱することにより好感度を上げていくのだ。


「がん、ばってっ!」

 声は届かない。

 負けることも知っている。

 それでも、応援せずにはいられなかった。


 すると彼は、振り返ると、こちらに微笑んだ。


 ビターは背を向けるアランに腹を立てたかのように奇声を上げ、襲い掛かる。


「精霊騎士団は誇り高き騎士団だよ。ビター、君は弱いから従者から学ばなければいけないだけなのではないかい?」


 そう笑うと、木刀をそのまま受け流し、地面に突き刺す。

 それをアランは踏みつけ、木刀でぺんぺんとビターの頬を叩いた。


「貴様っ! 侮辱するか!」


 流れが変わった。

 アランはビターの怒涛の攻撃を涼しい顔で受け流し、ぺしぺしと木刀を当てていく。

「大振りすぎる。避けられたときに反撃を食らうよ。ああ、その足取りはいけない、自分の足を切ってしまうよ。ほら肩だ、相手の肩を見て行動しなさい。よし、いいぞ、そうフェイントを忘れたらだめだ」

 まるで子供扱いだ。

 ビターの剣は何度も空を切り、遂には足がもつれ始めた。

 それに比べ、アランは涼しい顔でアランの剣を避け続ける。


「頑張ってください! ビター様!」


 倒れそうになるビターに声援を送るのは、フェチネア・マーロだ。

 彼女はゲームと違い、ビターと本当に交際しているという噂を聞いていた。ゲーム内でも「ユリナさえいなければ本当に恋人になれそうだったのに!」みたいな感じだったので、なんかちょっと嬉しい豊子。


「クソっ! 負けられねぇ・・・」

 足ががくがくなのに立ち上がろうとするビターに、アランは容赦なく蹴飛ばして倒れさせる。

「悪いね、僕も負けられない理由があるんだ」

 アランは木刀を突きつけ、ビターはもはやこれまでと「参った」と口にした。

 周りを取り囲んでいた生徒たちが勝者のアランにおしみない拍手を送った。


 そしてアランは、豊子の前に立つと、剣を収めて膝をついた。


「あなたにこの勝利を捧げる」


 二周目!?


 このゲームは、二周目になるとストーリーが変わる。

 一周目は今一つ物足りないノーマルエンド。

 二周目に関係性、キャラクター性を理解したうえでのグッドエンドに変わる。

 むしろ二周目からが本番だぞこのヤロー! というように上がってくる。

 乙女ゲーの割に攻略対象が少ないのも、バッドエンド合わせてエンディングが3つも用意されていたら、それは少なくなる。


「つよいね、アランくん」

 自然と涙が出ていた。

 ゲームでも嬉しくて涙を流すのだが、もうそんなの吹っ飛んで普通に涙が出てきた。

 美形のナイトが膝をついて公開告白のようなものをされてみてよ、普通に涙が出てくるから。



 ~ ナノ・ナイスマン ~


 泣きそうな表情の妖精が、豊子に知らせてくれる。

 妖精たちに導かれ、温室へと中に入る。

 背の高い先輩が、無表情で植物の手入れをしている。

 整った顔なのは間違いなくナノなのだが、無口な男というのは、すごく怖い。

 今まさに、人殺しの準備をしている男を前にすれば、なおさらだ。


 ナノ・ナイスマンはユリナにそそのかされ、毒物を作らされている。

 むろん敵対する貴族を暗殺するための毒を作らせるためだ。

 彼の両親、一族は魔法が扱えるが故に差別され、森の中で暮らしていた。その憎しみ、絶望をユリナに利用されるのだが・・・


「それは、トリカブトですね」

「よく、知っているね」

 ゲームの主人公はTVのニュースでトリカブトのことを知ったとなっているが、豊子はこのゲームでトリカブトを知った。

 ナノは無表情のまま手入れを続けている。


「・・・君の僕の気持ちは理解できない」


 この世界に諸悪の根源であるユリナは存在しない。

 ならどうして毒薬を作ってるの?


 豊子は息を吐きながら考える。


 一周目はユリウス王を毒殺するユリナだったが、陰謀が暴かれ追い詰められ、毒を飲み自殺する。ナノは乱れる国を見て主人公に毒を作ったことを告白し、彼もまた自殺する。

 二周目は、妖精の導きによりナノが毒を作っていることを知る。ユリナが権力を握れば家族が保護されると思っていたが、ユリナは口封じにナノの家族を皆殺しにしようとしていたことがわかる。それを主人公と共に止め、家族の前でナノは主人公に告白する。


 テーマは、家族だ。


「毒で誰かを殺して、家族の人たちは喜ぶんですか」

 ナノは手を止める。

「僕一人が罪をかぶればいい。それだけで、ずっと、ずっと良くなる」

「あなたが罪を犯さなければ、もっともっと良くなる」

「だったらどうすればいい!」

 あ、男の人の大きな声怖い。

 震えだしそうな自分を叱咤しながら、くいっと顔を上げる。

「話してください」

 ナノは、少し戸惑いながら、どうせどうにもならないというように話し始めた。


 ナイスマン一族は森の守護者だ。

 差別を受け、忌み嫌われながらも森を守ってきた。

 だが、領主の貴族が政策の過ちにより飢饉と病が蔓延した。それをすべてナイスマン一家に押し付けたのだ。

 家族は村の人間たちに捕まり、あと数日で処刑される。


「僕たちは森を守ってきた! 僕たちを殺せば森は荒れ、更なる飢饉が起きる。どうせそれでみんな死ぬんだ。だったら、今ここでみんなを殺したところで問題ないだろ!」


 懺悔するように叫ぶナノを前に、今度は安堵した。

「ありがとう、教えてくれて」

 彼の手に触れる。

「すぐに助けに行きましょう」

 そうあたしには、権力、金、暴力! と三拍子そろった頼もしいバックが付いているのだ。




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