意中の叫び
リシル皇帝Side
――宮殿。
「陛下…申し上げます…」
毎日、毎日…ただ同じことの繰り返し。
もう、すでに忘れてしまった。
何かに希望を持っていた幼い日々のこと。
いつか成しとげたいと夢を抱いていたこと。
そんなことすら、願ってはいけないことだと知ったのは、いつだっただろうか。
どうすることもできないことは、よくわかっている。
なぜなら、ここが、
私の生きる道なのだから。
動くことの許されない、私の居場所。
明かり取りから見える中庭は、退屈すぎるこの地位に丁度いい安らぎを与えてくれる。
春は桜が咲き乱れ、
夏には蝉が鳴き、
彼岸花が赤く染まれば秋を感じ、そして白く寒い冬を迎える。
毎日同じこの場所で、そんな景色を眺めては、時折わからなくなるんだ。
なんのために生きているのか。
ただ呼吸だけを繰り返してる、そんな毎日。
もはや、人としての希望や望みはすでにない。
だから、同じように呼吸だけを繰り返してる草木を見ていると、自分を重ね見ているようで穏やかな気持ちでいられるのかもしれない。
「陛下…も、申し上げます」
「あぁ…」
いつからそこにいたのか、3人の参謀たち。
「流白村で、未だ子供が餓死し続けているとのことでございます」
流白村?
…あの村は、確か…。
「白虎の村だったか…」
「はい。このままでは、村が崩壊するのも近いかと」
真面目な顔で、真剣に訴えてくる参謀を見て、思わず首を傾げずにはいられない。
村が…崩壊する…。
はっ…。何を今さら。
崩壊もなにも、あの村は15年前、すでに力を失っている。
助けるつもりなど初めからないくせに、よくも涼しい顔でそのようなことが言えたものだ。
一体何を考えての発言なのか理解に苦しむ。
私からの、どんな言葉を待っているのか。
――ならば…。
「宮の倉庫にある米を、わけあたえればいい」
私がそう言うと、予想通り困惑した表情を見せた参謀たちは、言葉を詰まらせた。
「し、しかしながら陛下。倉にある米は、この宮に支えているものたちの食料にございます」
「私を含め、毎日あのような贅沢な食事は必要ない」
「で、ですが…」
「子供の命の方が大事ではないのか!!」
威圧するかのように言葉をかぶせた私を見て、参謀たちは、ビクッと肩を動かし、ひれ伏せる。
「ははっ…承知いたしました…」
はぁ~っと漏れたため息とともに力の抜けた体。
そんな私を今度は逆に震え立たせるほど、宮中に響き渡った声。
「それはなりませんっ!!」
その声の主を確認するよりも先に、参謀たちはササっと通りを開けた。
「母上…」
「そのようなことをすれば反乱が起きます」
「ならば餓死する子を見殺しにするおつもりですか?」
「きりがございません。流白村だけに米を与えれば必ず反乱がおきます。それにいつまでその村を援助されるおつもりか?」
「・・・・・・」
母上のおっしゃることはわかっている。
いや、ある意味正しいのかもしれない。
今の日本には流白村のような村は数えきれないほどある。
当然ひとつの村を助ければ、反乱は起きるだろう。
そうやって、今までたくさんの村が壊滅してきた。
一体いつまで、こんなことを繰り返さなければいけないのだろうか。
だが現実、この国の今の財政では、とてもじゃないがすべての村を立て直すことはできない。
どうすることもできないのだ。
「見て見ぬふりをすることも必要なのです」
母上は、冷静にそう言い放ってこの場を去って行く。
そんな後ろ姿をただ目で追っていた。
私は…
――この国の王だ。
日本を司る、青龍の王。
だが…国王であって国王ではない。
すべての権限は皇后である母上にある。
籠鳥檻猿
カゴの中の鳥、
おりの中の猿。
これ以上に似合う言葉はないだろう。
それは…今の私のことだ。




