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ピンク・コングの追加作業が決まった。美術室、トイチが部員を前にして、作業内容とスケジュールの説明をした。
外部装甲、ピンクに塗ったその上にマーメイド紙を貼り付けると云う。モックアップと同じように〈桜〉と〈桃〉の二色でメンテナンスハッチ、パネルラインの色分けを再現するのだ。最後に雨風対策としてつや消しクリアーのトップコート(表面保護)をスプレーする。
トイチは頭を下げ、作業が増えたことを詫びると共に、理解を求めた。部長以下、部員たちからの異論はなかった。そもそも、リーダーのトイチと満の二人でも充分間に合う。他の部員に手伝わせるのはその実、リーダーとしては手間が増えることに他ならない。それでも僅かなりとも部員たちをあえて制作に携えさせるのは、来年、再来年のこともあるが、美術部という部活動の一環であると云う認識を持つと云う狙いが在る──と、トイチは夏休み、作業の休憩時に満に語った。「どうしたって個人制作ばかりだから、ひとつくらい共同作品もいいかなって」
満は、そんなトイチにリーダーの資質というものを見た。
懸案だった資材購入の費用は、予算の追加申請を文化祭実行委員へ提出せずに済んだ。最終的な決定権は顧問にあると、トイチはまず、追加作業の内容とそれに掛かる経費、時間、その作業目的と意義をまとめて提出し、指示を仰ごうとした。しかし顧問の榊教諭は、「いいんでないの」軽く了承した。
「当初の予算枠を超える分ですが、」
「大丈夫だ」顧問は云った。「お前、口は堅いよな?」
力強く頷くトイチだったが、オマケで同伴してた満は「はぁ、」内容も聞かずに「勿論」などと云える程でなかった。が、顧問はうむ、と満足気に頷き、「こんなこともあろうかと」例年の余りを繰り越して上手く帳尻合わせしていたと語った。
「毎年同じ金額申請しても、工夫次第だろ。予算を超える場合は、超えない工夫するよう何度も考えさせる。諦めるヤツもいれば、上手くやりくりするヤツもいる。それどころか、学内探索して資材調達してくるヤツもいる。十勝の申請はかなり現実的だった。もちろんどこかにやりくりできる所はないか確認した。十勝はそれの妥当性と理由をきちんと説明できた。だから許可した」榊教諭は追加作業の企画書を指でなぞり、「本音を言えば、作りたいものがあるのに手も足も出ないで悔しい思いをさせたくないんだ。幸い昨年は低予算だったから今年に廻しても充分余裕だ」
そして顧問は、昨年の制作に二人が関わっていたことも加味し、「なので心配ない」
トイチの見積もった追加作業分の内容とスケジュールをパラパラ捲り、「目的」をじっくり読むと顔を上げ、満に「お前、いい友達、持ったなぁ」
職員室からの帰りがけ、「もしかしなくてもだけど、お店で先生に相談したのこの件だった?」満が問うと、うん、とトイチは頷いた。「どれだけの紙が必要か割り出して、まとめ買いで安くならないかなって。斤量下げてもいいんじゃないかって云われて、それで検討した」
「マメだなぁ」
「黙って分かってもらおうなんて虫がいいと思うから」でもまぁ、と友人は自分の頬をかきながら、「語るより、文字にするのは難しい」
確かに。満は同意する。例えば、読書感想文だとかの作文なんて、小学校の時分からどうやってマス目を埋めるかばかりの小手先技法を身に付けるばかりだった。同じ言葉なのに、音にして口から出すのと比べ、手から鉛筆を使って紙に落とし込むのはどんなに苦行か。
ああ、そうか。満は理解した。「だから美術部なんだ」
「百聞は一見に如かず」
「そうそう」絵でもモノでも、見れば分かるけど、それを言葉だけで分かってもらおうとするのは大変過ぎる。だったら作っちゃったほうが早いじゃん。だから、美術部なのだ。
開け放った窓から校庭を走る運動部の掛け声、吹奏楽部の不協和音がきこえる第二美術室での放課後。「A&Cファクトリー」に発注したマーメイド紙他、資材が届くまでの合間にトイチと満は追加作業の事前準備に入った。はたして、ペンキの上にマーメイド紙を貼るにはボンドでいいか(両面テープもありかな?)、紙の斤量は七六キロで充分か(一一〇キロじゃ高くつくからね?)、雨対策は充分か(クリア吹いても気休め程度かなぁ?)……。
とは云え、すでにトイチが先生の助言を元に、ひと通り制作手順を検証しているので、作業環境を整えると云った意味合いの方が強い。満はトイチの指示に従い、仮組みしてあったパーツの分解を行った。頭、胸、腰、上腕、前腕、大腿、下腿に手首足首。バックパックにロケットブースター、ウィング、アンテナ他各種装備類。上から見ればどこかの発掘現場の様だろう、標本のように教室の床一面に部品のひとつひとつ丁寧に並べた。
満は自分の作品がある程度形になってきたので、学校での作業を殆ど止めていた。道具や素材など一式抱えて家と学校を行き来するのは存外骨が折れる。登下校の合間で作品が破損する危険もないとは限らない。それを分かっているからトイチも遠慮なくウェルカム・モニュメント制作の手伝いを満に頼めるのだ。
「そいやさ」満は行った。「例の一年女子の当たり屋の件なんだけど、一組の女子で吉田サンって知ってる?」
巻き尺を持ったトイチは視線を宙に向け、「知ってるけど面識って程は、」
「去年、俺のクラスの委員長だったんだけど、その吉田サンがウワサの発端らしいって」




