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「絵も描いていたよ。でも造形もやってた。ただ、紙工作ってなんか子供っぽいかなって。だから部活では絵の方にしたんだ。けれども、モンジは最初から造形だったよね。ぼくが白いボードを前にして何を描こうか考えてる合間に、モンジはどんどん手を動かして、どんどん組み立てて、どんどん紙のロボット作っていった。モンジって楽しそうに作ってんだよね。ロボットの表情がちょっと悪そうなときは悪そうな顔をしてるし、笑っているならモンジも笑ってる。それ見て、あ、ダメだって思った」
トイチは顔を満に真っ直ぐ向けて続けた。「モンジの作品は生きてるんだ。ぼくの作品は置物。そっちは生き物。だから、確かに使える予算も決まっている、作業に割ける時間も決まっている、問題解決策はベストじゃない。でも一部でいい、ベストでないけどベターな方法でモンジのモックアップを再現したいと思った。だからその折衷案が最小限の、外装部分をマーメイドの貼り付け加工なんだ」
「もしかして、褒められてる?」
「違うよ」友人だと思ってた男はあっさり否定しやがりました。
膨れる満に、トイチはぷくくっと、ひとりで可笑しそうに頬を緩ませ、「ただのぼくのワガママ。だから皆に頭を下げたんだ」
あ、そうですか。
「あのさ、モンジ」
「なんだいトイチさん」
「とどのつまり、ぼくたちは無い物ねだりだったんだ」
「しょうもないわな」満は苦笑した。「イラストと造形でモノは違うけど、対抗心ありまくりじゃん」
「まぁ、お互い褒め合うのは作り手同士じゃよろしくない。ぼくらは互いに遠慮なく相手の作品をけなすくらいでちょうどじゃないかな」
「それはそれで酷い気がする」
「モンジ、君の作品は最高だ! 素晴らしい! 君だけの世界だ! 今すぐ美術館展示のワールドツアーに出よう!」
「イヤミにしか聞こえないぞ」
「そうだよ」ケロッとした顔でトイチは続けた。「だから、相手の良いところ悪いところを忌憚なく云い合える仲でありたいと思う。例えば、このピンク・コング、追加した操縦席の内装は正直、弱い」
「うぐッ」早速きましたか。作った本人がいっとう分かっている。だから、「そう云う事は先に云えよ!」
しかしトイチは肩をすくめて笑った。「その甘さもモンジの今の実力かなと。そしてそれを作りながらダメ出ししなかったのは今のぼくの甘さ。けど、この造形のぬるさは全体として見た場合、浮いてるわけでないからアリかな、みたいな」
「結局どっちなんだ」指摘されたら直したくなるじゃないか。
トイチは両手を机に突き、図面を少し前屈みになりながら云った。「ぼくの方でもちょっといじってモックアップにない追加をしてるし、これはこれでいいんだと思う」
「でも?」
「直したいところがあるなら直そう」顔を上げたトイチは真っ直ぐ満を見つめて云った。「たとえそれが完璧でないとしても、締め切りまではあがこう」
「オッケィ」満は頷いた。「それでいこう」
トイチが笑った。満も笑い返した。イラストと造形、それぞれ表現手法は違えども、思いは一緒なのだ。
満はブリックパックで咽喉を潤す。いいものを作りたい。そしてみんなを驚かせたい。トイチとなら──作り手である以上、完璧は望めなくとも──きっと出来る。そう思った。
図面を前に、ふとトイチが云った。「四方田さんと云えば、大学生とデートするんだって?」
ぶーっと満は飲みかけのお茶を吹き出した。トイチは図面だのをテーブルクロス引きのごとくさっと一瞬でお茶の霧から護った。
濡れた口元を満は手の甲で拭い、「誰から訊いた?」
「お姉ちゃん思いの妹さんから」
ミチ子め。余計なことを。
「大学生ってどこで知り合ったのかな」
満はずずっとブリックパックの中身を吸い込み、「塾の個別学習? 夏季講習かな、」ペコッと側面を凹ませた。
「四方田さんって成績よくなかったんだ」
「ああ、下から数えたが早い」
「あのさ、モンジ。幼なじみなんだよね?」
「それが?」
トイチは、なにやら太い溜め息をつくと、「何気にひどいやつだ」
「えっ」
「モンジも似たようなものなのに」
「左様でございます」
「一緒に塾、行ったら?」
「すげぇコペルニクス的発想だなァッ!」
手の中のブリックパックを握り潰すところだった。しかしトイチは、「案外──、」遠くに澄ました瞳を投げて続けた。「自分から云い出したかもね、夏季講習」
その言葉が、自分の胸にずしりと重たくのしかかるのを感じ、満は驚いた。
いったい何だと云うんだ。
部活の合間も、帰宅途中もその後も、なにやら得体の知れない思いが悶々と居座った。夕食も、どうにもぼんやりしたままだった。風呂に入って身体を擦り、湯船に沈んでも洗い流されることはなかった。
ところが部屋に戻った瞬間、そんな気持ちはあっさりすっかり遥か遠くに飛び去った。




