侵入捜査
その日の夕刻。
流白村の男性たちが村を後にするのに連れて
あたしたち3人も、金融の組織へと出発した。
鏡のことを考えると、組織までのこの長い道のりも、前向き進んでいける。
白虎族の足に遅れをとらないように、あたしは終始小走りでそのあとに着いて行った。
何時間か歩いてようやく組織へたどり着くと、
「待っていたぞ」
意外にも、
あのキス男自ら、
流白村の人たちを迎え入れに表へ出てくる。
流白村の村長は、男の前へ出ると深々と頭を下げていた。
「どうか…村を助けていただきたい」
「これは条約だ。互いに不利はない」
「ありがとう…ございます」
村長と男のその会話を、
ただ横で聞いていたあたし。
流白村の人たちは、
数人の組織の人の案内で、次々に屋敷の中へと入っていった。
その姿を見送りながら、
チラッとあたしたち三人に視線を向けたキス男は、
「わざわざ送りにきたのか、ご苦労だったな」
そう呟いて屋敷の中へと入っていく。
「あ、あの…すみません…」
その後ろ姿を呼び止めると、
キス男は顔だけあたしたちの方へと振り返った。
「あたしたちも…ここで働かせてもらえませんか?」
顔に“?”マークを浮かべたまま、何も反応のない男を見て
「あたしたちも流白村の人たちと一緒に働きたいんです」
もう一度言ったあたしの言葉に“意味がわからない”とでも言うかのように、
男は大げさに目をパチクリさせながら瞬きを繰り返す。
だけどその時、
「見ず知らずの者を組織に入れることはできない」
突然あたしたちの間を阻むように割入ってきたキト。
またこの男…。
こいつは一体なんなんだ?
キス男の護衛?
「見ず知らずの者って…
村の男の人たちだってここで働くんでしょ?」
「あの者たちは命と引き換えにここで働くことを決心してもらった。お前たちも我々に命を預け、この中で暮らす覚悟があるのか?
あるわけないだろう」
「……」
「それに一度入れば、外に出ることは許されない」
なにそれ…。
あたしたちも、あなたたちに命を…預けるですって?
それにここで暮らさないといけないの?
シナリオ外の条件に即答できなかったあたしは、ヒナタとモアと顔を見合わせた。
でも、鏡…
見つけたいのに…。
やっぱり、なんとしても
あたしはこの組織に入らなきゃ。
「カンナ…あたいたちは大丈夫だよ。ここで働こう」
ヒナタとモアは笑顔であたしにそう言ってくれる。
そんな二人を見てギュッと強く唇をかみしめた。
「本当に…いいの?」
コクコクと無言のままうなずく二人に“ありがとう”と心の中で呟いて、恐る恐る男を見上げる。
「わ、わかった…あたしたちも、ここに命をあげたつもりで働く」
“はっ…”って
鼻にかけた笑いを見せて、そっぽを向いたキト。
だけど、奴のそんな態度にめげないよう、キス男から視線をそらさずに、ただ、じっと見上げていたあたし。
視線を絡めること数秒、
意想外にも早い決断をくだしたと思われる男は、何度か小さくうなずいた。
「いいだろう。その言葉に二言はないな?」
改めて体をあたしたちの方へ向けると、強く念を押してくる。
「わ、若様!?なりません!!」
「よい…この者たちの責任は私が持とう」
「若様!!」
キトは、信じられないというような顔であたしと男を交互に見てくる。
「お前…名は?」
「あたしはカンナよ。こっちがヒナタで、この子がモア。あなたの名前は?」
「ここにいるのならいずれわかる」
「はぁ?なによそれ…人に聞いといて自分は名乗らないの?」
「貴様!!誰に向かってそんな口を!!」
「キト…やめろ」
「ですが…」
「せいぜい組織のために働くんだな」
そう言って、バサッと大袈裟に羽織をなびかせると、屋敷の中へと入っていく。
な、なによ!!
なんなのよ、あの態度は。
まじムカツク。
どうしてあんなにえらそうなわけ?
あぁ…でも…。
とりあえずは、ここに入りこむことができた。
早いとこ鏡を探し出さないと。
なんとか屋敷に入ることができて、
あたしたちが案内されたのは、三人で4畳くらいの部屋。
その部屋の中には、
トイレと手洗い場が用意してあって…。
そう…それは、
まるで牢獄のよう…。
「ごめんなさい…二人にこんな思いさせてしまって」
そう言ったあたしにモアは微笑みながら
「あたいの家よりいいわよ。だって隙間風が入ってこないもの」
気にしてないよ、と言うかのように、あたしをなぐさめてくれる。
「あたいは無理。こんなの耐えきれない!!早く鏡を見つけよう」
「うぅっ…ヒナタ…まじごめんっ」
いや、きっとヒナタの言葉が二人の本音。
あたしもこんな牢獄耐えられない。
「くそっ…あの男…なんの恨みがあってこんな扱いを…絶対あたしの鏡、取り返してやるんだから」
もしかして、流白村の人たちもこんな部屋に閉じ込められているのだろうか。
モアのお父さんだっているのに…。
みんなが心配。
でも、夕食は意外にも普通に満足いく量と質だった。
冷たい水を湿らせたタオルで体を拭いて、
その夜、あたしたち三人は、身を寄せ合いながら眠りについた。
※※※※※
ジリィィィィ!!!!!!!!
ジリィィィィィィ…。
ジリィィ
――――
なに…これ…。
うるさい…。
ジリィィィ…
…一体、なんの音?
夢と現実の間で不快な音が耳に入ってくる。
だんだん大きくなってくる雑音に、はっきりと目が覚めて飛び起きた。
「カンナ…おはよう…なんなんだろうね。この音」
もう既に正座をして、起床していたモアは、耳を塞いでいた両手を離した。
「朝かな…? 起きろってこと?」
そういえば、窓がないから今は外が明るいのか暗いのかわからない。
でも、6時間くらいは寝た気がするから、きっと朝なのだろう。
「よくこんな音の中寝てられるわね…ヒナタ!!起きて?」
昨夜、散々牢獄だの文句を言いながらも、
あたしたちが寝ていた毛布を独り占めして、未だ眠りについてるヒナタの体をグラグラと揺さぶった。
「んんっ…なに?…朝?…ってかうるさいこの音!!」
ようやく起き上がったヒナタは、不機嫌に眉間へシワを寄せながら、目をこすってる。
「おなか空いた」
起床そうそう、そんな呑気なことを口にするヒナタに、確かにと同感してうなずいたあたし。
とりあえず、3人とも顔を洗って、恐る恐る部屋から出てみることにした。
廊下の窓から痛いほど射し込んこんでくる光にギュッと目が細まる。
ほんとに朝だったんだ。
「おい!!」
突然、背後から聞こえた声にびっくりして振り返ると
「起こされないと起きないのか…まったく、呆れるにもほどがある」
腕を組みながらこっちを睨みつけてくるキト。
「もう朝食の時間は終わりだ」
鼻にかけた笑いに加え、
そう一言だけ吐き捨てて、どこかへ飛んで行く。
うそ…それってもしかして
…朝ご飯、無し?
あんな不快な音で起こした挙げ句、朝飯抜きなんて。
酷すぎる。
っていうか、あたしたちの仕事って一体なんなんだろう。
そんな疑問を抱えながら、三人で屋敷の廊下をうろうろと歩いていたら、
「ねぇ?あれ…何してんだろう」
「どれ?」
あたしが指さす方へと視線を向けたヒナタとモア。
廊下から見えた中庭の広場では、何百人の人が、両手を顔の前で軽く合わせ、
あぐらを組みながら何かしてる。
あれ?
あの人たち…流白村の人?
芝生にいる人たちに混ざって流白村の人たちも座り込んでる。
一体なにしてるんだろう。
「あぁ…あれは“気”を
一瞬で開放させる技を磨いてるんだよ」
「一瞬で気を開放?」
「そう…あたいくらい鍛えた人間でも普通は5秒が限度…。
どんなに鍛えても、魔力を放出するのに3秒はかかる。
おじいちゃんなんかこないだ計ったら30秒もかかったよ。
襲われたら殺してくださいって言ってるようなもんだよねぇ~」
そう言っておなかを抱えてケラケラ笑うヒナタ。
「だけどほらっ!!あの人たちを見て!!魔力を開放して2秒もかかってない。
そうとう訓練してるよね…どうして金融の組織があんなことを…」
ヒナタとモアは不思議そうに首をかしげていた。
ふーん…魔力の訓練…か。
まぁ…魔力が使えないあたしにとっては、全く興味の無い話だけど。
それよりも鏡を探さないとなんのためにここにきたのかわからなくなる。
「こりゃ部屋一つ一つを探すのは無理だね…凄い数だし」
何部屋かの扉を開けて中を覗きながらそう呟くヒナタ。
確かに東西南北に分かれてる屋敷全ての部屋を探すのは不可能だ。
物置とかにしまってあったら、それこそ見つからない。
でも、だからってあいつらに直接聞くのは危険すぎる。
従業員の人は知らないかな。
聞いてみる価値はある気がする。
だけどもし、従業員の人に聞くとしたら、
怪しまれないよう、普通の会話の中でさりげなく鏡の話しを切り出さないと。
あたしたちは、魔力の訓練とやらが終わるのを待って、とりあえず数人の組織の人に声をかけてみることにした。
「こんにちは」
「あぁ…君たちは流白村の」
「はい。このお屋敷…とても広いですね」
「そうだな。始めは迷子になってしまうかもよ」
そんな会話から始まって、
起床時間や就業時間を聞いたり、
今日の朝食は何だったかなど、たわいのない話をしながら、
「そう言えばこのお屋敷で鏡を…みたことないですか?」
さりげなく…になっているかどうかは怪しいとこだけど、鏡の話しへ持っていってみた。
「鏡? 鏡ってどんな鏡だい?」
「ん~。上半身が映るくらいの大きさで、鳥の模様が描いてある鏡とか…見たことないですか?」
「いやぁ、みたことないよ」
「そうですか。ありがとうございます」
それから何人かの人に聞いてみても
「何色の鏡?」
「知らないなぁ~」
“知らない”“見たことない”ばっかりで、
全くと言っていいほど情報も、手がかりもなにも得られない。
やっぱり、そう簡単には見つかるわけないか…。
はぁぁ。
一体どこにあるんだろう。
…あたしの鏡。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「若様…」
「キトか…」
「あの女が、鏡を見たかと聞き回っているそうです」
「なんだと?」
「どうしますか?」
“鏡を探しているの!!あたしの鏡なんだから”
あいつの鏡?
ふっ…面白い。
「やはり組織に来たのはそのためか。いいだろう。ならば渡してやろう。なぜ鏡を探しているのか知りたい」




