表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/82

さよならの前に

ザザっと砂を滑らすような音が、背後から聞こえて、


振り向くと、


あたしの後ろに立っていたキトは、


ボーっと一点を見つめながら、



「火葬して葬ってやれ…」



「かしこまりました」



そう一言、告げて去って行った。



その夜…あたしは


いつ…眠りについたのだろうか。





“カンナ…カンナ…”


遠くであたしを呼ぶ声。


その声は…



“…モア?”


“カンナ…もう泣かないで。あたいはさ、食べ物を盗んだあの日、処刑されて死ぬ運命だったんだ…でも、カンナが助けてくれた”



“モア…”



“あたいを助けてくれてありがとう。村を救ってくれてありがと。


ずっと一緒にいたかった。


でも、短い間だったけど、カンナとヒナタと、姉妹になれた気がして嬉しかったんだ。


だから…もう泣かないで?泣いちゃだめだよ?”




“いやだ…モア…戻ってきて”



“さよなら…カンナ…さよなら…”




またモアの夢を見た。


朝起きたら枕が濡れている。


そんな日が続いた。



「もう…早く帰りたい…」




モアが死んでから数日。


あたしとヒナタは何もやる気が起きなくて、部屋でぼーっとする日々を過ごしていた。



「モアもいなくなって、3日後にはカンナも消えるなんて…あたい、どうしよう」



ベッドの上で呟いてるヒナタ。


そんな中、コンコンとドアをノックする音と共に、扉が開く。



「若様がお呼びだ。大広間に」



シュンの言葉にあたしたちは、ベッドから起き上がると大広間に向かった。


数日ぶりに会ったモアのお父さんとキトは、げっそり痩せたようにも見える。



「今は、悲しんでいる場合じゃない」



そう呟いて、前に立つ若様に視線を向けたお父さん。


そうだ…。


この屋敷にいる人全員、やりとげなきゃいけないことがある。



あたしとヒナタは、コクリと小さく頷いた。



大広間に集められた全社員たち。


ぐるっとみんなを見回した若様は、ゆっくりと口を開く。



「決行は明後日だ」



その言葉を聞いても、驚いたり、動揺したりする人は誰一人としていない。


全員がまっすぐ若様を見つめる。



「我々の数はざっと五百。まともに向かって勝てる相手ではない」



はっきりそう言いきった若様の言葉に、社員たちは少しうつむいた。


たったの5百人…。


やっぱり、厳しい戦いなんだ。



「だが当然、戦略はある。シュン説明を…」



「はい…」



みんなの前に出たシュンは作戦を話し始めた。




「俺たちが勝てる可能性のある日は、あさってしかない。


あさっては、白虎で魔力大会が開かれる。


皆も知ってると思うが、4年に1度の大きな大会だ。


大会に備え、宮殿の警備も手薄になり、何よりリシル陛下も白虎の地へと移動する。


そこを狙うんだ。


陛下のいない宮殿を内側から攻め落とす」



シュンの話しにみんなコクコクと頷いていた。



「我々の目的はただ一つ。若様を皇帝にすることだ」



シュンのその言葉を最後に、組織の社員は全員、若様の前にひざまづいた。


いよいよ、戦いが始まる。


モア、一緒に戦おう。


あたしには、何ができるかな。


なんでもいいから、役に立ちたい。




話し合いが終わると、若様とキト、それにシュンとあたしたちは応接間に向かった。



テーブルの上に大きく広げられた紙。


そこに宮殿の配置を書くと若様たちに説明をした。



「結局、抜け道とかは調べられなかった」


そう言ったあたしに、



「いや、これだけわかれば十分だ」



久々に優しい笑顔をあたしに見せてくれた若様。


モアのことがあったせいか、

若様の笑顔には、だいぶ心が救われる。



「だが問題が一つある。大会が終わるのが14時…。宮殿を落とすには時間が無さ過ぎる」



そう呟いて、険しい表情を見せる若様。



「確かに…。陛下が宮殿に戻らぬよう、誰かが足止めをしなくては…」



キトもシュンも腕を組み眉間にシワを寄せていた。



陛下を足止め…?


宮殿に戻らないように…。


なら…。



「それ、あたしが…やるよ」



ボソッと答えると、何を言ってるんだ‼︎とでもいう表情であたしを見てくるみんな。



「宮殿に陛下が帰らなければいいんでしょ?なら、あたしが足止めしておく。あたしは、陛下と何度か話しをしたこともあるし、うまくやれると思う」



あたしは魔力が使えないし、だから、一緒に戦うことはできない。


でも、陛下を足止めすることなら、できる気がする。


あたしに、やらせてほしい。



「できるとは思えない」




「えっ…?ど…して?」



「お前が引き留め、その後宮殿に戻ったリシルは、捕われるのだぞ?」



好きだった蓮と顔が同じって話したから…。


だから若様は、あたしが陛下にためらってしまうと思っているの?



「それが、お前にできるか?」



蓮と顔が同じだからとか、そんな同情はもうしない。


あの人たちは、若様の人生をぐちゃぐちゃにした人。


若様のお母さんまで殺して皇帝になった。


その座を引きずり降ろしてやりたい。



「できるよ…。あたしもここにいるみんなと同じ。若様には絶対皇帝になってほしいから…大丈夫…組織の最後の仕事…ちゃんとやる」



鋭い眼差しであたしを見据えていた若様は、真剣な表情で、ゆっくりと首を縦に振った。



「わかった…なら頼んだぞ」



「うん…」



「ヒナタは白虎に残り、魔力大会に出場しろ」



「はい」



「そのあとは…カンナの見送りをしてやれ…」



「えっ?あっ…はい」




見送り…。


あっ…そうか…。


今月の13日はいざよい…。


あさっては、いざよいなんだ。



3日間、よく眠れなかった。


ついに、決戦の日。


そして、いざよいの日。


早朝、あたしが若様の部屋を訪ねたら、



「待っていたぞ」



あたしが来ることを悟っていたかのように、若様はゆっくりと椅子から立ち上がった。




「若様…元気でね…」



あたしがそう言うと、ただコクリと頷く。



「それに鏡も一緒に消えてしまうと思う。…お母様の形見なのに…ごめんなさい」



「今まで、ただ鏡にすがりついていただけだ。その鏡があれば皇帝になれると信じていた。だが、もう私に鏡は必要ない。自らの力で王位を奪う」



一つ未練なのは、若様が皇帝になった姿が見れないことかな…


どうしてよりによって、

今日がいざよいなんだろう…。



「今まで、ありがと…」



「礼はいらない」




「それにあたしね…すごく…幸せだったよ」



目を閉じると、1年の前のことが鮮明に浮かんでくる。


初めて若様に会ったときは、

殺されるかと思った。


なのにいきなりキスされて、


最低な男だって思った。


この組織に関わって、


一緒にいることが居心地いいと思えてきて、


そばにいることが当たり前のように感じていた。


若様の悲しい瞳に、


寂しそうな眼差しに、


どうしたらいいのかわからなかった。


笑顔を引き出したいって思ってた。


そして、その笑顔が見れたとき、

胸がドキドキ高鳴って、


いつの間にか、優しいその心に、

惹かれていた。



「この世界に来て、若様に出会えたこと…本当によかった」



最後ぐらい笑顔でいたいと微笑んだあたしに、


返してくれるかのように、若様も笑顔を返してくれた。


これで最後。


この人の顔を見るのも、


言葉を交わすのも…


これが最後。



「カンナ…」



「ん?」



頭上から呼ばれて若様を見上げると、ふいに重なってきた唇。


若様は、ぎゅっと力強くあたしの体を抱きしめた。


このキスがどういうキスなのかわからない。


若様が好きで仕方ないあたしに同情して、


最後の餞別をくれたのだろうか。



あたしがもう一度若様の唇に近づくと、何度も答えてくれたキス。



そして、すーっと離れていった体温に、ポタポタと涙がこぼれ落ちていく。



ありがと…若様。



「今日、リシルを引きとめる役目…頼んだぞ…」



「うん…」



「あっちへ戻っても元気で暮らせ」



「うん」



あたしは、部屋を出ると廊下を全力で走った。


もう何も考えたくないから。


ただひたすら走った。


自分の部屋までたどり着いて、


走る足を止めると、その場に崩れ落ちていく体。



「…うぅっ…」



片手で口元を強く押さえながら、

声を殺して思いっきり泣いた。






カイリside



平常心を装い、カンナを見送った。


なのに、心外にも溢れてくる涙。


もし、私が皇太子でなければ、


もし、お前が白虎の皇女でなければ、


私たちは、ずっと寄り添うことができたであろうか。


お前を手放すこと、私が喜んでしたと思わないでくれ。


簡単に決めたと思うな。


明日から、もうお前に会うことができないと思うと、胸が苦しくて辛い。


カンナ…


私は、お前を生涯愛し続ける。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ