抑えられない気持ち
運よく玄武王を訪ねて来た若様のおかげで、命を救われたあたしたち。
だけどなんだろう。
このモヤモヤする気持ち。
あの場にいても、
玄武王は、きっとあたしを殺ろすことはなかっただろう。
それに、
“泰子の…子なのか…”
あの人は、あたしの母を知ってる。
そう感じた。
「カンナ…」
玄武の城を出て、白虎に戻る途中、
低く呟くようにあたしを呼ぶ声。
誰が呼んだのか振り向かなくてもわかる。
「あっちで待ってるから…」
そう言ってヒナタは去って行った。
あたしは、振り向く前に、
懸命に笑顔を作った。
顔を見た瞬間、涙を流してしまわないように。
彼を心配させないように。
まだ、未練があると思われないように。
そう…。
若様のことなんて忘れかけてたよ…くらいの気持ちで再会するんだ。
くるっと振り返ると、視線が絡み合う。
半年ぶりに会えた愛しい人。
少し…痩せた?
「若様…久しぶり…だね…。元気だった?」
そう尋ねると彼は静かにコクリと頷いた。
懐かしい二人の空気。
瞳の奥にじわっと熱いものを感じてぐっとこらえた。
少しでも気を緩めたら、
涙が溢れてしまいそうで。
「今、どこで暮してる」
「ヒナタの実家で…」
「そうか…」
途切れ途切れの会話。
盛り上がる話しも…ない。
だけど、
もう少し…一緒にいたい。
「私だけか?」
「えっ?」
「こんな気持ちでいるのは…」
じっと彼を見つめていたら、
あたしの左頬に
スーッと触れた大きな手。
「カンナ…会いたかった…ずっと」
耐え続けてきた涙腺は限界を超えて
ポタポタ勝手に溢れてくる。
あたしは思わず若様の手に、両手を重ねた。
「あたしも、会いたくて会いたくて仕方なかった」
もう、限界なんてとっくに超えてたんだ。
若様の指があたしの涙を拭って、
そして、優しく包み込むように抱きしめてくる。
「だったら…戻ってこい」
「えっ?」
でも…。
そばに…置きたくない…って。
「元の世界に返せば、お前を守ったことになると思っていた。だが…それは間違いだったことに気づいたんだ」
「若様…」
「そばにいろ。もう二度と離れずに…。命に変えても、私がお前を守る」
ほんとに?
ルリでもない。
誰でもない。
あたしが…。
そばにいることを許可してくれるの?
「若様…大好き…」
言葉はなく笑顔で返してくれた若様は、ゆっくりと唇を重ねてくる。
スーッと一度離れても、また彼を求めてしまうあたしに、若様は何度も答えてくれた。
若様のそばにいることを決断したあたしは、ヒナタを連れて宮殿に入った。
「お前に紹介したい者がいる」
宮殿につくなり、少し切ない表情でそう呟く若様。
紹介したい人?
誰?
部屋に案内され扉を開けると
そこにいたのは、
「シュン?」
若様はあたしを見下ろすと、優しく頭を撫でる。
「お前の…兄だ」
えっ?
兄? 何を言ってるの?
驚いてシュンに視線を移すと、
シュンは穏やかに微笑んでる。
若様はあたしを部屋に入れると、
その場を去って行った。
「カンナ…」
「ほんとに? ほんとにシュンがあたしのお兄ちゃんなの?」
“同じ名前…。妹も…カンナって言うだ…”
シュンの言葉を思い出してハッとする。
なら、あのとき話してた“カンナ”は、あたしの…こと。
「両親と一緒に死んだと思ってた。まさか…別の世界に行ってたなんて…」
頭の思考回路がついていかない。
あたしに…お兄ちゃんが…。
「15年間、凄い辛かった。自分だけが生き延びた罪悪感もあったんだ。だから…カンナが生きててほんとに嬉しい」
自分だけが生き延びたって…
じゃぁ…
「シュンは…15年前…どこに…」
顔色を伺いながら尋ねると、
シュンは瞳を閉じ深いため息を吐いた。
「あの日…父上と会ってたんだ…」
えっ?
父上?
どういうこと?
だって、お父さんは白虎城で死んだんじゃ…。
「俺は…白虎王の子じゃない」
「えっ?」
「母上は、俺の父上から逃げて白虎王と再婚したんだ…。でも腹にはすでに俺がいた」
本当のお父さんと会ってる間に…白虎城は落とされてしまって、家族が全員死んでしまった。
シュンの言う罪悪感って…そう言うこと…?
「でもカンナは白虎王の子だ。お前が産まれたとき、俺は12歳だった。だから今でもカンナが産まれたときのことをはっきり覚えてるよ」
「なら、あたしはどうして魔力が使えないの?」
そう質問すると、
小さく首を横に振ったシュン。
「わからないんだ。俺も使えない」
「えっ?」
「医者は病だと…。でも生まれて一度も使えた記憶がない」
シュンも…魔力が使えない?
「でも…とにかくカンナが生きてたこと。今はそれが何より嬉しい」
そう言って、シュンはあたしの頭をよしよしって撫でる。
シュンの笑顔にあたしも気持ちが穏やかになれて、
こんな優しい人がお兄ちゃんだったなんて嬉しく思う。
「今度、お母さんの話しゆっくり聞かせて…」
「あぁ」




